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大歓迎

 ゲートの中は不可思議な景色が広がっていた。


 入った時と同じような星雲のような渦巻きがそこかしこにあって、私たちはその中をふわふわと漂いながら進んでいく。 


 なんだか宇宙飛行士になったみたいだなーって呑気に浮遊感を楽しむこと三十秒ほど。


「さて、もうすぐで僕たちの世界だ。リコ、心の準備はいいかい?」


「えっ。も、もう着くの?」


「うん。異世界といっても行こうと思えばあっさりと行けちゃうからね。それでどうだい? 行けそうかい?」


「……う、うん。だ、大丈夫……!」


「よし! じゃあ出るよ!」


 ツジッキーが頷いた瞬間、私たちはまばゆい光に包まれた。


 その光は目も開けられないほど眩しくて反射的目を瞑ってしまう。


 目を閉じると同時に、浮遊感が消えて数十秒ぶりの重力が体にのしかかる。


 足には硬い床の感触がして、薄目を開けて様子を伺うとまず奇妙な幾何学模様が目に飛び込んできた。


 観察してみると半径一メートルくらいの円の中に幾何学模様が床に描かれているもので、これっていわゆる魔法陣ってやつかな?


 辺りを見回すと、レッドカーペットがこの広い部屋、学校の教室十個分くらいの隅々にまで敷かれていて、凛々しい赤色を主張している。


 上を見上げれば美術品といってもいいほど精巧なシャンデリアが天井で燦然と輝いて私たちを照らしている。


 部屋の奥には木製の重厚な扉があるけれどこの部屋の広さに遠近感がおかしくなってしまったのだろうか、自分の部屋のドアくらいの大きさにしか見えない。


 ていうか。


「こ、ここどこ!?」


「見ての通り王宮だよ」


「王宮!? な、なんで!?」


「ゲートと繋がってる魔法陣が王宮にあるからね」


「いや、そういう意味じゃなくて! 私が聞きたいのはなんで私は王宮に連れてこられて、王宮に魔法陣が描いてあるのかってことなんだけど!?」


「ああ、それはね――」


 と、ツジッキーが口を開きかけたその時。


 奥の扉が開くとともにいかにも高貴な装いに身を包んだ男女数人がこちらへと向かってきた。


 なんだかあの人たちと比べて視線が高いな、と思えば私たちはこの部屋とは不釣り合いの真っ白な台座の上に立っていることに気づく。


 その集団は私たちのいる台座から二メートルくらい前で止まったかと思えば、センターにいた初老の男性が一歩進み出て来て膝まづく。


「大精霊様、お戻りになられましたか」


 その一言で空気が明らかに重くなるけれど、ツジッキーは変わらず呑気に一言。


「ただいまー。疲れたよ」


 全然緊張感ないな、この子。


 でもこの偉そうな人たちが膝まづいてしかも王宮に出入りできているなんて、本当にツジッキーはすごい妖精さんなんじゃ? 


 その正体に関する疑念を深めていると、ツジッキーは再度緊張感が皆無の一声を発する。


「みんなお待ちかね、魔法少女を連れてきたよー」


 瞬間、初老の男性含む数人の視線が一直線にこちらに向かってくるのが分かった。


 見定めるような視線、疑うような視線、感情の読めない視線。


 それらを一気に浴びて一瞬ひるんでしまったけど私はなんとか一礼をすることはできた。


 その人たちは未だに私を見定めているという感じだったけれど、すぐに初老の男性がすくっと立ち上がって台座へと向かってくる。


「失礼いたします」


 その目はまっすぐに私を見据えていた。


 えっ、なに!? 私なんか変なことしちゃった!?


 もしかしてこの格好?

 こんな厳かな場所にフリルとリボンをつけたままやってきちゃったのがよくなかったの!?


「魔法少女様」


「ひゃ、ひゃい!」


 低く渋い声音に思わず変な返事をしてしまう。


 さっきは台座の下にいたから分からなかったけど、この人すごく背が高い。


 頭二つ分くらい違う高所から鋭い眼光が飛んできて、目を逸らすしかない。


 怒られる……絶対に怒られる……。


 怒鳴りつけられる覚悟を決めて目を閉じたその時、右手がスッと優しく包まれるとともに柔らかな声が耳に届く。


「ブライト王国へようこそおいでくださいました」


「……へっ?」


 おそるおそる顔をあげる。


 すると先ほどとは打って変わって穏やかな瞳を向けたままその男性は私の前で膝まづいていた。


「ブライト王国一同、魔法少女様を心より歓迎いたします」


「……ふぇ……?」


 私は目の前の光景に固まるしかない。


 想像とは真反対の応対をされて何と言えばいいかも分からなかったから。


 対応に困りしばし視線を右往左往させていると、ツジッキーが助け舟を出してくれた。


「リコ。こういう時は普通にありがとうございます、とかでいいと思うよ」


「そ、そうなの? えっと……あ、ありがとうございます……。こ、こちらこそ、ブライト王国の力になれるように尽力するので、え、えっと……。よ、よろしくお願いします……」


