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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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39/41

鬼は闘争を求める

「……ル!大丈……ロニ……!!」


 誰かの呼び声に、意識が覚醒していく。

 ロニールが目を開けた先には、ヘルマン。


「気が付いたか!」

 必死ながらも、僅かにほっとしたような表情を見せたヘルマン。


「ゲホッ!……ええ……はい」

 仰向けで地面に転がっているロニールは、吐血しつつも何とか声を発する。

 身体が重く、動けない。全身、内臓に至るまでが燃えるように熱い。インフルエンザに罹ってキツさのピークを迎えた時のようだった。

 彼自身は見ることが出来ないがその身体は血塗れで、まっすぐに伸ばされた手足の様子もどこか不自然だった。


「重症だ。ポーションは飲ませたが、動こうとはするな。運んでも問題ない程度に回復したら私が後方に連れていく」

 ヘルマンが言った。


 ヘルマンがロニールの下に到着した時、ロニールは気を失っており瀕死の状態だった。

 ミノタウロスのあの蹴りをまともに食らって原型を留めていること自体が驚くべきことではあったが、しかしとにかく生きてはいる。ヘルマンは速やかに最高級治癒薬を飲ませた。

 そして彼は、骨折のせいであらぬ方向を向いていたロニールの手足を、治癒がスムーズに進行するようになるべく真っ直ぐに形成する。

 地面を転がって出来たのであろう切り傷から流れる血は痛々しいが、問題なのは口から流れ出ている血だ。内臓の損傷によるものだろう。

 早く治ってくれ、と彼は願いながら、ロニールの身体には触らずに声をかけ続けた。

 そしてひとまずのところ、ロニールの意識は回復したのだった。


「……ありがとう、ございます……もう少し……時間が、かかりそうです」

 ロニールは治癒薬の効果と同時に、《超回復》の作用も感じ取っていた。重なる2つの感覚から、自身の身体の状態を把握できていた。

 全身骨折。特に左半身。そして内臓破裂。満身創痍。しかし、ポーションとスキルのおかげで着実に治りつつある。シナジー効果か、凄まじい回復速度だ。

 彼は真っ先に内臓を治癒させるよう、《超回復》スキルを集中させる。ポーションでもスキルでも、回復にはエネルギーが必要だから。

「……ヘルマンさん。携帯食料を、食べさせてもらえませんか?エネルギーが必要です」

 彼の両手から干し肉やビスケットが現れ、周辺に転がる。

 彼の意識ははっきりとしており、発する言葉もスムーズになっている。力が戻り始めている。


(《超回復》か!)

 予想よりも格段に速いロニールの回復に驚きつつ。

「分かった」

 ヘルマンは答え、まずは自分が持っている食料を次から次へとロニールの口に運んでいった。

 安静にしておけ、焦るな。そんな無駄口は挟まない。目の前の子どもはすでに戦闘団でもトップクラスの戦士なのだ。食事をとること、それが最善なのだろう。


(……負けたな)

 食事を続けながら、ロニールはミノタウロスとの戦いを思い出す。

 ミノタウロスが使った魔法は《身体強化》のみ。条件は自分と同じだった。いや、それどころかこちらが人数優位。

 仲間の助けを借りていながら、自分の土俵で、完全な敗北を喫した。


 内臓が完全回復した彼は、今度は両腕を集中的に治す。

 折れた骨はひとりでに正しい位置に復元され、繋がっていく。それに伴って激しい痛みが襲う。


(フィジカルが自分の最大の強みだというのに。なんて情けない)

 それが通用しないなら俺は何なのか、と彼は思う。まともに魔法が使えないのだから、それを補って余りあるべきなのに。


 両腕が回復した彼は、自らの手で食事を続ける。全身の完全回復を目指す。


(許せない)

 ミノタウロスに恨みは微塵もない。

 自然界には善悪も正義もなく、ただ生物が暮らし、生存競争が行われているだけだ。

 むしろ、悪というならそれはこちらのことだ。外界に生活圏を築いておきながら、勝手に押し入っているのだから。何が起ころうとも文句を言う筋合いはない。

 ただ許せない。無様に負けた、弱い自分が許せない。


(勝ちたい)

 そして、自分の存在意義を取り戻したい。

 それは生存競争でもなく、救うべき誰かのためでもない。完全なる利己心。

 それでも、己が人生のために絶対に手にしたい勝利なのだ。


 しかしこれ以上何ができるだろうか、と彼は考える。

 素の身体能力は今すぐ変えられるものではない。

 《身体強化》も技術的には完成しているものだし、魔力量は変えられない。


(……いや、魔力量か。取り込める魔力なら、ある)

 どうなるかは分からない。でももしも上手くいった暁には、外界から押し入ってこんな手を使ってまで勝ちにいく、どこまでも身勝手な俺を許して欲しい。彼はそう思った。


「完全回復です。ありがとうございました」

 ロニールはヘルマンにお礼を言い、ごちそうさまでした、と手を合わせるとスッと立ち上がった。


「……復帰するのかい?」

 聞くまでもないことだったな、とヘルマンは思った。見れば分かる。ロニールはやるつもりだ。


「はい。リベンジしてきます」

 ロニールは全速力で走り出した。


※2話更新 1/2(18時 2/2)

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