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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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行軍

 カミラとのトレーニングの翌日、ロニールは教導訓練を含めれば1年間お世話になってきた第2小隊を見送った。


 彼個人としての見送りはあっさりしたものだった。

 半年以内にそちらに行くので、またよろしくお願いします、と。それだけのことだ。

 霊峰を目指し、霊域で活動する彼ら彼女らと、もう会えないかも知れない可能性はもちろんある。だからといって、その湿気った空気を出すのは失礼だから。


 それからひと月ほど。

 ロニールは海岸沿いをひた歩く。荷物を背負い、隊列を組んで。

 彼が新たに参入した第1小隊は、行軍訓練の真っ最中だった。

 第1小隊の隊列の横には、輸送隊の馬車も連なり、ガラガラと音を立てて並走している。

 馬車の積み荷は、行軍訓練の支援物品と、そして目的地の港町イズに届けるべき物資が載っている。つまり行軍の訓練支援をしつつ、輸送業務も行っている形だ。

 行軍中の戦闘部隊の精鋭たちに囲まれ、護衛された大規模な輸送隊は、淡々と目的地を目指し、進む。



 〇



 束の間の休憩時間。

 大きなバックパックを下ろし、地面に座って休むロニール。

 彼は眼前に広がる海に目を向ける。

(美しい……)

 抜けるような青空と、陽の光を反射してキラキラと輝き続ける海面。寄せては返す穏やかな波の音が、繰り返し耳に届く。

 この景色が、今の彼の癒しだった。


 休憩時間が終わり、また歩き始めるロニール。

(キツくはないけど……)

 高性能な肉体のおかげで、そして《超回復》や《瞑想》などの回復系スキルのおかげで、体力的には全く問題ない。

(退屈なんだよなあ。汗で身体も気持ち悪いし)

 《生活魔法》の魔道具は持っている。『クリーン』を発動すれば、不快感はきれいさっぱり解消できる。しかし、行軍中の不必要な魔法の使用、魔力の暴露は禁止されているため、自由には使えない。

 ただ歩き続けるだけの時間が、そして解消できない不快感が、精神的にキツかった。


 不意に、隊列の前方の分隊長から後方の分隊長へとハンドサインが伝達されてくる。

「警戒、方向は森、数は15」

 分隊長が提示した情報を受け取ったロニールは、確認のサインを返す。

(数が15……またゴブリンかな)

 すでに何度も発生したやりとり。そして今後の展開も同様のものだろう、と彼は思った。

 50メートルほど離れた場所に、道沿いに広がる森。未だ何も見えないその場所を、一応の警戒をしつつも彼は歩く。心の中でため息をつきながら。


 数分後。

「接敵!森からゴブリン!」

「戦闘準備!!!」

 誰もが予想したであろうその発見者からの報告と、第1戦闘小隊長エルミナの声に、馬車は止まり、兵士は即座に戦闘態勢をとる。

 ロニールも近接戦闘員として、盾と金属バットを構える。一応。


 奇声を発しながら突撃してくるゴブリン。

「弓兵、射て!」

 エルミナの指令により、ゴブリンに矢が射掛けられる。矢は頭部や胸といった急所を的確に貫き、ゴブリンたちは40メートルも先で絶命する。残党や追加の敵はいない。


 戦闘が終わる。

 使える矢を回収し、街道に近いためゴブリンの死体を処理し、そして馬車と兵士の隊列はまた歩き始める。


(今回も当然、出番なし)

 退屈だなあ、とロニールはただ歩く。



 〇



 早朝にサイルを出た部隊は、日が暮れ始めた頃に目的地である港町イズに到着した。

 本来ならばもう少し早く到着する予定であったが、魔物の襲撃が重なり、この時間となったのだ。その魔物の襲撃に対応した結果として、運送する魔物素材は幾分か増えていた。


 行軍訓練部隊を含むサイルからの輸送部隊は、イズの王国軍要塞に入っていく。温かい歓迎を受ける戦闘団。

 特に輸送隊の兵士たちはイズの兵士と顔なじみも多いようで、荷馬車の停車位置に到着すると、歓談しつつ協力してスムーズに荷ほどきを行っていく。荷を運ぶ場所をいちいち指示されることもなく、和気あいあいと、そしてスルスルと進んでいく作業。

