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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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9/21

教導訓練 S

 ロニールの1日は瞑想から始まる。


 人生に様々なメリットをもたらす瞑想は前世からの習慣であったが、現在は《身体強化》に習熟する目的もあった。

 彼は体内の魔力に意識を向け、感じ取ると、全身に馴染ませていく。肉体を構成する器官、組織、細胞を可能な限り明確にイメージする。特に筋肉。その全てを強化する意識で《身体強化》を維持、安定させる。


 《身体強化》は自らの肉体を魔力で強化する技術だ。その効果は身体能力や五感の強化、肉体強度の向上などである。

 魔力量の少ない彼が拙い《身体強化》を発動すると、肉体に留められなかった魔力が外へと放出され、魔力がすぐに枯渇してしまう。現段階では動作中の《身体強化》などまともに維持ができないと悟った彼は、瞑想時という静止状態で、集中して訓練することにしていた。

 スキルとしての《瞑想》の効果、集中力や魔力制御能力の向上もあり、何かと都合が良いのだ。


(もっと魔力量があれば、魔力が漏れ出ても問題にならないんだろうな。馴染む魔力の濃さも、纏う厚みも変わるんだろうか)

 集中状態で、そんなことを考えたロニール。

 しかし、ないものねだりは無駄なこと。今あるものを使いこなしていくべきなのだ。そもそも、魔力と引き換え以上のものを持っているのだから。


 朝は瞑想。昼までは冒険者活動。他の時間はトレーニング。

 そして時々、王国軍の教導訓練に参加する。

 こうして彼の1日は回っていくのだ。



 〇



 昼下がりの町。


 城塞のそばにある広い空き地に集まる人々。子どもや若者が多くを占めており、そこには午前中の冒険者活動を終えたロニールの姿もあった。

 整列した彼らの視線の先には兵士たち。

 これから王国軍による教導訓練が始まろうとしていた。


 教導訓練とは、有事の際に市民が自らの身を守るための戦闘能力を身に付けさせる、という目的のもと行われているものだ。頻度は週に3回、参加は6歳以上であれば誰でも可能だ。

 6歳のロニールは、早速参加を始めていた。


 有事の際のための訓練ではあるが、周囲を魔棲界域に囲まれ、開けた南方も海までソシトラス王国領が続くこの町は、他国の侵攻を直接受ける可能性は低い。

 最も懸念されることは魔棲界域からの魔物の氾濫、スタンピードであるが、それも町の成立以来大規模なものは起こっていない。

 とは言え、事が起こる前から備えるのが訓練であるし、王国軍としては優秀な人材を引き入れるチャンスでもあった。


「本日も、よろしくお願いします!」

「「「よろしくお願いします!!!」」」

 市民代表者の声に続き、整列した人々が兵士に挨拶をし、訓練が始まる。


 訓練の最初は体力作り。訓練場の外周を各々走るのだ。


 20分ほど走り身体が温まったところで、次は筋力トレーニングだ。

 腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットなどの基本的なもの。また、重りをロープで引き寄せ、引き寄せた重りを押し戻すといったものまで、多様な種目が取り入れられている。


 トレーニングの後に素振り、そして最後に打ちあい、いわゆる掛かり稽古となる。

 これらは各自の練度や筋力に応じて木剣または鉄製の刃引きされた片手剣で行われ、掛かり稽古における元立ちにあたる者は盾を装備して打ち込みを受ける。

 皆一斉に決められた動作で剣を振るう中、兵たちが巡回して指導に当たるのだ。


 ロニールはこれらのトレーニングや訓練を嬉々としてこなしていく。

 普段はトレーニングを独りで行い、それを心から楽しんでいる彼だが、こうして集団で行うのも特別な雰囲気があって良いものだな、と思っていた。


 自由参加の教導訓練。

 自発的に取り組む人たちが作るこの場の空気感が、悪いわけがない。


 〇


 ロニールにとって3回目の教導訓練。

 トレーニングが終わり、素振りのために木剣を取ろうとした彼に、兵の1人が声を掛ける。


「あっ、そこの君!」


「……?はいっ!」

 声を掛けられているのが自分だと気づいたロニール。

 反応が遅れた焦りから、威勢のいい返事になった。


「いい返事だ!」

 20代半ばの男性兵士は満足そうに頷いて言った。

「君、名前は?」


「ロニールです。」


「ロニール君か。私はカイウス・ベルモンドだ」

 彼は律儀に自己紹介を返した。


(カイウスさん、いや、カイウス様か。家名を持つあたり貴族だもんな。それにしても、さっぱりした人だな)

