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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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中層の夜

 明かりのない森の中。木々の隙間から覗く晴れた空には、星々が美しく輝いて見える。

 夜の空気は冷たく、昼間には濃く感じる緑と土の香りを弱らせていた。


「夜でも晴れてりゃ明るいもんだけど、森の中は暗いよなあ」

 声を落として、呟くようにティークが言った。


「暗いというだけで緊張感が増しますよね、ピリピリと。人間の本能ですか」

 ティークと同じような声音で、ロニールが言った。


「緊張感っていうか、率直に言って恐怖だよな。でも、これが正常だ。慣れる必要もない。この状況で何も感じないヤツはすぐに死ぬね」


 小型の折りたたみ椅子に座る2人の間では、じわじわと燃焼する、中層素材から作られた退魔の香が微かな光を漏らしている。その微かな光は、すぐ近くにある2つの個人天幕の間にも見える。


 夜間に大っぴらに火を使えるのは浅層だけ。中層ではなるべく魔物を寄せないため夜間に火は使わず、闇の中で身体を休めるのみだ。

 深層においては、そもそも本格的な休息をとることがない。どのような対策をするにせよリスクが高いためだ。


「……考えていたんですが、サーペントの毒霧に《火魔法》で対処したのは、毒を無害化するためですよね?」


「そうだぞ。完璧だったろ?」


「ええまあ、それはそうです。水球状態の毒を加熱する、ではだめなんですか?」

 カミラから受けた凶悪な混合魔法、水蒸気。その前段階にあった沸騰した水球を思い浮かべて、ロニールは尋ねた。


「俺に常軌を逸した魔力量があれば、その対処も可能だな。でもな、相手の制御下にある魔法に干渉するのは魔力消費が激しいんだ。さらに過熱という変化を加えようとするなら尚更な。とは言っても、サーペントの頭部周りの水球を直接無害化することは、やろうと思えば出来たんだ。後のことを考えないならな。もう分かるな?」


「連続状況を想定した対処をしないといけないんですね」


「その通りだ。ということで、サーペントが水球を霧に変えて、魔法の制御を手放したあのタイミングの対処がベスト、ってわけだ。魔力回復薬もあるが、それは緊急時にこそ役立てるもんだ。ダンジョン攻略ならともかく、霊域探索では頻繁に補給もできないしな。戦闘団トップクラスの魔力量を持つカミラでさえ、霊域での魔力の運用は色々考えてると思うぜ」


 ふと、ティークは考える。今回の探索で魔力回復薬を使った記憶がないな、と。ポーチの中身を確認すると、やはり一本も減っていない。思えば、中層までしか入っていないとは言え、通常起こるはずの連戦がほとんどなかった。だから魔力は自然回復で事足りた。……理由は恐らく、1回ごとの戦闘時間の短さと、それによる連続状況の回避か。


 現在の第1分隊の戦闘スタイルは、超攻撃的な物理アタッカー2人を軸として、適切かつ最低限の補助を受けつつ至短時間で最大火力を発揮するというもの。戦闘が起ころうとも即座に終わることがほとんどだった。

 サーペントのように魔法を使われると戦闘時間が長引く傾向にはあるが、それでもかなりスムーズだった。事実、その後連続状況にはなっていない。


「……まあ今回、魔力回復薬は1本も使わなかったんだが」

 ティークはポーチの蓋を閉じた。

「でも深層で運悪く戦闘が重なると、それはもうえげつないんだ。魔物に周りを囲まれたかと思ったら、魔物同士で争い始めてよ。でも何かの拍子にやっぱり襲われるんだよな。ポーション類とかその他の戦闘物資は、そういうヤバい時にこそガンガン使うのよ」

 何かを思い出して頷きながら、彼は言った。


「色々と考えていらっしゃるんですね」

 対して俺は突撃して攻撃を叩き込むだけの簡単なお仕事だ、とロニールは思った。

「自分と動いていて、やりづらい事とかありませんでしたか?もっとこうしろ、とか」


 カイウスにはヘルマンが、ロニールにはティークがサポートに入るようになっている。


「俺からはねえな。ロニールはどうなんだ?そもそも、サポートを必要としているようにも感じねえんだよな」

 ロニールは分隊の方針を汲んで、マニュアルに従うように行動している。魔法対処の補助さえもそのマニュアルに組み込んで、必要はないがとりあえず受けているだけではないのか、とティークは思った。

「その気になればサーペントも1人でやれたと思うか?」


 少し考えて、ロニールは言う。

「……正直、中層にいる魔物の魔法には問題なく対処できるだろうという感覚があります。サーペントに関しても、1人でも狩ることはできたような気がします」

 それも、もっと速く。

「ですが、それにはリスクの高い行動が必要になります。失敗すれば毒塗れにされて殉職です。通常取るべき手段ではありませんから、やはりサポートや連携は必要です」

 恐らくカイウスさんも同じなのだろう、と彼は思った。あの人なら、1人でサーペントに接近し、あの太い首を一刀のもとに切断することも可能だったはずだ。そういった行動を取らずに分隊としての動きを重視するのは、リスクを下げ、戦闘に安定感を持たせるためだ。

「それに、深層からはどうなるか分かりませんから。よろしくお願いしますね」


「そうだな。まあ、任せろよ」


「……交代の時間まで瞑想していいですか?」


「ああ、いいぜ」


「失礼します。毎度断っていますが、寝るわけではないので安心してください。何があっても即座に反応できます」


「分かってるって」


 ロニールは折りたたみ椅子から降り、つま先を立てて地面に膝をつく。跪座の姿勢をとった彼は意識を集中し、心をおさめる。

 静まった精神は存在感の揺らぎを抑え、彼は《隠密》の効果を受ける。

 《瞑想》が発動すると、その効果によって心身の疲労が癒えていくとともに、《感知》の精度や効果範囲も大幅に向上する。

 彼は自身の存在が自然の一部に溶け込んでいくような、この上ない解放感を味わっていた。

※2話更新 2/2

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