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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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深層の長い1日 F

 中層と深層を行き来して数日。

 少しずつ、霊峰に近づいた位置での行動が増えていく。

 それに伴って、魔物たちの生物としての営みはより活発に、激しくなっていった。


 カイウスと並んで先頭を歩くロニールは、高速で飛来するものを掴み取る。

 アローバード。細長く鋭利な嘴で獲物を貫き、糧とする鳥だ。ロニールはこいつのことを、狩りに積極的な空飛ぶホーンラビットのようだ、と思っていた。味は大変美味しい。


 速やかに絞め、分隊に支給されている〈マジックバッグ〉に納める。《収納》のように、やろうと思えばいくらでも詰め込めるというものではなく、容量は限られている。しかし、時間経過をある程度抑制してくれるため、食料はここに入れることになっている。《収納》と同様に、内容物が混ざりあうことはない。


 また進んでいくと、小さな水場。

 色鮮やかで美しい毒草が群生し、その付近には負けず劣らず色鮮やかで毒々しい見た目のカエルが佇み、喉を動かしている。その体長は1メートルほど。

 ポイズンフロッグ。サーペントが好んで餌にするカエル。食用にはならないが、強力な毒をもつ素材が得られる。

 狩猟の必要がないためスルー。基本的に穏やかなヤツらで、近付き過ぎなければ戦闘に至ることもない。


 大木の枝に納まり支えられるように鎮座する巨大な蜂の巣と、その周囲を飛び回る体長30センチ程度の蜂。

 キラービー。攻撃的なヤツら。強力な毒を持っており、大群で襲ってくるため非常に厄介。ただし火に弱いため、《火魔法》が充分なレベルで使えれば一転して対処は容易になる。主な素材は毒と毒針。ミツバチではないため巣から蜜は採取できないが、蛹は高級食材。

 狩猟の必要がないため、巣を避けて通過。


 深層では多様な魔物を見るが、中層や浅層から馴染みの魔物が大半だった。

 その生態は大きく変わるものではない。しかし霊峰に近づくにつれ、身体能力や魔法力、耐久性などの生物としての能力は格段に強くなっていく。

 習得しているスキルもより多く、より高レベルになっているのだろう。


 大木の根本でキノコを貪る巨大な猪。その体高は2メートルほど。

 ジャイアントボア。巨大な牙と丈夫な毛皮が素材となる。そして肉は食用で、大変美味しい。

 しかし攻撃的で、そして走り回って暴れる森の賑わし屋。見つかった時点で戦闘に発展し、速やかに終わらせなければ状況が連鎖することは必至だ。


「狩ろう」

 と、カイウス。


 ジャイアントボアは感覚に鋭く、スルーしようにも気付かれる可能性が高い。そして、他の魔物と騒ぎを起こされると、それはそれでリスクだった。


 先陣はロニール。《身体強化》を用いて全速力で接近する。《隠密》も併用して気配をなるべく殺すが、到達前に気づかれる。しかし大丈夫。ジャイアントボアの突進の加速距離を潰せればそれでいい。《収納》から大盾を出す。


 敵の接近に気が付いたジャイアントボアは、大木から身を翻し、敵に向かって即座に走り出す。

 その巨体の重量と巨大な牙での突進攻撃はしかし、突っ込んできたロニールの大盾に止められてしまう。


 ドォン!!!という衝撃音と共に、ビタリと拮抗する押し合い。


 動きを止めたジャイアントボアの真横にカイウスが現れ、剣を上段に構えた。


 ジャイアントボアが強烈な危機感に反応する直前。静かに、そして一瞬で剣が振り抜かれる。


 一拍置いて、ジャイアントボアの頭が落ち、巨体は地面に横たわる。落ちた頭は巨大な牙に支えられ、どっしりと前を見据えていた。


 狩った獲物を速やかに回収し、一時的に身を潜める第1分隊。ジャイアントボアとの戦闘は短時間で終わらせることができたが、周囲への影響を見極めているところだった。


「よく止められるよな、あんなの」

 ティークが声を落としつつ、ロニールに言った。

 あんなの、とはジャイアントボアの突進のことだ。

 中層のジャイアントボアの突進であっても、食らえば全身の骨は砕け、内臓にも深刻なダメージを受ける。ましてや今回は深層のジャイアントボア。盾で受けているとは言え限度があるというものだ。


「スキル様様ですよ。《身体強化》と、特に《盾術》ですね」

 ロニールとて、あの暴走大型地走車のような突進を完全生身で受けきることは出来ない。……今はまだ。

 速度を発揮させないようにした上で、《盾術》スキルの『衝撃軽減』『不動』『反発力』などの能力拡張効果を発揮したからこそ可能な芸当だ。

「それを言うなら、自分はカイウスさんの一刀両断にこそ痺れましたよ。あの強靭な毛皮を」


「それこそスキルの効果さ、《剣術》のね。さて、そろそろ大丈夫そうかな」


「問題ありません」


 そのヘルマンの言葉に、第1分隊はまた歩き出した。



 〇



 第1分隊の眼前には、いくつもの魔物の死骸が転がっていた。

 大型の猿の魔物であるキラーエイプと、毒を持つ大型の蜘蛛の魔物であるジャイアントスパイダー、そしてキラーベアにダイアウルフ。

 ダイアウルフはシャドウウルフとは別種で、魔法を使うことはほとんどない。代わりに、純粋な身体能力に秀でている。


 第1分隊は、ついに本格的な連戦を経験することとなった。


 発端となったのはキラーエイプとジャイアントスパイダーの争い。戦況が芳しくなかったのだろうキラーエイプは鋭くも、離れた位置にいた第1分隊の気配を察知し、ジャイアントスパイダーを誘導して混戦に持ち込んだ。

