いざ異世界へ
「リコにはこれを渡しておかないとね」
そう言ってツジッキーが手渡してきたのはシルバーの小さなペンダント。
「これは?」
「それは魔法少女になるための道具だよ。ペンダントトップに宝石があるだろう?」
確かにペンダントの装飾部分に水晶玉のような青い宝石の埋め込まれている。
「それは魔力石といって、魔力を使わずともいつでも自在に魔法を行使することができる優れモノなんだ。これには魔法少女になるために必要な魔法が編み込まれているよ」
「ならこれがあれば魔法少女になれるってこと?」
「うん。ちなみに使い方はとても簡単。それを天にかざして『魔法少女になりたい!』 と強く心の中で願えば魔力石が思いに反応して魔法少女になれるはずさ。試しにやってごらん?」
「天にかざして、強く願う……」
私は右手に握ったままだったペンダントをゆっくりと持ち上げて目を閉じ、祈った。
魔法少女になりたい。
魔法少女になって世界を救いたい、です!
その瞬間、ペンダントからまばゆい光が放射されると同時に私を包み込んだ。
輝く光の中、淡い光の粒子が制服に一つ、また一つとついていく。
制服が粒子で覆いつくされたと思ったら、いつの間にかピンクと白のフリルスカートに変わっていた。
粒子は体のあちこちにくっついてきてはじけては消える。
同時に純白の手袋とともに、フリルソックスと赤色のメリージェーンを身に着けていて、髪は可愛らしいリボンで結われていた。
最後に胸元にリボンがポン、と花のように咲いたところで私を包んでいた光が消えた。
まるで夢でも見ているかのような体験に言葉をうまく出せない。
「おかえり、リコ。うまく変身できたみたいだね」
ツジッキーの言葉に「た、ただいま……」と一言だけ返しつつ、自分の体を改めて見下ろしてみると。
私が夢にまでみた王道の魔法少女の衣装がそこにはあった。
しかもいつの間にか右手にステッキまで握っている。
それもプラスチック製のおもちゃとは一線を画す空気感を放っている代物だ。
見た目だけで言えば今の私はどこからどう見ても今の私は魔法少女だと思う。
自分の衣装を眺めていると、段々と魔法少女になったんだという実感がこみあげてきた。
嬉しさのあまり私はくるりと回ると。
「ツジッキー、どうかな……。似合ってる?」
「そうだね~…………バッチリだよ! とてもすてきだよ、リコ」
「え、えへへ……ありがとう……」
気恥ずかしさを隠すように照れ笑いを浮かべる私だったけれど、ツジッキーはふいに真剣な顔つき(あんまり変わんないけど)になって呼びかけてきた。
「もう準備万端だね。それじゃあ、あっちの世界に行くためのゲートを開こうかな」
「えっ。も、もう行くの?」
「当然だよ。こうしている間にもあっちの世界では罪のない人々が恐怖におびえながら生活しているんだ。一刻でも早く助けてあげないと」
確かにそうだ。
そもそも私が魔法少女になったのはツジッキーのいる世界を救うため。
変身したくらいで浮かれているようではいけないのだ。
頭では分かっている。
だけどいざ本当に行くとなると体は正直で足がすくんでしまった。
「あ、あの……私が魔法少女としてそっちの世界に行ってる間、学校とかってどうなっちゃうの? お父さんとお母さんも私がいなきゃ心配するだろうし……。それに、もし魔王軍に負けそうになったら……私って死んじゃうの……?」
安易に魔法少女になるって言っちゃったけど、もしかしたら二度と地球に帰ってこれないんじゃないか。
そんな恐怖が脳内を覆いつくそうとしていた時だった。
「心配はいらないさ」
ツジッキーが不安を明るく吹き飛ばした。
「そもそもこっちとあっちの世界では時間の進み方が違うんだ」
「ど、どういうこと……?」
「あっちの世界は地球に比べて時間の流れ方がゆっくりでね。地球の一時間があっちでは一か月くらいの時間なのさ」
「へっ? そ、そんなことってあるの?」
「まあ、この世界の人には理解できない概念かもしれないけどね。とにかくそんなに心配する必要はないと思うよ。リコがいれば一年も二年も戦い続ける必要はないと思うし」
それを聞いて心のざわめきは鳴りを潜め始める。
「あとそんなことはないと思うけど、もしリコの命に危険がせまったらそのペンダントに刻まれた魔法で君はこの世界に戻ってこられるようになっているんだ。魔王を倒すまで絶対に命を落とすことはないよ」
「ほ、本当に……?」
大事なことなので再度確認するも、ツジッキーは力強く頷いた。
「もちろん、保証するさ」
なら、大丈夫……だよね?
魔法少女になって世界を救って地球に帰ってくればいいだけ、だよね?
未だに不安の種火はくすぶっていたけれど、そんなこと言ってちゃいつまでたっても前に進めないし……よし!
「分かった……行こう! ツジッキー、お願い! 異世界に連れてって!」
「オッケー。リコならそう言ってくれると思ってたよ。じゃあゲートを開くね」
ツジッキーは身を翻して私に背を向けると、途端に耳が光って虚空から突如として星雲のような渦をまいているゲートが現れた。
「さあ、リコ。世界を救いに行こう!」
「う、うん……!」
怖いし、うまくできるか分からない。
だけど私はやるんだ!
私は強張る足を無理やり動かして異世界への一歩を踏み出したのだった。




