表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/41

自然界に壁はない F

 ロニールはバットだけを持ち、ミノタウロスと正面から向き合う。

 意識するのは、いわゆる避けタンク。

 大盾であろうとまともに攻撃を受ければ終わりだというのなら、小盾すら装備せずに攻撃を避け、捌く。隙が見えれば両手で握ったバットでキツい殴打をお見舞いし、ミノタウロスの注意を引くのだ。

 先ほどは剣による斬撃の方が効果的に見えたが、打撃が無意味ということはないだろう。《剣術》よりもスキルレベルが高くなっている《槌術》を使ったほうが、結果として優位性は高いはずだ。


 ロニールがミノタウロスに踏み込む。

 圧倒的な体格差により、高い位置から繰り出されるミノタウロスの右フック。

 高速で迫る硬質な拳を前に避け、一段と踏み込んだロニール。身体の後ろに強烈な風圧を感じながらも、ミノタウロスの右脛にバットを叩き込む。

 金属同士が激しく打ち合わされるような音に、しかしミノタウロスはノーリアクション。

 ミノタウロスは足元のロニールを捕まえようと手を振り回すが、小柄で素早いロニールはするりとミノタウロスの後方へ抜ける。その時に見えたミノタウロスの両脚背面には確かな切創。それはカイウスと、剣に魔法を纏わせたティークによるもの。


 的確に打撃を打ち込みながらミノタウロスの足元を動き回るロニール。ミノタウロスはその対応に夢中になっている。

 カイウスとティークはミノタウロスに新しい傷を付け、そしてすでにある傷を深くしていく。


 戦いを見守る第5分隊と第7分隊。いつでも参戦できる心構えではあるが、超攻撃的な第1分隊とミノタウロスの攻防は非常に激しく、おいそれと加勢できるものではない。下手に手出しをすればかえって邪魔になる可能性もあった。


 不意に、ミノタウロスから魔力の気配。

 体内を循環するそれは、《身体強化》の特徴。

 ミノタウロスの動きが一段とキレを増す。そして、ターゲットがロニールから周囲へと移っていく。


(マズい。ターゲットがとれない)

 自分への注意が逸れ始めたミノタウロスの反応を見て、ロニールは焦りを感じていた。打撃の効果は相変わらず感じ取れない。いっそ不自然なほどのノーリアクション。

 もしや打撃を無効化するようなスキルでも持っているのだろうか、と彼は考えた。とにかく、剣での攻撃を重ねられるようにターゲットを取り返さなければならない。


 彼はさらなるパワーを求めて、自身の《身体強化》に変化を加える。

 彼の《身体強化》は循環ではなく圧力。ギチギチに締め上げたリフティングベルトに強化される腹圧と、それに補助される体幹のような。

 体表から内側へと加えていた魔力の圧力を、筋肉から内側へと変える。纏う魔力量は変わらないが、作用させる範囲を僅かに狭めたことで魔力の密度は増し、《身体強化》の効果が上がる。

 体表の肉体強度は下がるが、表面的なダメージならあとでどうにでもなる。


 カイウスはミノタウロスの攻撃を集中して的確に躱し、攻撃を積み重ねる。

 額に汗をにじませる彼の心の内には、とある疑問が浮かぶ。

(なぜここに来て唐突に、ロニールから意識を逸らす?)

 ミノタウロスが斬撃のダメージを無視できなくなってきたのだろうか。いや、そもそも打撃を気にしないのなら、最初からロニールに構わずに剣士を潰せばいい。ロニールのパワーでの急所への攻撃は、打撃と言えども避けたかったのだろうか。それが《身体強化》によって本格的に気にしなくてよくなったのか?

(……分からない。ただ何となく嫌な感じだ)


 ロニールは、ミノタウロスの注意を引き戻そうと攻勢を強め、よりインファイトに。

 しかし一向に効果が無い。ガン無視だ。

(……そんなに気にしないなら、全力の一撃をお見舞いしてやるよ)

 彼は全力で踏み込み、ミノタウロスのふくらはぎ、カーフめがけてバットを振りかぶる。


 その姿を、ミノタウロスはしっかりと視界に捉えている。


 ミノタウロスの《身体強化》の強度が跳ね上がる。

 一瞬でロニールを振り返り、低く身を屈めたミノタウロス。同時に、爆速の水平フックを右腕で繰り出す。それは丁度、ロニールの上半身を巻き込む高さ。


(速いっ!)

 対応を迫られるロニール。

 前に出れば拳を躱しても腕に巻き込まれる。

 拳の軌道が絶妙に高いため飛ぶのは間に合わず、それに空中は無防備になる。

 しっかりとしゃがみ込むか。いや、近付き過ぎていて次の攻撃に対応出来ない。

 下がるしかない。しかし、数歩のステップでは距離が足りない。

 彼は空中の隙を最小限にするよう、可能な限り低空を跳び退いた。


 ロニールの足が地面を離れた瞬間、ミノタウロスはフックを地面に突き刺した。その腕を支えに、地面を薙ぐような右脚の蹴り。

 フックからの一連の動き。迷いがなく滑らかなそれは、全て予定されていたのだろう。

 《身体強化》のパワーと、フックで起こった身体の勢いを乗せた蹴りは、僅かな滞空状態にあるロニールに瞬間的に到達した。


 対応不可。

 強烈な蹴りに吹き飛ばされたロニールは、一直線に木々の中へと消えていった。


「ヘルマン!!!」


「はい!」


 カイウスが叫んだ時にはすでに、ヘルマンはロニールを追って走り出していた。


「ケイル!入れ!」


「はい!」


 カイウスは続けて声を張り上げ、ケイルを呼び寄せる。

 戦いは続いている。動揺している暇はない。目の前の敵に対応しなくてはならない。

 彼は蹴りを終えて身体を横たえたままのミノタウロス、その低い位置にきている首元に剣を振り下ろした。


 ミノタウロスは片手で首を覆う。腕が切りつけられ、血が流れる。

 その後も急所を狙った斬撃が重ねられる。しかしそのたびにガードを固めるだけで、立ち上がろうとはしない。

 ヴオォォォ━━!!!

 咆哮と共に腕を振り回すミノタウロス。


 剣士たちは距離をとり、警戒心を強める。


 ミノタウロスの傷がまたしても治癒していく。そして、ゆっくりと横たえていた身を起こし、立ち上がった。

 傷は回復していたが、何故かよろけている。まるで脚のダメージをかばうように。


「……っ!こいつ!!!」

 ティークが思わず叫ぶ。


 同時に、全員が理解した。

 ロニールが与えていた打撃こそが有効だったのだ。それを隠し続け、ロニールを排除するための状況を作り上げ、ついに成功させた。

 恐らく、出会い頭の初撃からだろう。あの時点でロニールを最大の脅威と見て、ブラフを仕込んでいたのだ。

 巧妙な戦闘の駆け引きからは、知能の高さが伺えた。


 このミノタウロスは深層最上位どころではない。

 恐らくその先、霊峰から来た個体だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