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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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17/26

従士ロニール S

 早朝のサイル。

 ロニールはドッグタグのような身分証を、城門に設置された魔道具にかざす。時間帯の都合で城門は閉まっている。少しだけ待つと城門の向こうから物音が聞こえ、大きな扉の一部、徒歩門が開いた。


「おはようございます。今日もお疲れ様です」

 ロニールは門を開けてくれた門番に挙手の敬礼をした。彼は無帽であったが、兜があろうとなかろうとこの動作で行うという規則だ。


「おーう、ロニールか。今日も早いな」

 癖のある答礼をしながら、ベテランの門番は言った。


 城門を通過したロニールは、戦闘団の射場を目指す。

 春が近づきつつも涼しい日々、早朝ともなれば空気は肌を刺すようだった。しかし、そんなことは気にも留めていない様子の彼は、朝にだけ感じられる澄み切った空気を味わいながら歩く。


 安全を考慮して他の訓練場から区切られた射場に着いたロニール。一礼をしてから入場する。前世では弓道を含む武道全般の経験のない彼だったが、射場に漂う静かで厳粛な雰囲気が、どうしてもこの行動を取らせるのだ。


 射場では既に数人の男女が自主訓練に励んでいた。正規兵の先輩たちだ。

 向けられた視線や意識に敏感な彼らの邪魔にならないよう、観察を控えたロニールは、充分な間隔を開けて射座に着く。そして《収納》から弓と矢を取り出すと、静かに、淡々とターゲットを射る。《弓術》スキルが示す実力の一歩先の答えと、体感覚に全神経を集中させながら。


 ロニールは、射った矢の回収を済ませ弓の訓練を終えると、すぐ横に設けられている投擲訓練用の射座に着く。先ほどよりもターゲットは近い距離にある。

 使用するのは投擲用の杭、いわゆる棒手裏剣。彼はまた静かに、淡々とターゲットに棒手裏剣を突き立てていく。《投擲》スキルが示す答えと、体感覚に全神経を集中させて。

 投擲武器は十字手裏剣やスローイングナイフも考えた。しかし、貫通力と最速の攻撃速度を求めた結果、棒手裏剣に落ち着いた。使用難易度が高い側面もあったが、持ち前の身体能力と《投擲》スキルの補助によりすぐに使えるようになった。

 ちなみに、本気で破壊力を出したい場合は、重くて安価な鈍鉄球を全力で投げつけることにしている。


 こうして、ロニールは約1時間半ほどの自主訓練を終える。早朝の自主訓練では、決まって《弓術》と《投擲》の強化を行っている。

 この2つのスキルに関しては、落ち着いた環境で1人で集中して取り組むことが、スキルを成長させる最も効率的な手段だ。少なくとも彼にとっては。具体的には、この方法で行う時にスキルの反応が最も良くなるのだ。


 一礼し、射場を後にしたロニール。

 彼は食堂へと赴き、山盛りの朝食を摂る。

 そして課業時間となり、午前中は戦闘訓練。相手の動きを観察して学習、即座に実践のサイクルを回し続ける。スキルに集中することも忘れない。

 山盛りの昼食を摂って、夕方までまた戦闘訓練を行う。

 課業を終えて、3食目も格安で提供される軍の食事を摂って実家に帰宅すると、ウェイトトレーニングで快感を得ながらフィジカルを強化しつつ、心身を整える。そして実家で家族団らんの中、4食目を摂る。

 それから寝るまでの間は、とにかく《身体強化》に励む。


 冒険者ギルドと同様に、薬草や魔力草を採取すれば軍が買い取ってくれるのだが、それに時間を使うことはない。従士としての給与があるため、その必要がないのだ。


 入隊してから約半年。

 王国軍に入って良かった、と彼は心からそう思う。

 気が付けば、冒険者でいた時の何倍ものスピードで成長している。

 自由であったはずの冒険者生活以上に様々な経験を積めて、強くなるために時間を使えて、より多くを稼いでいる。武器や装備も、しっかりした品質のものが軍から安く手に入る。


 軍規や法律の学習も必要だったが、かなり簡単な、常識的な内容だった。

 世界全体のことは分からないが、この国に義務教育は存在せず、識字率も低い。そのため、軍という組織全体に高度な教育を施すことは現実的ではないのだろう。その中で、国が有する武装集団である王国軍兵士に求められている在り方とは、ならず者や犯罪者と明確に一線を画すこと、それだけなのかも知れない。


 今後は戦闘訓練だけでなく、野営訓練、行軍、サバイバル訓練なども行われるようだ。

 しかしそれも今後の人生において、兵士としても冒険者になろうとも大切なことだ。しかも、個人であったなら自分で失敗を重ねながら学んでいかなければならないことを、優秀な指導者や模範となる先輩に囲まれて着実に習得できるというのだ。


 一方的に恵まれ過ぎではないだろうか、とロニールは思う。

 これだけの好待遇が無条件に与えられて良いものだろうか。自分は何を求められ、何を返せるのだろうか。雇い主といえる国に、そして、直接お世話になり続けている上司や先輩と戦闘団に対して。


 実のところこの待遇は、任務により霊域に挑み成果を残すというリスクと責任に応じた、妥当なものである。しかし、ロニールが個人で目指していた目標とピタリと重なっているために、ただ恵んでもらっているかのように錯覚しているだけであった。


 《瞑想》を発動させた上での《身体強化》の訓練を終え、ベッドに横になったロニール。

(カイウスさんたちは前線復帰か)

 彼は天井を眺めながらぼんやりと考える。


 前線とは、戦争ではなく霊域探索の前線だ。

 霊域の本格的な探索は全戦闘部隊で一斉に行うものではなく、1年単位のローテーションを組んで交代で行われる。霊域探索は肉体的にも精神的にも非常に負荷が大きいためだ。そのローテーションで、戦闘団が構築している探索拠点に移ることを、前線復帰と表現しているのだった。


 ロニールがこの半年間お世話になり、馴染んだ小隊はサイルを出てしまう。そして、次に会うときに全員が生きているとは限らない。当然だ。霊域とはそういう場所で、あまつさえ戦闘団は樹海を超えた先、霊峰の踏破を目指すのだから。

 ロニールが最前線の霊域探索についていくことはできない。単純な戦闘力においては通用する、とは言われたが、その他の面で経験不足であるから。


(これから半年以内に、霊域での活動に足る実力だと認めてもらう。そして今回の前線での探索期間が終わるまでの半年、できればあの人たちと共に霊峰を目指したい)

 今回のローテーションを逃せば、馴染みの第2小隊と挑める機会は2年後……ではなく、さらに数年先になってしまうから。彼は9歳以降、正規兵となるための入校を控えているのだった。


 ロニールは決意を胸にしつつ、眠気に意識を手放した。



 〇



========

【名前】ロニール

【種族】鬼人

【スキル】

 《泳術》Lv4

!《斧術》Lv5

 《隠密》Lv1→Lv2

 《解体》Lv2

!《格闘術》Lv5

!《弓術》Lv5

 《剣術》Lv3→Lv5

 《採取》Lv2

 《算術》Lv4

 《身体強化》Lv3→Lv4

 《収納》Lv3→Lv4

 《生活魔法》Lv1

 《清掃》Lv4

 《走術》Lv4→Lv5

!《槍術》Lv5

 《盾術》Lv3→Lv5

 《超回復》Lv5→Lv6

 《調理》Lv4

 《追体》Lv2→Lv5

!《槌術》Lv5

 《投擲》Lv2→Lv5

 《瞑想》Lv4

 《漁》Lv1

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