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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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33/41

フロンタから中層へ F

 前線拠点フロンタを背後に、樹海を目前に控えた緩衝地帯の草原に、いざ探索に向かおうという1個分隊が集まっていた。


「じゃあ、今日から本格的に探索していこう。改めてよろしくね、ロニール」

 カイウスが言った。


「こちらこそ、よろしくお願いします。皆さんの足を引っ張らないよう、精一杯頑張ります。突撃なら任せて下さい」


「足を引っ張るなんて思ってねえよ。楽しみにしていたぜ、この時をな!」

 威勢よく言ったのはティーク。フランクな気質だが、粗野ではない。頼れる兄貴分といった雰囲気の男だった。


「突撃は全員でするからね、ロニールだけにはならないよ」

 苦笑いをこぼすヘルマンが言った。

 私ももう歳だから、そろそろ付いていけなくなるのかもな、と彼は思った。


「改めて確認するね」

 カイウスが言う。

「斥候はヘルマン。前衛が私、ティーク、ロニール。そして、魔法への対処はヘルマンとティークが行うものとする。後衛はいない。役割分担はしたけれど、全員が索敵、隠密、戦闘技能といったすべての能力を錬磨し、高水準で身に付けていくことを意識して欲しい。ここは実践の場でもあるけど、人間というのは危険に満ちた環境でこそ、加速度的に成長できるものだ。そういった意味で、前線はこの上ない成長の場だ」


 気を引き締めた表情で頷くロニールたち。


「では、入ろう。今回は中層までの活動とする予定だ。まずはこのメンバーでの動きに慣れよう。それとロニール。この辺りは霊峰までの距離が短い分、接敵回数が多い傾向にある。注意してね」


