見送り前日
前線拠点への出発を翌日に控えた第2小隊。午前中はミーティングと荷物の確認をし、午後から休養を取り明日に備えることになっている。
昼に差し掛かる前に一通りの準備を終えた彼らは、暖かい日差しと爽やかな風の中、各々まったりと過ごしていた。有り体に言えば、駄弁っていた。あとは無料で美味しい昼食にありつき、休むだけだ。
荷造りの一部を手伝っていたロニールは、第2小隊の隊員であるヘルマンと話していた。
「荷物って意外と少ないんですね」
荷物の量は荷馬車10両分程度。50人超が移動すると考えればかなりコンパクトにまとまっている、と彼は思った。
「そうだね。探索で使う備品は拠点にあるし、拠点までは中継地点もあるから食料も最低限。荷物は個人のものくらいだね」
30代前半の細身の彼は、穏やかな声色で言った。
「中継地点が?なるほど」
戦闘団の主たる任務は、霊域の探索及び霊峰ヒストリーチの踏破。そのための環境がしっかりと整えられているようだ、とロニールは思った。
「それにしても、皆さんリラックスされてますね」
彼は、和気あいあいと過ごす第2小隊の面々を見やる。
「前線行きを目前に控えた今よりも、普段訓練に浸っていたときの方が緊張感を感じます」
「確かにね」
笑ったヘルマン。
「向こうに行けば嫌でもピリつく時間が長くなるから。あえて今は緩めてるんだ。ずっと気を張りっぱなしだと……ほら、疲れちゃうだろう?」
そう言った彼は、第1小隊のカミラのことを想起していた。
家族孝行で休暇を取っていたため、ロニールとカミラの一件に立ち会ってはいないが、仲間から事の顛末は聞いていた。一時期珍しくも、重たい空気が第1第2の両小隊に漂っていたことを、彼はよく覚えている。
(精神的なメリハリをしっかりとつける、ってことか。気を抜くとは違うし、鈍感にもならずに)
任務経験を積んでいる先輩たちの在り方。自分もこうあれば、霊域での活動に適応できるのかも知れない、とロニールは思った。
(やっぱウェイトか)
神妙に頷いていた彼は続ける。
「向こうでの生活ってどんなものですか?ずっと霊峰を目指して行動するんですか?」
「いや、数週間単位の行動を繰り返すんだ。休養期間を挟みつつ、ね。分隊の動きに慣れて、心身が霊域に順応してから本格的に霊峰の踏破に挑戦するんだけど、その時の行動は1週間程度、長くても2週間を超えることはない。疲労しながらできることじゃないからね」
(良かった、筋肉と語らう時間はあるみたいだ)
これは適応したも同然だな、とロニールは思った。
「なるほど。休養日はどんなことを?」
「そうだね……休みらしいことと言えば釣りくらいかな。でも身体を動かしている人も多いね。長く休める時はこっちに帰ってくる人もいる。私もね」
「ご家族がいらっしゃるんですもんね。寂しがられませんか?」
非常に危険な任務、送り出す家族はどんな気持ちなのだろう、とロニールは思った。送り出される側ではあるが、他人事ではない。
「一番下の子どもも、もう10歳だからね。受け入れてくれているよ。妻もね」
いや、そうではないな、とヘルマンは思った。私を見送る妻の穏やかな表情の裏には、隠しきれない不安が見える。長く離れることになるその別れの時は、何年経っても慣れないものだ。明日もまた……。
「……そうですか」
ロニールはヘルマンの表情に一瞬の曇りを見た。
(やっぱり寂しいし、不安だよな)
自分を送り出すことになる両親も、そう思うのだろうか。危険が明白である以上、安心させることはできない。できることは、無事に帰って顔を見せることだけだ。
「今回も、ご健闘を願っております。途中で自分もそちらに行きますので」
「ありがとう。楽しみにしているよ」
〇
ヘルマンと話した後、昼休み前に第2小隊の終礼に参加したロニール。一緒に前線には行かないながら、彼もまた第2小隊の隊員と共に半休となった。
彼は食堂で昼食を済ませると、早々に家に帰る。
先日カミラをウェイトトレーニングに誘っており、今日の午後から布教、いや、体験してもらうことになっているのだ。
(合トレ……ではないな、教えるだけだから)
前世から一貫して、トレーニングには粛々と打ち込むタイプのロニール。誰かと一緒にやる方がパフォーマンスが上がる、という人もいるが、彼はそのタイプではなかった。
(人とやっても集中しきれないんだよな。……カミラさんはどういうタイプだろう)
彼は、カミラがウェイトトレーニングを続けていくという前提で想像力を働かせていた。




