6歳
「今日はついに『天恵の儀』だな、ロニール。緊張するか?」
家族3人で囲む朝食で、オルトが尋ねた。
ロニールの兄、ウォレスとマーガンはいない。9歳になった彼らは王立学校入学のため、先日王都へと旅立った。
「ちょっとね。でも楽しみって意味で、不安なわけじゃないよ」
数人前の食事に手を付けながら、ロニールは言った。
6歳になった彼は、ヒト族における10歳程度にまでなっており、額の角も肉体の急速な成長に伴い徐々に伸びてきている。
天恵の儀。
これは、聖職者によるスキル《天恵》を受けることで、天に与えられたスキルである「天与スキル」を知り、未習得の場合は発現させるというもの。《天恵》の効果が出るのは満6歳からであり、子どもたちは教会に集まり一斉にスキルを受ける。通過儀礼のようなものだ。
「そうか。前にも話したが、スキルの成長速度は個人の取り組みによる部分が大きい。そして、希少スキルを獲得することが最善とは限らない。だから、気楽にな」
基本的に、スキルとは努力によって後天的に習得可能なものである。その上で天与スキルの優位性とは、スキルの成長速度と、希少スキルの獲得だ。
天与スキルは、そうでないスキルと比べて成長が速いとされる。また、習得難易度が高い、もしくは習得方法が判明していないスキルを《天恵》の効果によって発現させることができる。
天与スキルとは、言わば個人にとっての適性であり、天賦の才でもあるのだ。
「詳しく聞いてなかったんだけど、希少スキルの何がマズいの?才能に目を付けられて狙われるとか?」
前世からすれば命が格段に軽いこの世界。そういった不条理も珍しくないのかもしれない、とロニールは思った。
「それもある。だが第一はもっと直接的な問題だな。強大なスキルには制限や代償がある。例えば《魔眼》は、使いすぎると失明するそうだ。あと有名なのは《神通力》か。『神』とやらと通じることで奇跡を起こせるらしい。このスキルに覚醒したが最後。教会に目を付けられ、引き入れられて聖人、聖女認定。あとは意志ある限りお勤めだ」
「……意志ある限り?」
なにやら恐ろしい言い回しに、引っ掛かりを覚えたロニールは復唱した。
「奇跡を起こす力を使い続けると、廃人になる。いや、どこぞの国では『聖体』と言うんだったか」
呆れたように言ったオルトは、誤解のないよう付け加える。
「よその国の話だ。ソシトラス王国には聖人も聖女もいないからな。……さて」
彼は鬱屈とした話から離れるように、ひと呼吸おいた。
「ありきたりな能力ほど、結果として強い場合も多い。ロニールの望みとしては《身体強化》だったな。シンプルで強いスキルだな。運命に恵まれるよう、祈っているぞ」
スキルの成長は取り組み次第。だからこそ、たゆまぬ努力を続ける者にこそ成長効率は大きく影響する。
オルトが見てきたロニールは、生まれてからこの方、常にその時できる様々な努力をしていた。
読み書きや算術は自ら積極的に教わり、気が付けば習得。そして身体が成長し、動けるようになるや否や運動を始めた。最初こそ子どもらしく穏やかな、遊びのような運動だったものの、じきに鍛錬と表現するに相応しいものへと変わっていった。さらにここ2年ほどは、傍から見れば狂気を感じるほどの内容と打ち込み具合だった。
そんな彼だからこそ、天与スキルによる成長効率は無視できない要素だろう、とオルトは思うのだった。
(ロニールの望みが叶いますように)
彼は息子の幸運を、心から願った。




