第19話 幕間:世界に伝わる御伽噺
むかしむかし。
世界がまだ、とても静かで平和だった頃のお話です。
ある日のこと。空が二つに裂けました。
大地が怒ったように揺れ、海が荒れ狂い、恐ろしい暗闇が世界をすっぽりと覆ってしまいました。
それは、邪神の目覚めでした。
邪神の名前は「黒の物語」。
山のように大きな黒い体を持ち、緑色に光る目で、世界をギロリと睨みつけます。
黒の物語がひとつ息を吐くたびに、街は燃え上がり、山は崩れ落ち、人々は泣き叫びながら逃げ惑いました。
どんなに鋭い武器も、どんなに強い魔法も、黒の物語にはちっとも届きません。
世界中の人が、もう終わりだと絶望しました。
◇
けれど、そんな暗闇の中に、三人の勇者が立ち上がったのです。
ひとりめは「ランプ」の勇者。
導く者。
邪神の居場所を見つけ出し、闇を照らして仲間を導く、とても賢い知恵の勇者でした。
ふたりめは「盾」の勇者。
守る者。
どんな恐ろしい攻撃を受けても決して倒れない、優しく力強い不屈の勇者でした。
さんにんめは「剣」の勇者。
戦う者。
誰よりも強く、誰よりも気高い心を持った、最強の勇者でした。
◇
三人はかたく手を結び合い、力を合わせて黒の物語に立ち向かいました。
ランプが迷いのない道を示し、盾が傷つく仲間を守り抜き、剣が先頭に立って勇敢に戦いました。
それはとても長く、苦しい戦いでした。
三人は何度も倒れ、それでも何度も立ち上がりました。
そしてついに、最後の時がやってきました。
剣の勇者は、ボロボロになった仲間たちを振り返って、にっこりと笑いました。
太陽のように晴れやかな、誇りに満ちた笑顔でした。
「ここから先は、私の役目だ」
剣の勇者は、少しも恐れることなく黒の物語のふところへ飛び込んでいきました。
そして、自らの尊い命と引き換えに、恐ろしい邪神を深く暗い底へと封じ込めたのです。
盾の勇者は、その封印が二度と解けないよう、扉の前で永遠に見張り続けるという固い誓いを立てました。
こうして、世界に再び平和が戻ったのです。
◇
剣の勇者は、世界で最も尊い英雄として讃えられました。
自分の命を惜しみなく捧げ、みんなの笑顔を救ってくれた。
その気高い名誉は、これから先も永遠に語り継がれていくことでしょう。
もしもいつか、再び黒の物語が目覚める時が来たとしても、決して恐れることはありません。
その時はまた、ランプが光で道を示し、盾が立ちはだかって守り、そして剣が勇敢に立ち上がることでしょう。
世界を救う勇者は、必ず現れます。
なぜなら勇者とは、みんなのために命を捧げることを、少しも恐れない者のことなのですから。
◇
これが、『黒の物語』。
世界で一番有名で、一番美しい、勇者の物語。




