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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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共寄生 F

「そろそろ接敵します」

 斥候のコットがテルナに、そして分隊に伝えた。


 警戒する第3分隊は、数十メートル歩みを進める。


「発見。オーク3」

 先頭を進むロニールが言った。彼は、木々の間を棍棒を手に徘徊する獲物を捉えている。


「了。ロニール、先制攻撃。全員、続いて戦闘開始」

 テルナが指示を出した。


 オークの1体の頭部が弾ける。

 狼狽える残りの2体の足元から土の槍が突き上がり、縫い留める。

 そこに接近した3人の人影。

 オークの1体は下肢から加えられた鋭い斬撃に膝を付き、その首を落とされる。

 もう1体は正面から頭を叩き割られる。


 静けさを取り戻す森。それも束の間。


「新規接近中!……ジャイアントマンティス!」

 テルナの側に残っていたナタが声を張り上げる。


「『粘霧』」

 テルナが魔法を発動する。

 直後、彼女に一直線に接近したジャイアントマンティスが、ギラリと鋭い鎌のような前脚を振り下ろす。その状況にあっても、彼女は動じない。


「フッ!」

 そこに、ジウルが大盾を構えて割って入る。彼は攻撃を受け止め、盾で殴りつけるように弾き返す。


 弾かれた腕に体勢を崩しつつ、もう片方の前脚を振るジャイアントマンティス。


 その懐に一瞬で踏み込んだジウルの強烈なシールドバッシュ。

「セイッ!」

 と、寡黙な男の気合の入った一撃に、ジャイアントマンティスは大きく後方へと吹き飛ばされ、その身を木に打ち付けた。


 再接近の気配を出したジャイアントマンティスだったが、異変が起こる。ジタバタと暴れだしたのだ。それは空気を求めての反応。テルナの粘性の霧が付着し、まとまって水となり、気門を塞いでいた。


 そこにショートソードを携えて現れた小柄な人影が、ジャイアントマンティスの節足の付け根に迅速に正確に刃を入れ、解体していく。最後に頭を落とし、付近はまた沈黙を取り戻す。


「……新手は?」

 準備していた攻撃魔法を解除したテルナが、側にいるナタと、オークの下から戻ってきたコットに確認を取る。


「「なし」」

 2人が揃って言った。


「了。回収」


 テルナの指示を受け、倒した魔物の素材の回収を始める第3分隊。


「……私、出番なかった!ロニール動きすぎ!」

「ナタさんは斥候としての役目を果たしていたじゃないですか」


 手際よく進みゆく作業を横目に、テルナは思う。

(もう、充分だな)

 今回の霊域探索の目的は達しただろう。


 作業を終えた第3分隊は各々装備を点検し、出発の準備を整える。


「テルナさん、深層まで入ったりします?」

 いつになく快調を思わせる分隊の様子に、コットは言った。


「……いや、入らない。次の行動は、帰還。サイルに帰ろう」


 テルナ率いる第3分隊は、霊域を後にした。



 〇



「ロニールは前線での活動に足る能力を身に付けました。これ以上、彼が第3分隊の下で指導を受ける必要はないと考えます」

 サイルの城塞、第1小隊長エルミナの執務室で、テルナは言った。


「随分と早い仕上がりになったわね」

 報告書に目を通していたエルミナは、顔を上げる。

「……どう?彼と組んでみて。これからも続けたいと思わない?」


「……いいえ」

 少し考えた末、テルナは否を返した。


「……もしかして、合わなかった?彼と」

 自分の指示で指導を任せた手前、少し気まずそうなエルミナ。

 この数か月間、問題のある空気感はなかったけれど、と彼女は思った。


「そうではありません、決して。彼は逸材です。疲労状態でも崩れない、冷静で穏やかな人格は潤滑剤のようでしたし、彼の驚異的な成長速度は、間近で見る私たちの気を引き締め、刺激を与えてくれました。驚異的な戦闘能力を有していながらも、臆病さを持ち合わせているというのも素晴らしいです。内面を含めた全ての能力が高水準にあります。……魔法以外の」

 しかし、魔法が満足に使えないことなど些細なことだ、と彼女は思った。彼には理不尽な物理攻撃があるのだから。


「べた褒めね」

 テルナにしては想像以上の熱量で発せられた賞賛に驚くエルミナ。

「ではどうしてこれ以上組みたくない、と?」


「……振り返って思うのは」

 テルナは粛々と、しかしどこか悔しそうに言う。

「ロニールが参入した私たち分隊は、5人と1人が一緒に行動しているだけでした。分隊としては問題なく、いえ、充分に機能していましたが、協調している、一丸となっているという実感はついにありませんでした。何と言うか……『共寄生』とでも表現できそうな状態でした。その歪さが、最近では分隊本来の戦闘スタイルを崩しつつあります」


「なにか問題?」


「後方に残した魔法師を軸とする戦闘スタイルは、彼に決定的に向かないようです。彼の強みであるスピードと突破力を活かそうとした結果、私と前衛との距離が開くようになってきました」

 いずれ2か所同時戦闘スタイルが始まりかねない、と彼女は思うのだった。

「私たちでは彼を扱いきれないようです。現在前線にいる第2小隊こそ、彼の活きる場所なのだと思います」


「……そうね。分かったわ、ありがとう。指導もお疲れ様。第3分隊での経験のおかげで、彼はついに本格的に前線に挑めるのね」


「彼に置いて行かれないよう、私たちも精進して参ります」


 テルナは執務室を後にし、エルミナはロニールを前線拠点に送るべく、手続きを始めた。

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