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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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ファースト・ブラッド F

「王国軍だあ?心当たりがねえな」

 野盗のリーダーであろう男が言った。大柄な体格、無精ひげに薄汚れた装備。その武器には、獲物のものだろうか、血の跡もわずかに見て取れた。

 あの装備に命を預けるのは不安すぎるな、と見ていたロニールは思った。


「全員、武器を捨てろ」

 淡々と言うテルナ。


「人違いじゃねえのかなあ、お嬢ちゃん。証拠でもあんのかよ」

 野盗のリーダーは、あえて剣を肩に担ぎ直して言った。王国軍が先制して攻撃してこないのは分かっている。このナメた態度の女をビビらせてやるのだ。


「大人しく投降するなら、命までは取らない」

 会話を嚙み合わせずに、ゴブリンの死体を見るかのような目を野盗のリーダーに向けながら、ただ淡々と続けるテルナ。

 早く終わらせたいな、と彼女は思っていた。態度と言葉で、あえてストレスを与えているのだ。さっさと手を出させるために。

 王国軍に仕掛けた時点で、どうあがいても極刑だ。ここで捕縛したところで、奴らの結末は変わらない。諸々の始末の手間を考えれば、ここで終わらせて奴らをこの森の養分にする方が、軍にとっても、自然にとっても良いだろう。


「……ナメてんじゃ━━!」

「そこのローブ!!!」

 キレた野盗のリーダーの大声をかき消すように、さらなる怒鳴り声が重ねられる。


 ビリビリと耳から脳を突き抜けるようなそれに、リーダーを含む野盗たちは驚きのあまり肩を跳ね上げた。それはローブの男、従魔師も例外ではなかった。


「詠唱をやめろ」

 と、今し方の怒鳴り声とは一転して冷静な声で、ロニールは言った。


「……お、おいおい、落ち着いてくれや」

 亜人のガキ、こいつは多分ヤバい奴だ、とロニールを気に留めた野盗のリーダーは思った。10歳を過ぎたくらいだろうか。兵士どもと肩を並べているのが不自然なほどに若いが、しかし不思議と馴染んでいる。小盾だけ持って武器がない、奇天烈ないで立ちだが……こいつには何かが備わっている。

「もう一回聞くがよお、証拠はあんのかよ」

 彼はロニールに肝を潰されたことで、どこか冷静になっていた。


「……街道に魔物を追いやって、通る人々を襲わせているな?」

 感情的にさせて手を出させるのは失敗したな、とテルナは思った。こいつはロニールの先ほどの……咆哮に、ビビり倒してしまっている。となれば、順当に退路を断つしかない。

 しかし、と彼女は考える。あのローブの男は詠唱をしていたようだが、魔力は感じ取れなかった。魔力の制御に秀でているとなると、従魔師、もしくは魔法師として、それなりのレベルにあるようだ。

「ここから北に行ったところに、荷を奪われ、打ち捨てられた馬車がある。犯人の特定に繋がる痕跡は採取済みだ。自分たちではないというのなら、投降して潔白を証明しろ」


「……」

 野盗のリーダーは何も言わない。何も言えない。犯人の特定云々については良く分からないが、拠点の北に馬車を打ち捨ててあるのは事実だった。もはや言い逃れはできないのかも知れない、と彼は思った。

 ふと、彼は微かな魔力の動きを感じ取った。出所は亜人のガキだ。やたらと丁寧に練り上げているこれは《身体強化》だろう。おい、と声をかける寸前、ヤツの身体がピクリと動いたように見え、直後に魔力の反応は消え失せた。

 何だったのか、挑発のつもりだったのか、と彼はロニールに訝し気な視線を送る。


 野盗のリーダーの視線を受けて、ロニールはどこかげんなりした様子で言う。

「……で、あなた方は投降するんですか、どうするんですか?」


「そうだな。お前ら……」

 野盗のリーダーは、厳粛な態度で言い、仲間たちと視線を交わす。それは諦めだろうか、それとも。

「ずらかるぞ!」

 それはある種の、抵抗の意志だった。


 始まりだ、とロニールは思った。

 動き回られると、抵抗感の小さい綺麗な殺し方はできないだろう。……先ほどのような。

 彼は改めて覚悟を決めた。


 リーダーの言葉を予見していたかのように、野盗たちはいっせいに、素早く動き出した。全員が《身体強化》を使っている。ロニールたちに向かってくる者はいない。皆が空き地から森の中を目指し、散り散りになって走り去っていく。


