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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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前線拠点フロンタ

「お久しぶりです、ヘルマンさん」

 荷物をまとめ、移動の準備を整えたロニールが言った。


「久しぶりだね、ロニール。いやあ、早かったね。宣言通り、半年以内だ」

 前線からの一時的な帰省。家族と時間を共にし、英気を養ったであろう彼は、相変わらず穏やかに言った。


「ええ、幸いにも。それも1小の、そして3分隊の皆さんのおかげです」

 振り向くロニール。

「皆さん、本当にお世話になりました」

 そこにはテルナ、ジウル、ソルティア、ナタ、コット。第3分隊の面々が集合していた。


 それぞれと言葉を交わしたロニール。

 寡黙な男ジウルとは、握手をすることを挨拶とした。

 言葉を交わさずとも、握った手からも気持ちは伺えるものだな、とロニールは密かに感動した。自分の感謝も伝わっているだろうか。

 お互い固く握りあった手からは、ギチギチという音が聞こえそうだった。


「それでは、行ってまいります!」

 馬車に乗り込んだロニール。


 前線に向かう人員を乗せた馬車と、前線拠点への物資を運ぶ馬車の車列は、ゆっくりと進み始めた。


「頑張ってねえ、ロニール!」

 手を振るコット。

 弟のようでもあり、頼れる戦友でもあるロニールの出立に、彼はついに涙をこぼした。


「ちょっとコット、やめてよ!」

 同じく手を振るナタ。

 コットにつられそうになる彼女は、涙をこらえつつ、文句をこぼした。


 ロニールがサイルの町を振り返ると、手を振る2人組に気付く。それは両親、オルトとハンナだった。

 彼は馬車から身を乗り出し、手を振った。かなり離れているが、俺に気付けるだろうか。


 オルトとハンナは、馬車から身を乗り出し、こちらに手を振り返す人影を捉えた。

 その額には、陽光を受けて輝く何かがあった。

「行って来おぉぉぉい!!!」

 大気を震わせるような、オルトの馬鹿でかい声が響く。


 馬車に乗る面々は、ロニールと家族とのやり取りを微笑ましいとは思いつつ、その声に驚いて思わず笑った。

 しかしそう、彼はまだ10歳にも満たない子どもなのだ。



 〇



 進むにつれて頻度を増す魔物の襲撃にサクサクと対処しつつ、馬車の車列はサイルを出発したその日の暮れに目的地へと到着する。


 ロニールがついに訪れた前線拠点。開けた平地にあるそこは、木の防壁でがっちりと固められており、町とまではいかないまでも一角の村として機能させられそうなほどに立派だった。


「前線拠点って、こんなに立派なんですね。もっとこう……大型の野営地みたいなものを想像していました」

 驚きを露わに、ロニールは言った。


「初期はそうだったみたいだよ」

 ヘルマンが答えた。

「でも、探索が安定してからの発展は速かったらしい。建築材料には困らないからね。木材も鉱石も石材も、そして食料も、すべてが不足なく得られる環境だ。あとは各分野の技術者を呼び寄せて、人手を揃えればこの通り、ということさ。あと、拠点の名前はフロンタっていうんだ」


「フロンタ、ですか」

 前線らしい分かりやすい名前だ、とロニールは思った。

「魔物の襲撃はないんですか?」


「ほとんどないんだ。退魔の香を拠点の周囲一帯に置いているからね。その退魔の香の素材も樹海で大量に手に入るし、拠点と隣接する浅層の魔物に対しては、浅層の素材から作る香で充分に効果的さ。上手く出来ているよ、ここは」


「そうなんですね……」

 純粋な感心の声を漏らしたロニール。

「フロンタにはどんな施設があるんですか?」


「後で案内するつもりだけど、一通り揃っているよ。宿舎、食堂、訓練場、診療所、鍛冶工房に……まあ、見た方が速いかもね」


「凄いんですね。……でもそこまで揃っていて、サイルからの補給物資って必要なんですか?」


「日用品は作ってないからね。それに」

 ヘルマンはロニールを見る。

「拠点に醸造所はないんだよ」

 君にはまだ分かるまい、と彼は微笑んだ。



 〇



 前線拠点フロンタの中央に位置するひと際立派な建物。

 木造建築が大半を占める中で、数少ない石造りのそれは指令所。


 拠点に到着したヘルマンたち復帰組とロニールは、サイルからの補給物資の荷下ろしを手伝った後、その指令所の一室へと来ていた。


「休んでください」

 サイルへ帰省していた者たちの復帰報告と、ロニールの着隊報告を受けた戦団長アルシェナ・ソシトラスは言った。

 フロンタの外で生産され、持ち込まれたであろう座り心地のよさそうな椅子に深く座る彼女。背もたれに全身を預け、ひじ掛けにも腕を乗せ切っている。しかし尊大という印象は受けず、それはただ、椅子としての設計上の機能を余すことなく発揮させているだけのように見えた。


 不動の姿勢を解くロニールたち。


 アルシェナは続ける。

「皆さんの明日からの活躍に期待します。そしてロニール。こちらへ」


「はい!」

 報告だけで終わると思っていた彼にとって想定外のこと。何を言われるのか、何が起こるのかは分からないが、即座に従い、戦団長の机の前まで進む。


「私のスキルを発動します。害はありません」

 アルシェナは立ち上がると、ロニールに手のひらを向ける。

「《忠肝融和》」


「!?」

 ロニールの視界を、一瞬だけ強い光が覆う。それは物理的に作用しているものではない、彼の精神が感じ取ったものだった。

「……?あ、ありがとうございます」

 何をされたのだろうか。特に変化は感じ取れない。

 戦団長の意図が分からないものの、彼はとりあえずお礼を言っておいた。


「……《忠肝融和》」

 アルシェナは無表情で、先ほどと全く同じことを繰り返した。


(眩しい!)

 ロニールは僅かに身をよじる。

 戦団長が何をしたいのか分からない。俺の目を眩ませて遊んでいるのだろうか、と彼は思った。


「……何も感じていませんか?」

 アルシェナが問う。相変わらず無表情だったが、その目だけが見開かれている。


(怖いって!)

 ロニールは心の内で叫ぶ。

 自律する人形のような彼女のその異様な表情は、まさしくホラーだった。

「とんでもありません。光を、眩い光を感じ取りました」


「……そうですか」

 アルシェナは再び椅子に座る。

「彼には、私のスキルへの適性が全くありません。現在まで前例がない、驚くべきことです」

 その言葉に反して、彼女に驚いた様子はない。ただ虚空を見ながら、部屋にいる全員と、それ以外の誰かに向けて言った。


 ざわめきとまではいかず、僅かに動揺する気配が部屋に起こる。


「とは言え」

 アルシェナはロニールに目を向ける。

「あなたの能力を疑ってはいません。今後の活躍に期待しています」


「はい!」

 何から何までよく分からなかったが、いい返事だけを返したロニール。

 いや、1つだけ理解できた。俺には何かの資質が欠如しているようだ、と彼は思った。魔法資質以外にも。

※2話更新 1/2(18時 2/2)

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