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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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模擬戦

 冒険者稼業を始めて半年が経ったロニール。


 相変わらず鍛錬の日々を繰り返す彼は、教導訓練後の王国軍兵士たちと共にいた。彼らとの模擬戦のために。

 模擬戦は教導訓練の内容には含まれていない。しかし、一定以上の技量を兵士に認められ、かつ希望する者は訓練終了後に参加できるというものだった。


「お願いします」

 挨拶の後、刃引きされた片手剣を構えるロニール。

 左手には前腕を覆うほどの盾を持っている。


「お願いします」

 応えたのは、ロニールにとってすっかり馴染みの人となったカイウスだった。

 彼もまた、片手剣に盾という出で立ち。


 開始の合図を聞いたロニールはカイウスへと飛び出し、一瞬で距離を詰めると遠慮なく打ち込んでいく。《身体強化》は使わない。

 現在の彼が《身体強化》を用いてする戦い方は、極短時間の強烈な力押しだ。パワーを押し付けて勝ち、もしも対応されて魔力切れになったら負ける。そんなやり取りを繰り返しても、学び取れることは多くないだろう、と彼は考えているのだ。

 強みはフィジカルただ1つ。魔法でカバーなど出来ないのだから、技術を磨き、確実に張り合わなければならない。


 カイウスはロニールの速く重い攻撃をいなし、時に受け止め、捌いていく。ロニールに受け手の技術を見せるように少しの間守勢に立っていた彼は、一転して攻勢に出る。


 必死に守るロニール。直前に見たカイウスの防御を再現するように、攻撃を捌いていく。激しく打ち込まれる剣から伝わる衝撃が盾を貫通し、打ちあった剣を伝い、彼の両腕を痺れさせる。

 防戦一方の状況に、次第に追い込まれていくロニール。切り返さなければならない。しかし、その隙が無い。

 甘くなった守勢を咎めるように、彼の剣がカイウスの盾に跳ね上げられる。一瞬、がら空きになる胴体。


(前蹴りがくる!)

 カイウスの次の攻撃を予想したロニールは、必死に自分の盾を胴体に滑り込ませる。

(耐えられるか?この崩れた姿勢で。無理だ)

 このまま盾で受けても、カイウスの強烈な蹴りに吹き飛ばされて終わりだろう。ならば、やられる前にやる。

(知恵捨トぉ!!!)

 彼は跳ね上げられた剣を、カイウスの脳天に向け振り下ろす。

 寸止めはするつもりだ。当たりそうなら。しかしその必要がないことは、心のどこかで分かってしまっている。


 前蹴りは放たれることなく。カイウスはロニールの唐竹割りを剣で滑らせるように下方へいなすと、身を返すように彼の背後を取り、滑らかに、そして素早く旋回させた剣をその首元に添えた。


「参りました」

 ロニールは立ち上がると、残心を解いたカイウスに正対して言う。

「ありがとうございました」


「ありがとうございました。着実に成長しているね、ロニール君」


「そうでしょうか……私は何か出来ていましたか?」

 あっさりと負けましたけど、とロニールは思った。

 兵士たちから学び得たものは多く、今では勝つことの方が多い。制限の多い模擬戦の中で、兵士たちがどれほど実力を発揮できているのかは分からないが。しかし、兵士たちから「隊長」と呼ばれているこのカイウスには一度も勝っていないのだった。


「いやいや、充分さ。本当に。自信を持ってこれからも励んで欲しい」

 涼しい顔で爽やかにカイウスは言った。

「ところで、ロニール君は冒険者志望なんだよね?」


「はい、そうです」


「王国軍に入るつもりはない?」


「そうですね……」

 ロニールは考える素振りを見せた。しかし、もちろん入るつもりは無い。

(国に尽くしたいわけじゃないからなあ)

 彼はただ、角の立たない答えを考えていた。

「私の動機となっているのは、自己実現の欲求と未知への好奇心です」

 直接答えを返すのを避け、前置きから始めるロニール。

「霊峰ヒストリーチの踏破。これを現在の目標に掲げています。そして目標達成のための最適な道とは、冒険者だと考えています。それに、国のために尽くすこと自体に積極的になれないような人間は、兵士として不適かと思います」


「なるほど……」

 ロニールの丁寧な拒否の返答を聞き、しばし考え込んだカイウス。

「そうか、分かった。どうであれ、これからも訓練にはぜひ参加して欲しい」

 彼はあっさりと引き下がった。しかし、諦めたようには見えなかった。



 〇



 1日を終え、宿舎の自室で休んでいる小隊長カイウス。

 6畳程度のその部屋には、簡素ながらしっかりした作りのベッドと執務用の机、手入れされた数種類の武器に、革を基調とした鎧、あとは私物を納める収納が置かれている。


(彼は……凄まじいな)

 彼は、鬼人ロニールのことを考えていた。

 半年前、訓練で初めて見た彼は木剣を尋常ではない速さで振っていた。それは始動と停止の瞬間を交互に見ているかのようだった。力自慢(その域を逸脱していたが)の子どもにありがちな力任せの動きかと思ったが、見てみれば部下の動きを完全と言えるレベルに再現していた。


 強く興味を引かれたカイウスは、ロニールに目をかけるようになった。すぐに木剣から鉄の剣に変えさせ、模擬戦に興味ありと見たならば即座に引き込んだ。

 結果として、彼は戦いの経験を経て加速度的に成長していき、ここ最近では精強な部下と渡り合い、いや、凌駕している。


 確かに、あくまで模擬戦であり実戦とは別物。武器は限定されており、魔法も制限されている。部下たちは実力の半分も出してはいないだろう。とは言え、どのような事情があろうとも、年端も行かない子どもが模擬戦で正規兵に、それも『戦闘団』の兵士に一度でも勝利するなど、通常あり得ることではない。


 しかし、それによって彼がいい気になるかと思えばそうでもない。

 謙虚な姿勢を崩さない態度からは「確かに勝ったけど、あなたはどこまで本気だったんですか」とでも言いたげな貪欲な心情さえ感じられる。

 鬼人として生まれ持ったであろう特性という骨格を、不断の努力で肉付けしたような強靭な肉体。そして、成熟した精神性。


(彼が我々と共に鍛錬を積んだなら、いったいどこまで「至る」のだろうか)

 カイウスは見てみたかった。しかし、ロニールは冒険者としての道を歩むつもりらしい。


(霊峰ヒストリーチの踏破、か)

 それが冒険者を目指す動機である、とロニールは言っていた。

 確かに世間的には、霊域探索の最前線は冒険者ということになっている。軍の活動はすべてが公にされているわけではないから。

(我々が樹海を抜け、霊峰に到達していると知ったら。彼は考えを改めてくれるだろうか。強引に軍に引き入れるつもりはないが、我々と共に来ることは彼にとっても都合がいいのではないだろうか)

 そう考えたカイウスは、少しだけ手を回すことにした。

 あわよくば、ロニールが心変わりすることもあるだろうから。

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