第1小隊の帰還
珍しくも訓練の喧騒が聞こえない、昼前の城塞内。しかしながら、慌ただしい雰囲気が漂っている。
兵士たちは訓練用品やその他の物品をいつになく気を使って整理整頓し、無骨な城の景観をなるべく整える。食堂や厩舎などの設備も今日のために前々から整備されており、普段と比較して綺麗な状態となっている。
慌ただしさが収まりしばらく。兵士たちが霊域側に設けられた城門の周囲に整列し、出迎えの態勢をとる。
春を感じる柔らかい日差しの中、前線に出ていた部隊がサイルに戻ってきた。
指揮官の号令で一斉に敬礼する出迎え部隊。
帰還部隊の先頭は、凛々しく立派な馬に乗る戦団長。王族がひとり、第二王女アルシェナ・ソシトラスその人だった。
〇
特に何か起こるわけでもなく出迎え行事は進行、終了し、戦闘団全体がそれぞれの業務や訓練に移っていく。
戦闘団所属の一員として行事に参加したロニールは、昼食を食べながら戦団長のことを思い出していた。
(あれが王族か)
入隊してから組織のトップのことは聞いており、存在としては認知していた。逆に言えば、入隊するまで王族が辺境であるサイルの周辺で行動しているなど知りもしなかったが、とにかく直接見たのは初めてだった。基本的に前線に張り付いているとのことで、サイルに来ることは珍しいそうだ。
(かなり美人で……人形のような人だったな)
清廉で理知的な雰囲気。そして無機質。人形のよう、とは可愛らしいという意味ではない。どこか人間味が感じられない、奇妙な空気を纏っている人だった。
不敬とも言える人物評価を胸にしまったロニールは、昼食を済ませるとカイウスの下へと向かう。話がある、と呼び出しを受けていたためだ。
話の内容は恐らく、前線復帰のこととそれに伴う自分の今後の立ち振る舞いについてだろう、とロニールはあたりをつけた。
戦闘訓練場を歩く彼は、端に設置された長椅子に座るカイウスを見つける。
「お疲れ様です」
ロニールは、昼休みにも関わらず身体を動かしている兵士を、真剣な面持ちで眺めていたカイウスに声をかけた。
「お疲れ様。まあ、座ってよ。すぐに済む話なんだけどさ」
ロニールに視線を移したカイウスは、長椅子の空きを示して言った。
失礼します、と座ったロニールに、彼は続ける。
「話っていうのは、私の小隊が前線復帰すること。そして、ここに残していくことになるロニールが何をするかについてだ」
「はい」
でしょうね、とロニールは思った。
「ロニールには、今回帰ってきた部隊と共に実地訓練をしてもらう。サイルから霊域に入って、霊域での活動に必要な知識や技術を学んでいくんだ。とりあえず、戦闘能力自体は前線で通用するだろうと思う」
にわかに信じ難いことにね、とカイウスは内心で思う。
ロニールの特性を理解している者が組めば、の話だが、霊域深層の魔物ともやりあえる。7歳、肉体的には12歳になろうという若者に対して妙な話だが、すでにそういう段階にあるのだ。
霊峰からはどうかと言われれば、そもそも行き詰まっているので何とも言えないが。
「でも、戦えるだけだとどうにもならない。むしろ戦闘の回数を減らすよう努力するのが、霊域探索のセオリーだ。そういったところを含めて、前線での任務に足る充分な実力をつけてくれ」
「分かりました。半年以内にそちらに向かえるよう、精一杯努力します」
ロニールは真剣な眼差しで言った。
「そうだね、待っているよ」
冗談とも取らずに、カイウスは答えた。
「次の担当部隊に申し送りは済んでいる。後日、私たちがまだいる間に顔合わせになる。現状の実力を実際に見たいと思うから、よろしくね」
「なるほど、分かりました」
模擬戦だろうな、とロニールは思った。
「お世話になる小隊長、エルミナさんはどんな方なんですか?……邪険にされないでしょうか。急によく分からないガキの面倒を見ることになって」
「問題ないよ」
ロニールの自虐の冗談に笑ったカイウス。
「すぐに馴染めるさ。なにせ、実力主義だからね」
私たちと同じように、と彼は思った。