 そのうちの1人が、高速で移動する小柄な人影に頭部を消し飛ばされ、走る慣性に従って地面に倒れた。木漏れ日が揺れる緑の地面に、血と、頭蓋の内容物の雨が降る。

 他の2人が、脚や身体に深々と打ち込まれた杭に悶絶しながら地面に伏せる。その直後、鈍い音と共に彼らの意識は永遠に閉ざされる。


 兵士たちから一足で大きく距離をとり逃走を図るリーダー。背後では鈍い音と、何人かの悲鳴が聞こえた。

 仲間がやられている。レークは何をしているんだ?と彼は思った。さっさと兵士の足止めをしろ。

 彼は従魔師の方を見やって叫ぶ。

「魔物を出せ!レ……!?」

 レークは丸太に座ったまま、ぐったりとして動かない。フードから覗く首元には血が伝っている。……死んでいる。

(いつの間に!?伏兵がいるのか!?)

 だとすれば、逃げ切るのは極めて困難だ、と彼は思った。何か起死回生の一手はないか。

 彼は従魔師の首元を見る。……あれだ。

 逃走進路を僅かに変えて、野盗のリーダーは従魔師の死体に近づいていく。


 その行動を見ていたロニールは思った。

(……何をするつもりだ?ローブは確実に殺したぞ)

 今、ローブの男の頭蓋は、魔法効果を阻害する金属であるディマジウム製の棒手裏剣で貫かれており、脳を破壊されている。実はまだ生きていて、あの時の、絶命の反応が演技だというのなら、あのローブの男は従魔師より魔法師より、役者としてやっていくべきだ。

 とは言え、やるべきことは決まっている。何かをされる前に、リーダーを始末するのだ。

 投擲で、と彼は考えたが、少し距離がある。絶命させる程の威力を発揮するには《身体強化》を必要とするが、それには少し時間がかかる。

 彼は持っていた盾と金属バットを《収納》に消すと、弓と矢を取り出し、構え、一瞬で引き絞る。放たれた矢は一直線にリーダーの頭部へと向かい、貫通する……直前。


「頭領!」

 野盗の1人が円盾を構え、射線上に飛び込んだ。

 矢はロニールにとって不運にも、そして野盗にとって幸運にも、円盾に当たって軌道を逸らされる。

 飛び込んだ勢いそのままに、腹這いで地面を滑り行く野盗の一員。


 リーダーはそれを振り返ることはなく。このチャンスを確実にものにしようと、従魔師の首に手を伸ばす。そして、珠を繋いだネックレスを掴んだ。

 レークは封珠と言っていたな、と彼は想起した。従えた魔物を封じているらしい。これを利用すれば……。


 従魔師の首から引きちぎられたネックレス。繋がれていた封珠が地面にばら撒かれる。それぞれの封珠から黒いモヤが吹き出し、急速に広がり、立ち上り、何かを形作る。


「へへっ、うまくいきましたね!頭領!」

 先ほどリーダーを助けた男が、地面から身体を起こしながら振り返る。

 そこには、眼前を覆いつくす黒いモヤ。そこから現れた、黒く艶やかで、そして凶悪な様相の爪。

 次の瞬間、男は中を舞っていた。

 どしゃり、と地面に背中を打ち付けた彼。しかし動けるようで、身を起こそうとする。

 両手を地面について……おや、と違和感。右腕がどうにもおかしいぞ、と彼は自身の身体に目を向ける。

 肩口がえぐり取られたその右腕はかろうじて皮膚で繋がり、起こしかけた身体から離れた位置でぶらぶらと揺れていた。


「ぎいぃぃぃえあぁぁぁ!!!」

 絶叫が響く。

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