 彼らは樹海へと踏み入っていく。

 それぞれの武器を持って、それぞれデザインは違えど付与魔法の刻印がなされた頑強な革鎧を身に付けて。

 彼らが出発前まで準備していた大きなバックパックは、全員が《収納》へとしまっており、樹海で数週間過ごす予定というには随分と身軽に見えた。



 〇



 獲物を追って樹海を移動する大蛇。その巨体は生い茂る樹木を縫い上げるように動き、体表には数多くの水球が浮遊し追従する。

 どこからともなく人影が接近するたびに付近の水球が反応し、弾けて霧のように散る。

 それが繰り返され、少しずつ数を減らしていく水球。まばらになったそれは、しかし頭部には未だ多くが配置されている。

 大蛇は木々を飛び回る人影を追い、その頭部は大木の横を通過する。その時、大木の裏から大縄が回され、大蛇の首を巻き込み木の幹に縛り付ける。

 大蛇の首をへし折るとばかりに強烈に締めあげられる縄。しかしそれは、しなやかな鱗に阻まれ決定打にはならない。

 胴体と尻尾をのたくらせる大蛇。頭部の周辺に浮かんでいた水球が、拘束の元凶を目指して大木の裏へと迫り、霧と化す。

 それに対抗するように空中に炎が起こり、迫った霧を消し飛ばす。

 動きを止め、毒球の防御も途切れた大蛇の頭部に高速で飛来する影。

 大蛇の脳天に、剣が突き立つ。



 〇



「肝を冷やしましたよ……」

 《身体強化》を解き、大蛇を締め上げていた縄を緩めて、ロニールが言った。


 中層での探索も1週間を過ぎ、ついに大物、サーペントを引き当てた第1分隊。引き当てたというか、単純に襲われていたのだが。


「大丈夫だって言ったろ?ミスったりしないから安心しろよ」

 大木から軽快に降りてきたティークがニヤリとしながら言った。

 大蛇の動きを止めたロニールに迫った、大蛇の《水魔法》を併用した毒攻撃。それを打ち消したのは彼だった。

「しかしまあ、ガッチリした拘束だったな。そのまま首をへし折っちまうのかと思ったぜ」

 ロニールは本当にバフを受けられていないんだよな?と訝しみながら、彼はお礼の言葉と共に差し出された大縄を《収納》へとしまった。


「さあ、素材を回収しよう」

 力なく身を横たえる大蛇の頭部に立つカイウスは言った。

「せっかくの大物、本当は丸ごと持って行きたいけど、仕方ない。……いや、他分隊が来てくれるか」


「そのようですね」

 ヘルマンもまた、司令部からの意志を受け取っていた。

「毒が残っていそうな場所を通らないように誘導してきます」


「頼んだよ」

 カイウスがそう言うと、ヘルマンは音も立てずに走り去っていく。


 カイウス率いる第1分隊は、先に獲物の解体を始める。ロニールも獲物に手を合わせてから刃を入れていく。

 やがて数個分隊が集まってきた。

 全員が静かに、迅速に作業を進める。騒ぎ立てて魔物を寄せ、余計な戦いを起こしてはならないのだ。

 獲物は分担して完全に回収された。

 第1分隊の目礼を受けながら、集まった分隊は静かに散開していく。


「今回の探索はひと段落としよう」

 ロニールたちを振り返って、カイウスが言った。

「分かりやすい成果も得られたし、連携の確認も充分だ。フロンタに帰還する」


 移動する第1分隊。


 ロニールが口を開く。

「中層の魔物ってあんなに強いんでしたっけ?」

 先ほど戦った大蛇、サーペントを指して彼は言った。


「あれは中層最上位だね。深層で出くわすこともある。でも、中層で出会えるとは引きが良い」

 答えたカイウス。


 ロニールは真意を伺うようにカイウスを見る。


「サーペントの毒腺や皮は良質な素材、そして巨大な体からとれる肉は食料になる。かなり有用な魔物だ。狩れれば大きな利益が見込める。でも、かなりしつこかったね?」


「本当に」

 ロニールは深く頷いた。


「逃げても追われるうちに周囲の魔物を寄せる。戦ってもあの魔法のせいで長引きやすい。結果、やはり魔物を寄せる。あれを深層でやられると、なかなか厄介なものでね。中層なら、連戦になったとしてもリスクは低い」

 戦った場所は深層にほど近かったけれど、とカイウスは思った。


「なるほど」

 と、ロニール。


「しかし、潤うぜえ……」

 しみじみと、ティークがこぼした。


「……気持ち的にですか?」


「もちろんそれもあるが、懐もな」


「寂しくもないでしょ?稼いでるんだから」

 ヘルマンが口を挟んだ。


「そりゃあもちろんそうですよ」

 ティークが言う。

「でも金銭的な成果っていうのも、達成感のうちじゃないですか。得られること自体が嬉しいんですよ」


「確かにね。私ももう当の昔から、家族を養うため、なんて言えないからね」

 戦闘団で10年以上。家族が一生遊んで、とまではいかなくとも、充分に豊かな生活を一生続けられるだけの蓄えはすでにある。

 結局のところ私も、心の底では霊域での緊張感や、命のやり取りを通じて得られる達成感を求めているのだろう、とヘルマンは思った。家族を心配させているのは分かっているし、離れるのを寂しく感じる気持ちもある。しかしやはり。


 彼らは雑談しながらも気は抜かず、浅層を目指して進む。


「もう少し進んだら野営準備だ。狩りの成果はもう記録してあるから、サーペントの肉も食べていいらしい。暗くならないうちに火を使っておこう」

 カイウスが言った。

 最初は意識を覗かれることを気持ち悪いとも思ったものだが、今では慣れたものだな、と彼は思った。何より、報告書を自分で作る必要がないというのが素晴らしい。司令部で記録をとってまとめてくれたものを、戻ったときに確認するだけだ。

 しかし、ロニールの様子は報告しなければならないだろう。司令部も、戦団長も、彼を直接覗き見ることはできないのだから。

※2話更新 1/2(18時 2/2)

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