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魔法

「ここよ」


 リードにつながれた犬のような気分を味わいながら連れられてきたのは校庭の端にある小さな倉庫。 


 何をするのか全く聞いていないため正直不安しかない。


「えーと、大精霊様からはリコは魔法初心者って聞いてるんだけど。魔法自体は使ったことあるの?」


「え、と……な、ないです……」


「ん、分かった。じゃあまずは固有魔法を調べなきゃいけないわね」


「こ、固有魔法……?」


 聞き慣れない単語にオウム返しをするとウィルは倉庫で何かを探しながら答えてくれた。


「固有魔法っていうのはその人が習得するべき魔法のことを言うの。魔法っていうのは人によって得意なものが全然違ってて。例えばある人は火を出すのが上手だけど、別の人は水を出す方が得意、みたいな感じね」

 

 日本で言うところの勉強が得意な子もいればスポーツが得意な子もいる、ということかな?


「もちろん固有魔法以外の魔法も努力すれば習得はできるけど、何倍もの労力がかなってしまうから今は素直に固有魔法を極めた方がいいって言われてるの」


「へ、へー……そうなんだ……」


 丁寧な説明に得心していると、ウィルは倉庫から謎の木箱を持ってきて楽し気に微笑んだ。


「さて、リコの固有魔法は何かしらね?」


 ウィルは箱の中から占い師さんが使うような水晶玉を取り出した。


「これは……?」


「固有魔法を調べるための道具よ。手をかざしてみて」


 言われるがままに手をかざすと水晶玉がぼんやりと淡く光り出した。

 ウィルはその中をジーっと覗き込んでいる。


 占いみたいに文字が浮かび上がってくるみたいなそんな感じなのかな?


「……見えてきたわよ。リコの固有魔法は……想像魔法ね」


 想像魔法……ってなんだ? と思っているとちょうどウィルが補足してくれた。


「自分の頭の中で想像したものを実際に具現化できる魔法ね」


 おお、なんかすごそうだ……!

 もしかしたら私も、想像魔法を極めてすごい魔法少女になれるんじゃ……!?


 という淡い期待を抱いていた私だったけどウィルは表情を若干曇らせる。


「想像魔法、か……。これ、すごいセンスが重要なのよね。使える人は使えるし、使えない人はてんでダメ。リコは……うん、まあ…………うん」


 私にセンスがないってこの子が思っているのは明白だった。

 確かに私センスないってよく言われるし否定しきれないんだけど、それでもそんな顔しないでほしい……。


 ウィルは無理やり口角を上げました! というのがバレバレな笑顔で、


「でも頑張れば何とかなるわ! そう、頑張りましょう! 努力は裏切らない! ファイト!」


「う、うぅ……はい、頑張ります……」


「でもとにかくやってみなきゃ分からないわよ。大精霊様が連れてきたくらいだし。大丈夫、できなくても見捨てたりしないから!」


 という、フォローになっていないフォローをされて案内されたのは射撃場。


 そこではクラスメイト達が遠くの的に向かって火の玉や氷の塊とかを飛ばして魔法の訓練をしていて、それらが杖の先から放たれるたびに的に大きな穴が開いていく。


 これまでファンタジーの世界にしかないと思っていた魔法がこうして目の前にある。


「す、すごい……」


 実際の魔法の迫力に心をすっかり奪われていると、先を行っていたウィルが足を止めた。


「ここでいいかしら」


 彼女が立っているのは空いている的の前。


 今からお手本でも見せてくれるのかな?

 

 呑気に考えていた私だったけど、ウィルはそんな希望を打ち砕くように的を指さしながら言い放った。

 

「リコ。試しにあの的に向かって魔法を撃ってみてちょうだい」


 …………へっ?


「えっと……え?」


「どうしたの? 聞こえなかったかしら」


「いや、そうじゃなくて……い、いきなり? 撃つの?」


「そう」


「わ、私が?」


「当然じゃない」


 ウィルは『早くしなさい』と言いたげに腕を組んでいる。


「い、いきなりはその、難しいんじゃ……? わ、私初心者、だし……」


「そうは言っても今のあなたの実力が分からないんじゃ教えようもないわ」


 それはそうなんだけど……魔法の打ち方なんて習ってもいないのにどうすればいいんだろう?