 戦いを擦り付けたものの獲物は横取りされたくなかったのか、それとも共倒れさせたかったのか、キラーエイプは逃げるでもなく第1分隊とジャイアントスパイダーの戦いを徹底的に邪魔し始めた。


 第1分隊は妨害を受けながらもジャイアントスパイダーを無理矢理気味に殲滅し、お次はキラーエイプをブチ殺さんと木から引きずり下ろしたところで、キラーベアとダイアウルフが合流。まずはキラーエイプに永遠の沈黙を強いると、そこからは純粋な混戦となった。


 ダイアウルフに纏わりつかれるキラーベアが振るう爪からは、強力な斬撃が放たれた。爪攻撃のスキルと、恐らく《風魔法》の併用か。飛ぶ斬撃は、第1分隊を囲むダイアウルフをも襲った。

 3つの勢力の中で最初に劣勢になったダイアウルフは、仲間を数匹失うと逃げていった。


 残ったのは第1分隊とキラーベア。


 突進してくるキラーベアに、ロニールもバットを構えて距離を詰めた。鈍鉄球を投げつける隙は無かった。

 お互いに接近すると、キラーベアはロニールに覆いかぶさるように立ち上がり爪の連撃を繰り出した。

 ロニールは頭上から襲いくる爪と斬撃を、集中してしっかりと回避。その攻撃は、いつかの従魔師が従えていたものとは段違いに速かった。キラーベアが攻撃に振り抜いた前脚を見切り、潜りこむと、後ろ脚にフルスイング。

 体勢を崩すキラーベア。

 その隙を逃さず、カイウスの鋭い切り込み。キラーベアの首を深く切り裂いたが、充分とは言えない。

 キラーベアは、今度はカイウスを狙って攻撃を仕掛けた。

 当たり判定が伸長している爪と、不可視の斬撃までも把握して、最小限の動きで攻撃を避けるカイウス。彼もまた攻撃の準備を整え、何かを待つ。

 カイウスの危うさに気を引かれるキラーベア。その後頭部に、後方から飛び上がったロニールによるバットの振り下ろし。

 鈍い音が響き、キラーベアがふらつく。

 カイウスの2度目の斬撃が、今度こそキラーベアの首を完全に断ち切り、一連の戦闘を終えたのだった。


「くっそ……猿共がよ……!」

 返り血と汗に濡れるティークは、この惨状の元凶である魔物に毒づいた。戦闘で上がっていた息は治まっていた。

 彼はポーチから魔力回復薬を取り出し、呷る。この戦闘を通して3本目だ。体内に魔力が満ちていく感覚に安心感を覚える。外傷はほとんどないが、一応治癒薬も飲んでおく。


「さすがにヒリヒリしたね」

 剣を納め、カイウスが言った。彼もまた汗に濡れている。

「しかしよくやった、ティーク。今回の戦闘で最大の功労者だ」


 カイウスの言葉に、ヘルマンとロニールも頷く。


「へへっ、気持ちはありがたく受け取っておきます」


 ジャイアントスパイダーの糸の拘束と、口から射出する毒攻撃。キラーエイプが木の上を移動しながら放ってくる各種魔法。それらのほとんどに魔法で対応し、ジャイアントスパイダー殲滅の足掛かりを作ったのはティークだった。

 キラーベアとダイアウルフの到達前にひとつの戦闘を終えられたのは、彼のおかげで間違いない。

 キラーエイプへのヘイトのあまり、戦闘終了後には毒づいて死体蹴りでもかましそうな勢いだったが、戦闘中は極めて冷静に、淡々と対応し続けた。

 戦闘中に感情のコントロールを手放すことは絶対にない、1流の戦士なのだ。


 なるべく早く場を離れるため、主要な素材のみの回収を急ぐ第1分隊。


「終わったら中層に向かう。少し早いけど、今日は疲労もあるだろう」

 カイウスが言った。


 素材の回収を済ませ中層に向かう道すがら、ヘルマンがぽつりと言う。

「私、火力不足ですね」

 彼はカイウスとロニールの動きを見ていると、どうしてもそう思ってしまうのだった。それに、サポートに徹することが多いティークもかなり多才なのだ。2人ほどではないにせよ、やろうと思えば火力はしっかりと発揮できる。


 カイウスはふっ、と控えめに笑う。

「斥候に本職アタッカー並みの攻撃力は求めてないよ。それが必要とされるようなら分隊の構成に相当な無理があるね。それに、ヘルマンは充分に役割を果たしているよ。魔物と対等に戦いを始められるのはヘルマンの索敵能力のおかげだ。他の誰でも先手を取られているさ」


「……ありがとうございます。若さにあてられたせいか、年齢を感じて弱気になっ」


「走るよ、ロニール」

 ヘルマンが言い終わる前に被せたカイウス。


「えっ?」

 とは言いながらも、彼は他の3人につられて反射的に走り出す。


「救援指示だ」

 と、カイウス。


 彼らは、また樹海の深くへと向かっていく。

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