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フィジカルは大抵の問題を解決する。異世界でも  作者: やがた おうぎ
1章 幼少期

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道は移り行くもの

 ロディオンは声のトーンを落とし、真面目な雰囲気を作って言う。

「これから話すことは世間に出回っていない情報だから、言いふらすのはよしてくれ。機密というほどでもないんだけど、軍の活動内容の詳細は大っぴらにしないものだからね。我々は樹海を突破し、霊峰に到達している。君が霊峰の踏破を目指すというのなら、我々と共に来ないか?目的は同じだ」


「疑うようで失礼なのですが、本当ですか?冒険者に聞く限り、兵士の霊域での活動は中層までと……」


「安心してくれ、事実さ」

 ロニールの疑念に気を悪くした様子もなく、ロディオンは言った。

「我々の霊域探索はサイルから行うものではない。サイルから近い霊域で行う探索は、オフシーズンの肩慣らしみたいなものだ。本格的な探索の拠点は別にある。詳細までは控えるけどね」


「そうだったんですね……」

 ロニールは王国軍兵士の実力に、素直に驚いた。そして、入隊に前向きでは無い、大きな理由の1つが無くなった。

 ソロでの踏破をイメージしていたが、必ずしもそうでなくてもいい。命は1つしかないのだからリスクを抑えて挑戦する手段があるのならそうすべきだ、と彼は思った。ソロでの踏破は、王国軍として成しえたその後でもいい。

「兵士としての生活は、どのようなものですか?馬の世話に城の管理。強くなるために使える時間はどれほどありますか?」


 生活について、つまり入隊後についての質問を受けたロディオンは、いい傾向だ、と思った。

「管理や支援業務を負う部隊は戦闘部隊とは他にある。戦闘部隊に入った暁には強くなることに集中していい。言わば、それが仕事なんだ。遠征訓練である程度長期の拘束はあるけど、基本的には個人の時間も確保できるよ」


「それは……素晴らしい話ですね」

 トレーニングと指導者付きの訓練に給与が発生するらしい。最高じゃないか、とロニールは思った。

「冒険者活動は……並行できませんよね?」


「それは難しいね。昔は問題なかったんだが、冒険者とのいざこざに巻き込まれたり、まあ起こしたりする事案が多くて。市民からの評判が悪化することを懸念して、今は禁止になってしまった。冒険者登録自体を解除する必要はないけどね。しかし、しかしだよ」

 ロニールが不満を抱く可能性を潰すようにロディオンは強調した。

「冒険者活動と同じようなことはできる。兵士が余暇を利用して、自主的に狩りや採取に出ることは許可されているからね。ダンジョン探索だったり、霊域の探索だったり。成果は個人のもので、買い取りは軍が行う。冒険者ギルドも公正に買い取っているけど、それよりも少しだけ良い値が付くことが多い。人員管理の都合上、活動の都度申請が必要というのが多少面倒に感じるかも知れないけどね」


「至れり尽くせりじゃないですか!」

 あまりの都合の良さに、ロニールは思わず笑ってしまった。


「そうだろう、そうだろう」

 明らかに乗り気なロニールの様子に、流れが向いていることを感じるロディオンはアピールを重ねる。

「さらに、兵士の医療費は基本的に無料、余程の怪我で高位の聖職者の力を必要とする場合は一部負担。宿舎に入れば格安で住めて3食付き。そうでなくても食事は格安で提供される。……どうだろう、ロニール君。王国軍に入って、このサイルで我々とともに霊峰を目指さないか?」


 静かに聞いていたカイウスも、期待を寄せた目でロニールを見る。


「以前とは打って変わって、大変魅力的に感じています。……最後に1つだけお聞きしたいです。戦争に参加させられることはありますか?」

 ロニールが強くなりたいのは、自己実現のためだ。人殺しのためではない。この世界に生きる以上、必要とあらば躊躇はしない覚悟でいるが。


「ないとは言い切れない。でも現在のところ心配いらないだろう。隣国とも緊張状態にはないのでね。それに、霊域の探索及び霊峰ヒストリーチ踏破の任務を課される我々が真っ先に前線に配置されることは考えにくい。……さて、どうかな?」


「両親と話す必要はありますが、反対はされないと思います。勧誘、謹んでお受けいたします。霊峰ヒストリーチ踏破を達成するまでの間になるかも知れませんが、それでよければよろしくお願いします。」

 最終的には世界を見て回りたいロニール。兵士として生涯勤め上げることはできないが、今求められているのは任務達成のための戦力だろう。


「充分だ。もちろん、気が変わったら踏破後もいてくれていい」

「これからよろしくね」

 ロディオンとカイウスがそれぞれに言った。


 こうしてロニールは、ひとまず冒険者の道から外れ、兵士としての道を征くことになった。



 〇



「あれが鬼人ロニールか。噂に違わず怪物だったなあ」

 ロニールが帰ったあとの部屋で、ロディオンが笑みを浮かべて言った。


「ご対応ありがとうございました。その様子だと、彼はお眼鏡にかないましたか」

 上司であり師匠でもあるロディオンにやり取りを任せていたカイウスは言った。


「もちろん。前々から報告は受けていたけど、実際見ても素晴らしいね、彼は。ケイルとの模擬戦で見せた膂力に、自己分析能力。経験を積めば急激な成長を見せるかも知れないね。それに礼儀正しい。接していて気持ちがいい人間だ。カイウスが目を掛けるだけのことはある」

 実はロニールとケイルの模擬戦を見ていたロディオン。

「しかし、魔力量は思っていた以上に少ないようだね。本人も言っていたけど、使いこなす魔法は《身体強化》で手一杯だろうな。我々がどのような訓練を施そうと、そこは変えられない」


「そうなると、《身体強化》の達人が指導にあたりますか?」

 カイウスが意味ありげにロディオンを見て、どこか揶揄うように言った。


「俺か?」

 ロディオンは笑った。

「それならカイウスでも良いじゃないか。そもそも、戦闘スタイルに共感したから目を掛けているんだろう?でも肝心の《身体強化》の指導にはあまり乗り気ではないみたいだね。どうしてかな?」

 彼は答えを察している様子で、あえて尋ねた。


「彼の《身体強化》が異質だからです。私がやっている事と違い過ぎて、型にはめてしまうのが勿体ないと感じてしまいます。模擬戦を見て、そこはどう感じましたか?」


「同意見だよ。彼の独創性を尊重すべきだろう。その先に、我々が欲する瞬間的かつ圧倒的な殲滅力が実ることを期待してね。幸い、彼の武器になり得るものは他にもたくさんある。そちらを伸ばしていこう」


「はい。身体的な技術の習得が異常に速いので、訓練は詰め込んで大丈夫だと考えています。指導者の選定を……」


 ロニールの入隊には試験が必要であったが、合格する前提で話を進める彼ら。

 後日、その想定通りロニールは難なく試験を通過し、従士として戦闘団への入隊を果たした。


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