「……ぐ、具体的には、どうやればいいの?」


 問うと、ウィルは「あっ」と思い出したかのように腕をポンと叩いて。


「説明し忘れていたわ。えっと、魔法を撃つ時はまず、こう、グーっと自分の魔力を固めるの」


 ウィルはおにぎりを握るみたいな動作をする。


「そして想像魔法なら杖の先から魔法が出るのを想像して、バン! って感じ!」


「…………???」


 そこからさらに説明があるのかと思って待っていたけれど、ウィルは特に何も言ってこない。


「えっ? そ、それだけ……?」


「ええ。どうしたの?」


「い、いや……何も……」


 ウィルってこういうタイプの子だったか……。


 正直今の説明では全然理解できていないんだけど、このままだと話が進みそうもないのでひとまず言われたとおりにやってみることにした。


 さっきのウィルの説明を信じるなら私の魔法は想像力がものを言うということになるっぽいので目を閉じて視覚情報を一度シャットアウトして想像しやすくしてみた。


 ウィルが最初に言っていた『グーっと魔力を固める』という部分からよく分からないけれど、まずは自分の中に魔力が血液みたいに流れている様子を想像してみる。


 次に手に握られた杖にも全身をめぐる魔力の一部が流れ込むようなイメージを膨らませていく。


 杖に魔力が溜まり切ったと思ったところで、その先から白色にボワッと輝くエネルギー弾が生まれて。


 そして野球ボールを投げるみたいにスナップを効かせて杖を振りかぶって最高速度に達した瞬間、ふわふわとクラゲみたいに宙を漂うエネルギー弾が一気に的を目掛けて飛んでいく、という場面を想像しつつ腕を振るった時。


 バンッッッ!!!!!


 すさまじい突風が吹き荒れたかと思えば、遠く前方で何かがはじけ飛ぶような音が耳をつんざいた。


 何が起こったのか分からない恐怖で目を閉じたままでいたけれど、音が鳴りやんでからおそるおそる薄目を開けると。


 数十メートル先に規則正しく並んでいたいくつもの的が跡形もなく消え去っていた。さらに地面にはショベルカーでも通ったかのようにえぐられた跡が。


 私はお守りのように杖を握りしめながらウィルに目線で説明を求める。


 一方のウィルもきれいな二重の瞼を大きく開いてこちらを凝視していたけれど、微かに口を動かして。


「……すごい……すごいわ、リコ! 本当にすごい!」


「……へっ?」


「だってあれ、あなたがやったのよ? 想像魔法の初心者なんて小石を作り出せれば上出来だというのに、魔法を練り上げて的に命中させて、しかも威力も申し分ない! あなた、本当に才能があるのね!」


 ウィルは興奮した様子で私の手を握ってブンブンと振る。


 あんな遠くの的をほとんど私が吹き飛ばした? 本当に?


 ウィルの見間違いじゃないかと疑問に思っていたけれど、彼女の証言を裏付けるかのように周りにいたクラスメイト達も騒ぎ立て始めた。


「リコちゃん、どうやったらそんなに強い魔法を使えるの?」

「マジか……本当に初心者かよ」

「魔法少女ってやっぱりすごいんだな」


 今までの人生でこんなに褒められたこともないってくらいみんなが私のことを褒めてくれる。

 褒められてない私はどうすればいいのか分からずあたふたしていると、ウィルが得意げに胸を張った。


「私の教え方がうまかったんじゃないかしら?」


 それにお調子者の男子の一人からヤジが飛ぶ。


「何言ってんだ! なわけあるかよ!」


「なによ、なんか文句あるの!?」


 そこからさらにクラスメイト達が悪ふざけで口論を盛り立て始めてちょっとした寸劇みたいなのが始まった。


 本当は授業中にこんなことしちゃいけないとは思ったけれど、止めようなんて気持ちは湧いてこなかった。


 クラスみんなが笑っていて、気軽に軽口を言い合える信頼関係があって、周りもそれを認めていて。


 日本にいた頃には想像もしえなかった光景が私の周りで起きていることに、ちょっぴり楽しいって思っちゃったから。


「リコ、あなたからも何か言ってよ! こいつ、全然聞く耳もたないの!」


 ウィルが私に手招きをしているのが見える。


「早く早く!」


「あっ……う、うん……!」


 自然に広角が上がっていく。


 こんなこと、何年ぶりだろう。

 今、久々に心から楽しいって思えたような気がした。


 こんなに明るい声で名前を呼んでくれるって、嬉しいな。


 スキップでもしたくなるような気分でウィルのそばまで駆け寄ろうと私は走り出した。


「チッ」


 直後、隣の射台から乾いた舌打ちが聞こえてきた。


 振り返ると、氷柱のように冷徹で鋭い眼光が私を見下ろしていた。


 背が私よりも頭一つ分高くて髪の長い女の子。


 しかしその子は私と目が合うや否やすぐに目を逸らし、どこかへと行ってしまった。


 私、何かしちゃったかな……?


 声をかけようか悩んだけれど、結局声をかけることはなかった。

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