 バックパックを下ろし、隊列を組みつつも次の指示まで小休止するロニールは、横に見える彼らお互いの慣れ親しんだ雰囲気と、対比的に何となく感じる疎外感に呆然としていた。


「しょっちゅう行き来して会ってるからね、あの人たち。同じ輸送隊だから」

 驚いた様子のロニールを見て、テルナが言った。平坦な声音、全体的にドライな雰囲気を纏った女性。魔法師然とした装備をしている。彼はロニールが振り分けられた第3分隊の分隊長だ。


「行き来、ですか?海軍じゃないんですか?」


「イズには陸軍と海軍がどっちも駐留してるんだ。サイルに来るのは陸軍。この前も来てたよ、覚えてない?」


「来て……たような気がします。言われてみれば」

 そう言えば、物資を搬入する見慣れない兵士がいた……かも知れない。


「絶対覚えてないね。まあ、それでも問題はないんだけどさ」

 興味なさげな物言いのテルナ。

「でも、組織って色んな人の仕事で回ってるものだから、これからは少し興味を向けてみるのもいいと思うよ。例えばあの人は……」

 彼女はイズの輸送隊の小隊長、分隊長、サイルによく顔を見せる面々を遠目に紹介していく。


 テルナの相変わらず平坦な口調で語られる人物紹介を聞いたロニール。

 彼女に対して、ドライだなあこの人、なんて思っていた自分をぶっ叩きたくなった。なんて真っ当で篤い人だろうか。

(周りに目を向けてないのは……俺のほうやった)

 似非訛りにて自省した彼。この機会になるべく覚えようと、テルナの声に耳を傾ける。

 結果、なるべく覚えた。つもりだ。


 その後、訓練設備を借りての走行訓練と障害物走を行い、その日の課業は終了となった。

 ダラダラとした行軍と走るだけの運動に刺激不足を感じたロニール。彼は課業外の外出を利用して夜の海に赴き、大量の海水を《収納》に入れると、砂浜で加重トレーニングに勤しんだ。


 晴れた夜空から降る月明かりがゆらゆらと海面に反射し、砂浜を照らし、黙々と己を追い込む鬼の影を形作る。

 ひんやりとした夜の空気には、波の音だけが響いている。



 〇



 翌日。海での水泳訓練を終えたロニールは、小隊長のエルミナに呼び出されていた。

 心当たりは何もないが、俺は何かやらかしただろうか、と彼はついつい考えてしまう。しかし、自身が身を置く第3分隊と、その他3個分隊も集まってくるのを見て、ひとまず安心した。


「集まったみたいね。付いてきて」

 野外の訓練場の一角に集まった面々に向け、エルミナは言った。

 一団は彼女に付き従い、要塞内部の一室、会議室のような場所に移った。


 いつもの下達であれば大抵は集まったその場で伝えられるものだ。わざわざ室内に場所を移すとは何事なのだろう、とロニールは考えていた。


「早速本題に入るわね」

 もったいぶるでもなく、さらりと話し始めるエルミナ。

「イズに来るまでの道中、魔物の襲撃が多かったわね」

 ロニール以外が共感を示すように頷く。ロニールとしては襲撃頻度の比較対象がないため、正直よく分からない。

「気になったから斥候に調べてきてもらったわ。魔物を誘導した痕跡があって、それを辿った結果、小規模な野党の一団に行き着いた。スタンピードかとも思ったけど、そうではないみたいでひと安心ね。さて、もう察していると思うけど、明日、このメンバーで奴らを討伐してもらいます。野党の中には魔物を操る存在、恐らくは従魔師がいると考えられるわ。警戒して」


 ついにその経験をする時が来たか、とロニールは思った。

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