共寄生 F
「そろそろ接敵します」
斥候のコットがテルナに、そして分隊に伝えた。
警戒する第3分隊は、数十メートル歩みを進める。
「発見。オーク3」
先頭を進むロニールが言った。彼は、木々の間を棍棒を手に徘徊する獲物を捉えている。
「了。ロニール、先制攻撃。全員、続いて戦闘開始」
テルナが指示を出した。
オークの1体の頭部が弾ける。
狼狽える残りの2体の足元から土の槍が突き上がり、縫い留める。
そこに接近した3人の人影。
オークの1体は下肢から加えられた鋭い斬撃に膝を付き、その首を落とされる。
もう1体は正面から頭を叩き割られる。
静けさを取り戻す森。それも束の間。
「新規接近中!……ジャイアントマンティス!」
テルナの側に残っていたナタが声を張り上げる。
「『粘霧』」
テルナが魔法を発動する。
直後、彼女に一直線に接近したジャイアントマンティスが、ギラリと鋭い鎌のような前脚を振り下ろす。その状況にあっても、彼女は動じない。
「フッ!」
そこに、ジウルが大盾を構えて割って入る。彼は攻撃を受け止め、盾で殴りつけるように弾き返す。
弾かれた腕に体勢を崩しつつ、もう片方の前脚を振るジャイアントマンティス。
その懐に一瞬で踏み込んだジウルの強烈なシールドバッシュ。
「セイッ!」
と、寡黙な男の気合の入った一撃に、ジャイアントマンティスは大きく後方へと吹き飛ばされ、その身を木に打ち付けた。
再接近の気配を出したジャイアントマンティスだったが、異変が起こる。ジタバタと暴れだしたのだ。それは空気を求めての反応。テルナの粘性の霧が付着し、まとまって水となり、気門を塞いでいた。
そこにショートソードを携えて現れた小柄な人影が、ジャイアントマンティスの節足の付け根に迅速に正確に刃を入れ、解体していく。最後に頭を落とし、付近はまた沈黙を取り戻す。
「……新手は?」
準備していた攻撃魔法を解除したテルナが、側にいるナタと、オークの下から戻ってきたコットに確認を取る。
「「なし」」
2人が揃って言った。
「了。回収」
テルナの指示を受け、倒した魔物の素材の回収を始める第3分隊。
「……私、出番なかった!ロニール動きすぎ!」
「ナタさんは斥候としての役目を果たしていたじゃないですか」
手際よく進みゆく作業を横目に、テルナは思う。
(もう、充分だな)
今回の霊域探索の目的は達しただろう。
作業を終えた第3分隊は各々装備を点検し、出発の準備を整える。
「テルナさん、深層まで入ったりします?」
いつになく快調を思わせる分隊の様子に、コットは言った。
「……いや、入らない。次の行動は、帰還。サイルに帰ろう」
テルナ率いる第3分隊は、霊域を後にした。
〇
「ロニールは前線での活動に足る能力を身に付けました。これ以上、彼が第3分隊の下で指導を受ける必要はないと考えます」
サイルの城塞、第1小隊長エルミナの執務室で、テルナは言った。
「随分と早い仕上がりになったわね」
報告書に目を通していたエルミナは、顔を上げる。
「……どう?彼と組んでみて。これからも続けたいと思わない?」
「……いいえ」
少し考えた末、テルナは否を返した。
「……もしかして、合わなかった?彼と」
自分の指示で指導を任せた手前、少し気まずそうなエルミナ。
この数か月間、問題のある空気感はなかったけれど、と彼女は思った。
「そうではありません、決して。彼は逸材です。疲労状態でも崩れない、冷静で穏やかな人格は潤滑剤のようでしたし、彼の驚異的な成長速度は、間近で見る私たちの気を引き締め、刺激を与えてくれました。驚異的な戦闘能力を有していながらも、臆病さを持ち合わせているというのも素晴らしいです。内面を含めた全ての能力が高水準にあります。……魔法以外の」
しかし、魔法が満足に使えないことなど些細なことだ、と彼女は思った。彼には理不尽な物理攻撃があるのだから。
「べた褒めね」
テルナにしては想像以上の熱量で発せられた賞賛に驚くエルミナ。
「ではどうしてこれ以上組みたくない、と?」
「……振り返って思うのは」
テルナは粛々と、しかしどこか悔しそうに言う。
「ロニールが参入した私たち分隊は、5人と1人が一緒に行動しているだけでした。分隊としては問題なく、いえ、充分に機能していましたが、協調している、一丸となっているという実感はついにありませんでした。何と言うか……『共寄生』とでも表現できそうな状態でした。その歪さが、最近では分隊本来の戦闘スタイルを崩しつつあります」
「なにか問題?」
「後方に残した魔法師を軸とする戦闘スタイルは、彼に決定的に向かないようです。彼の強みであるスピードと突破力を活かそうとした結果、私と前衛との距離が開くようになってきました」
いずれ2か所同時戦闘スタイルが始まりかねない、と彼女は思うのだった。
「私たちでは彼を扱いきれないようです。現在前線にいる第2小隊こそ、彼の活きる場所なのだと思います」
「……そうね。分かったわ、ありがとう。指導もお疲れ様。第3分隊での経験のおかげで、彼はついに本格的に前線に挑めるのね」
「彼に置いて行かれないよう、私たちも精進して参ります」
テルナは執務室を後にし、エルミナはロニールを前線拠点に送るべく、手続きを始めた。