 私が自信なさげにそう言うも初老の男性はやっぱり優し気な笑みを浮かべていた。


「ええ、よろしくお願いいたします、魔法少女様」




 魔法陣のあった部屋から出ると、その初老の男性、ロンブランさんに色々と王宮の中を案内してもらった。


 ロンさん(ツジッキーがそう言ってたから私もそう言うことにした)は初めの印象とは大きく違って、物腰が柔らかくてとても親切な人だった。


 しかもこの人ってこのブライト王国の中でも結構偉い立場にいるらしいんだけど、偉ぶったりなんかせずにとても謙虚で私の中の好感度は急上昇を続けていた。


 よくよく見ればいい感じに年を取った感じの男性で、多分若い時はモテたんだろうな。

 なんてぼんやりと思いながら歩いていると、私の一歩先を行っていたロンさんがある部屋の前で振り返った。


「こちらが魔法少女様のお部屋になります」


「わ、私の部屋、ですか?」


「はい。魔法少女様におくつろぎいただけるよう、最高のお部屋をご用意しております」


 ロンさんがドアを開けてくれたのでちらりと中を覗いてみると、テレビでたまに見る高級ホテルのスイートルーム、いやそれ以上の豪華さと広さを持った空間が眼前に広がっていた。


 高そうなじゅうたんに王都全体を一望できる大きな窓とふかふかなダブルベッド。

 他にもソファやら机など何から何まで見たら分かるほど良質なものばかりだった。


「こ、これが私の部屋、ですか……? 本当に?」


「ええ」


「えっと……こんなにいいお部屋、私なんかのために、使ってもいいんですか?」


「もちろんですとも。なにせ伝説の魔法少女様ですから。魔法少女様だからこそ、このお部屋を使うべきだと私は考えております」


 そう言われても……。


 私ここに来てまだ何もしてないし、それに一般人の私にとってこの部屋は不釣り合いにもほどがある。


 身に余る好待遇にポカンとしていると、ツジッキーが相変わらずの表情で話しかけてきた。


「よかったじゃないか。いい部屋を貸してもらえて」


「い、いい部屋って……。わ、私なんて最悪、屋根裏部屋でもいいのに……。……あっ。で、でもやっぱり普通の部屋がいいかな……。けど、別にこんなすごい部屋じゃなくても……」


「何言ってるんだい。リコはこれから魔法少女として頑張らなきゃいけないんだよ? ゆっくり休める場所は必要だろう?」


 そう言われればそんな気がしないこともない。


 魔王軍との戦いがどれほど熾烈なのかは分からないけど慣れない場所だし、やっぱり大きい部屋でゆっくりした方がいいのかな?


 だけど、一人でこの部屋に住むのはさすがに気が引けるな……。


 ちょっと小さめの部屋を手配してもらえるようにアピールしてみよう……。


「で、でも……。逆に広すぎて落ち着かないというか……寂しいというか……そんな感じがしてないでもないかも……?」


「なるほどね。つまりリコは寂しいということか。もう寂しがり屋さんだな~君は」


「ち、ちがっ! そう言う意味で言ったんじゃなくて!」


「しょうがないな~。僕もこの部屋に移ってあげるよ」


「ええ!?」


「ロンさん、手配をお願いできるかい?」


「はい。今すぐに手配いたします」


 あまりの急展開についていけない!


 私が口をぱくぱくさせている間にも話はどんどんと進んでいってしまって。


「リコもそれでいいよね?」


 と言われてしまったからには頷くしかなかった。


 別に私、寂しがり屋なんかじゃないのに!




 そういう経緯で私とツジッキーは相部屋になったんだけど、正直なところそうしてもらえた方がありがたかったし、ちょっと罪悪感が薄れたのは事実だった。


 あらかた王宮を見て回った後は、食堂で夕食を食べて(おいしくてほっぺが落ちそうだった)、お風呂に入って(近所の銭湯の数倍の広さはあった)今はツジッキーと二人で雑談中。


「ところでツジッキー。私ってこれからどうすればいいの?」


 ふと気になったので今後の予定について問うてみると、ツジッキーは回答を用意していたかのようにすらすらと答えた。


「これからリコには魔法少女として魔王軍と戦ってもらうわけなんだけど。いくら才能のある君とはいえここに来たばかりですぐに魔法とか使えって言われても使えないでしょ?」


「う、うん。まあ……」


「だから君には明日から魔法の特訓をするために魔法学校に行ってもらうことになるね」


「……うん? え、なんて? 明日から魔法学校に行くって聞こえたんだけど……」


「そう言ったんだよ」


「え、えええ!!?」


 突然発表された魔法学校への通学予定に私は驚きを隠せない。


「昨日の今日でいきなり学校!? わ、私、心の準備できてないよ!?」


「でも才能だけじゃ魔法は使えないからね。ちゃんとしたところで使い方を学ばないと」


「だ、だけど!」


「入学届はさっきロンさんに書いてもらっておいたからね。早速明日から通えるよ」


 またもや急展開!

 ちょっとは私の意見聞いてよ!


「どうせ言っても何かと言い訳つけて学校に行かない気だろう? この短時間でも大体君がどういう人間なのか分かってきた気がするよ」


「うっ……」


「まあなんにせよ明日からの学校、頑張ろうね!」


 明るいツジッキーとは対照的に私はがっくりとうなだれるしかなかった。


 せっかくちょっとお休みできると思ってたのに!!!

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