顔合わせ
カイウスとの話に出てから一週間ほど。これからお世話になる小隊に実力を見せる機会は訪れる。
第1小隊長エルミナとの初対面の挨拶もほどほどに、ロニールは戦闘訓練場に模擬戦用の装備を整えて立っていた。
「ロニールです、よろしくお願いします」
彼は訓練場に集まる大勢を前にそう言うと、改めて周囲を見渡す。
(とんでもないことになってるな)
エルミナの第1小隊とカイウスの第2小隊、それぞれのメンバーの大半が訓練場を囲っている。コロッセオに立つグラディエーターはこんな気分だったのだろうか、とロニールは思った。この場をコロッセオと表現するには、そこまで広くはないし、観客は熱に浮かされておらず、あまりに真剣な目をしていたが。
「自己紹介はお互いに済ませているけど、改めて。第1小隊長のエルミナよ」
20代半ば頃の長身の女性。深い色合いの赤髪を後ろでまとめている。女性らしい言葉遣いで、ハキハキと話す彼女は、自分から見て右側にまとまっている集団に手を向けて言う。
「そして、こっちが第1小隊の隊員。よろしくね」
ロニールはエルミナと、彼女が紹介した隊員たちに丁寧なお辞儀をした。
「さて、これから一緒にやっていくにあたって、私たちはあなたの実力を知りたい。資料には目を通しているけど、実際に見ることが一番納得できるし、信用できる。だから模擬戦、してもらうわね」
エルミナが続けた。
「分かりました、全力を尽くします」
軟弱な子どものお世話をするための戦闘団ではないし、霊域での活動を考えれば、ぽっと出のガキに背中を預けるのは不安でしかないだろう。皆さんが安心できるように、そして自分が心置きなく訓練に参加できるようにしよう、とロニールは思った。
「早速始めましょうか。カミラ」
はい、と返事をした女性がロニールの前に出てくる。
身長は160センチを超える程度。20歳前後で、ダークブラウンのショートヘア。
鈍器としても使えるだろう杖を持っており、魔法メインの戦闘スタイルをする、というあからさまな雰囲気を纏っている。
「見ての通り、彼女は魔法戦闘を得意とする」
エルミナが言った。
「《身体強化》以外の魔法を使えないあなたが、魔法使い相手にどう戦うのか。まずはそれを見せて」
エルミナの言葉を聞いても、ギャラリーに反応は無い。ロニールの基本的な情報は共有されているようだ。
「お願いします!」
カミラは快活に、ロニールに言った。
「お願いします」
ロニールはカミラに挨拶を返しつつ、緊張感を高める。
油断はしない。魔法は理不尽なのだ。それはケイルを始めとする先輩たちに散々思い知らされた。
「カミラは《加護》持ちよ。物理ダメージは一定量まで無効化するから、気を使わなくて大丈夫」
とは言え、ロニールはカミラにまともに攻撃を当てることは出来ないだろう、とエルミナは考えた。カミラの最たる強みは、恵まれた魔力量と魔法センスが織りなす魔法。魔法による対処に優れた者でさえ、近づくことは簡単ではない。まともに魔法を使えないとなれば、戦いになるかどうかも怪しい。
「加護?……分かりました」
恐らくスキルなのだろう、とロニールは考えた。初めて聞くものであったが、重要なのは遠慮が要らないらしいということだ。
そんな納得した様子のロニールを見て、カイウスは回復術師を近くに呼ぶ。
「彼女、加減くらい出来るわよ?」
「一応ですよ」
驚いて言ったエルミナに、カイウスは答えた。
カイウスとしては、カミラに対する配慮のつもりであった。ロニールの開幕の行動が予想できたから。
「まあいいわ。2人とも、準備は良い?」
エルミナの問いかけ。
「いけます!」
杖を前に構えたカミラ。
「準備よし!」
気合を見せたロニールは、しかし盾と金属バットを《収納》にしまい、手ぶらで脱力して立つ。
第1小隊の面々は、ロニールの行動に疑問を抱いた。しかし戦闘スタイルは人それぞれ、と疑問は関心に変わる。第2小隊の苦笑いも興味深かった。
「始め!」
エルミナの号令。
バリン、と。カミラの《加護》が無効化される。




