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大将、聞いた? ―みんな見てる夢―  作者: 藤一


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10/15

あの店、どこかで

休みの日、気分転換に、埼玉の奥地にある神社まで足を伸ばした。時々思い出したように訪れる場所だった。特別な信心があるわけではない。ただ、境内の静けさが好きだった。

参道の入り口に、小さな蕎麦屋がある。ここに来た時は、決まってこの店に寄る。

暖簾をくぐりかけて、足が止まった。

――この景色、知っている。

いや、正確には違う。知っているのではなく、これと同じ場所に、確かにいたことがある。そんな感覚だった。店の造り、柱の位置、奥の座敷の暗さ。何度も来ているから覚えているのは当然だ。だが、この既視感は、それとは種類が違った。

もっと最近、もっと生々しい感覚で、この場所にいた気がする。

「いらっしゃい」

女将の声に、我に返った。いつもの席に座り、いつもの注文をする。

「鴨南蛮蕎麦、ひとつ」

「はいよ」

女将が厨房に消える。参拝で少し歩き疲れていたのか、座敷の座り心地の良さも手伝って、まぶたが重くなってきた。少し目を閉じるだけのつもりだった。


見覚えのある場所。安心できる誰か。何をすべきか、分かっている。

その感覚が、また来た。


「ちょっと、蕎麦できたよ」

肩を軽く叩かれ、跳ねるように目を開けた。

女将が、湯気の立つ丼を前に立っていた。

「随分気持ちよさそうに寝てたねえ」

「あ……すみません」

目をこすりながら、周りを見回す。いつもの蕎麦屋だった。柱も、座敷も、さっきまでと何も変わらない。

だが、確信していた。

さっきの、ほんの数分の眠りの中で見たのは、あの夢だった。そして、その舞台は――この店だった。

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