ペア
魔法学校は午前中は座学中心で午後は実技という構成で進んでいくらしい。
そして今、ちょうど午前中の授業が終わったところだ。
座学というからにはてっきり難しい魔法式の解説とかをするものとばかり思っていたけど、魔法は実技を通して学んでいくというのがこの世界のスタンダードっぽい。
あと言葉について失念していたけれど、この世界に来てから普通に他の人と会話したり文字とか読めていることをツジッキーに訊いてみたら。
「リコに渡したペンダントがあるだろう? あの中に翻訳の魔法を組み込んでおいたんだ。だからリコも自然に読み書きできるし、日本語を話しているつもりでも相手にはこちらの言葉を話しているように聞こえるのさ」
「へー。これってそんなにすごいものなんだ」
「うん。実は結構希少なものだからね。他にも異世界人のリコをこの世界に引きとどめたりする役目とか、色々な便利機能があるけど説明はあとでするとして。もうすぐ午後の授業だ。実技は校庭でやるから一緒に行こうか」
促されるまま校庭に向かうと、すでに多くの生徒たちが集まっていた。
私たちが予鈴ぴったりに到着すると同時、イザベル先生が声を響かせた。
「では今から魔法操作の授業を始めます。前回同様、ペアになって基本的な魔法の操作の確認から行ってください」
「えっ。ペ、ペア……?」
「どうかしたのかい?」
「いや、何もないけど……」
ツジッキーにはそう言ったけれど、私は少しばかり憂鬱になってしまう。
私は魔法のまの字も分からない初心者でペアの子に迷惑をかけるのは必至。
迷惑をかけるくらいなら一人で黙々と教本でも見て勉強した方がいいし、中学ではいつも一人だったからむしろそっちの方が落ち着くのにな――と、一人ネガティブ思考に浸っていると。
「ねえ、あなた大丈夫?」
「へ、へい!?」
我ながら変な返事をしながら振り返ると、目の前に一人の女の子が立っていた。
「へい?」
「あ、いや、その……な、なんでもないです……」
その子は首を少し傾げていたけれど、特に追及することもなく微笑みながら切り出した。
「私はウィル。今日のあなたのペアよ。よろしくね」
「あっ……えと……の、野山リコ、です……。よ、よろしく……お願いします……」
縮こまりながらそう返して、私は目の前のウィルという少女を前髪の隙間から観察する。
長い金髪に意思の強そうな瞳を携えた、堂々とした立ち振る舞いの子だ。
身長は私と同じっぽいけど、私が猫背だからかウィルの姿勢がいいのかウィルの方が視線が若干高く、存在感があるように感じられた。
だけどそれは決して自己主張が激しいというわけではなく、この子自身の自信がひそかに表れているといったそんな感じ。
外見だけ見れば私とは正反対で、でもいつかはなってみたい陽オーラ全開の女の子だ。
憧れの気持ちを持ってウィルのことをひそかに見つめていると、エメラルドグリーンの瞳が私の足元に落ちた。
「大精霊様もこんにちは」
「やあ、ウィル。今日は無理を言ってすまなかったね。迷惑じゃなかったかい?」
「そんなことないわ。学級委員長として当然のことをしたまでよ。それに伝説の魔法少女に魔法を教えてあげられるなんてすごく誇らしいわ」
ウィルは得意げに胸を張る。
明るくて可愛いだなんてもはや反則だ。
「そう言ってくれると助かるよ。じゃあ今日はリコのこと、よろしく頼むね」
「ええ、任せて! ビシバシ鍛えてあげるから! さあ、リコ! 行くわよ!」
途端にウィルはガッと力強く右手を握ってきてずんずんと進んでいく。
「えっ……ええっ!? つ、ツジッキーは!? ツジッキーも一緒に来てくれるんじゃないの!?」
「僕はちょっと用事があってね。今日はここまでなんだ。ウィルに思う存分しごかれておいで」
「そ、そんなこと聞いてないよ! ちょっと待って!」
「なに二人で喋ってるの? 授業は始まってるんだからさっさと始めましょ!」
「ひ、ひえええ……」
ということで私は異世界での頼みの綱であるツジッキーと別れ、ウィルに連行されるはめになってしまったのだった。