 ロニールは思った。

 貴族と直接関わったのは初めての彼だったが、勝手にイメージしていたような傲慢さは感じられず、ただ爽やかな印象を受けた。


 カイウスは続ける。

「ロニール君、君は木剣をやめて、鉄の剣にしよう。前回君の素振りを見ていたんだが、木剣を小枝みたいに振っているね。筋力は充分だから、これからは本物に近い重さでやった方が上手くなるよ」


「分かりました」

 ロニールは言った。

「ところで、素振りの型はどうでしたか?指摘を受けたことが無いのですが、私は正しい動作が出来ているんでしょうか」

 彼にとっても木剣は軽かったが、剣術初心者としてまずは正しいフォームを身に付けることを優先すべきだと思っていた。そのため負荷のことは置いておき、訓練に参加している人々の手本として剣を振り続けている兵の動きを模倣することに注力していた。


「出来ているよ、大丈夫。前に立っていた者の動きを完璧に再現出来ていたさ」

 笑いながら、カイウスは言った。

 ロニールの取り組みは模倣の域を超え、その身体能力によって完璧な再現となっていた。

 カイウスは続ける。

「次は重さに慣れること。そして手本なしで出来るようになれば、剣術の基礎としては充分だよ」


「分かりました。頑張ります」

 ロニールが言った。

(手本なしで、か。真似した人の動きなら、もう見なくても出来るな)

 この肉体が記憶しているから。


 そして始まった素振りの中、ロニールは考える。

 いくら人の動きを模倣し再現しようとも、それは外面をなぞっているに過ぎない。

 大切なのは本質だ。定型や基礎の中から本質を捉えてこそ、その先の応用や成長に繋がっていくのだ。

(本質を掴むべし)

 ヒュンッ!……ヒュンッ!と、木剣でも扱うかのように軽々と鉄の剣を振りながら、彼はそう心する。


 今日の模範兵の動きも「完コピ」したロニールの鋭い剣圧。

 周囲の者は冷や汗を流し、ロニールを後ろに控える者は、自らの身体が背後から鈍らの剣で無理矢理に断ち切られる姿を幻視した。



 〇



========

【名前】ロニール

【種族】鬼人

【スキル】

 《泳術》Lv4

!《解体》Lv1

!《剣術》Lv2

!《採取》Lv1

 《算術》Lv4

 《身体強化》Lv3

!《収納》Lv1

 《生活魔法》Lv1

 《清掃》Lv4

 《走術》Lv4

!《盾術》Lv1

 《超回復》Lv5

 《調理》Lv4

!《追体》Lv1

 《投擲》Lv2

 《瞑想》Lv4

 《漁》Lv1

========


 《剣術》

【剣を扱う際の身体動作を補正する。剣での攻撃に特殊な効果が付与される。】

【熟達すると動作の補正効果が上昇し、特殊効果も強力になる。】


 《収納》

【物体を特殊な空間へ格納し、必要時に取り出すことができる。許容重量を超えると、超過分の重量が肉体に反映される。】

【熟達すると許容重量が増え、超過時の重量も軽減される。また、格納可能距離が伸び、格納空間内の時の流れを制御できる。】


 《追体》

【他者の身体動作を自身の肉体で再現し、記憶する。】

【熟達すると精度が上昇し、より複雑な動作を再現、記憶できる。】


 《瞑想》

【集中力を高め、感覚や知覚の精度を向上させる。また、精神疲労、肉体疲労、魔力を回復する。】

【熟達すると、感覚や知覚の精度がより向上する。また、精神疲労、肉体疲労、魔力の回復効果が大きくなる。スキルの発動が容易になる。】

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