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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第四章 「灰哭編」

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第八十三話「役目」

 バルトーレへの道を進みながら、オルドは厳しい表情を浮かべていた。


 エーデルから聞いた闘技大会の話。

 命がけで戦い、地位と名誉と金を得る。だがオルドの知るアインもリヴもそんなものを求めるとは考えにくい。そもそもアルトラに連行されたリヴがなぜこのような場所でそんな大会に出ているのか理解できない。


 そこでオルドの中にある仮説が生まれる。

 リヴはアルトラに無理やり大会に参加させられ、アインはリヴを取り戻すために大会に参加しているというものだ。だがエーデルの話の中にアルトラは登場せず、なぜか別の灰哭隊であるシナムが関わっている。


 アルトラは何処へ行ったのか、シナムとは何者なのか、そもそもそこに居るのは本当にアインとリヴなのか。

 行ってみなければ答えは出ない。


 アインとリヴでないなら彼女の仮説は完全に崩壊し、南の都市への到着時間を遅らせるだけとなる。

 だがアインとリヴであったならそれはそれで問題が残る。むしろオルドが厳しい表情を浮かべるのはそちらだった場合のほうだ。


 スネイルという小人を躊躇なく焼き殺した。

 彼女らの表情からそれは紛れもない事実だろう。


 オルドの知るリヴはたとえ敵だろうとも無闇やたらに命を奪うような人物ではない。その彼女が躊躇なく命を奪ったという事実。そうせざるを得なかったという状況。オルドがいくら考えてもろくな考えが浮かばない。


 ならず者の町でかつて自分が力に飲み込まれてしまった時のことを思い出す。

 あの時もし町の人々に手をかけていたら、想像しただけで嗚咽が止まらない。


 超えてはいけない一線。

 誰かを助けるためでもなく、自分を守るわけでもない。

 ただ、命を奪う。

 

 意識がなかったから、操られていたから、そんなものは何の言い訳にもならない。何より自分自身が言い訳できない。


 永遠に手に残り続ける罪悪感。リヴはそれを背負ってしまった。


 果たして自分はリヴを支えきれるだろうか。深い沼に沈んでいくリヴを引っ張り上げられるだろうか。

 年長者としての責務。

 ルルにもジークにも任せられない。 



「どうしたんだい? お腹でも下したような顔をしているよ」


 ジークたちを信用したのか、眠るように気絶したグロモスに肩を貸しながらオルドの顔を覗き込むジーク。


「いや、大丈夫だ」


 脳天気なジークに多少苛立ちながらオルドは表情を引き締める。


「そうだね。リヴは大丈夫だよ」


 全てを見透かしたようなジークの言葉に、オルドはハッとする。


 仲間を信じること。

 そして仲間がくじけた時にはみんなで支えること。


 何も一人で抱えることはない。

 リヴが折れたならみんなで手を貸せばいい。支える柱は多いに越したことはない。

  

「みんな、わかってますから」


 力強いルルの言葉もオルドの後ろから聞こえてくる。


「ああ。そうだな」


 今度こそ本当に前を向いたオルドは覚悟を胸にバルトーレの町を目指す。





 

「へぇ、なかなかやるじゃん。有象無象のくせにさ」


 息絶え絶えになりながらもシナムの攻撃を避け続けるギーリコレクションに対してシナムは感嘆の声を漏らす。

 掠っただけでも致命傷になると理解しているアーピスは精神を研ぎ澄ませてシナムの動きに集中していく。後ろに立つ斧と弓の使い手のギーリコレクションもシナムと一定の距離を保ちながら勝機を伺っている。


「でもこれじゃあつまらない」


 そう言うとシナムは手にした小刀をコロシアムの下へと落とす。地面に突き刺さったそれは毒々しい煙を放っている。


「今度は何を企んでいる」


 何の意味もなくシナムが丸腰になるとは到底考えられないアーピスは今まで以上に距離を取る。


「来いよ。ビビってんの?」

「ふん。やすい挑発だ」


 指をクイクイ折り曲げながらアーピスを嘲笑うシナムだったが、アーピスは頭に血管を浮き上がらせながらも息を整えて冷静に槍を構える。


「やすいねぇ。そういやあの剣の奴。アイツの命も安かったよなぁ」

「貴様ぁぁぁ!!」


 怒りが爆発したアーピスは一直線にシナムに突っ込み、単調な動きで槍を突き出す。

 

「お前の脳細胞、魔族以下だな」


 シナムは容易く槍を避けると、がら空きの脇腹に蹴りを加える。


「くっ、だがこの程度で……!」

「ん? 終わりだよ?」


 鋭い痛みがアーピスの脇腹に走る。

 シナムが足を離すと靴の先端に取り付けられた刃物からアーピスの血が滴り始め、アーピスの脇腹からは鮮血が噴き出す。


 悲鳴もなくアーピスは脇腹を押さえながら倒れ、代わりに弓の使い手が矢を引く。


「はぁ、もう諦めろよ」


 横たわるアーピスの体を持ち上げ、シナムはそれを盾にする。

 弓の使い手はアーピスに突き刺さった矢を見て顔を強張らせるが、次の瞬間には自らの腹に突き刺さった槍を見て吐血しながら仰向けに倒れる。


「へえ、槍も面白いもんだね」

「このクソガキがぁ!!」


 残された最後のギーリコレクションである斧の使い手が、手に残る感触を楽しむシナムに斧を振り下ろす。


「あ、そうそう。お前が一番弱いよ」


 アーピスに突き刺さった矢をぬき、シナムはそれを斧の使い手の足に突き刺す。


「ぐっ……!」


 バランスを崩した最後のギーリコレクションは振り下ろした斧の勢いでさらに体勢を崩してしまう。シナムが指先で男を押すと、男の体はコロシアムの下へと真っ逆さまに落ちていく。


「はい、おしまい」


 男が潰れるのを確認し、シナムは大きく伸びをする。


「く、くく……」

「ん、まだ生きてるの?」


 アーピスの体が揺れるのを確認し、シナムは息の根を止めようと足を振り上げる。


「まだ分からないのか、俺……たちの役目は果た……し」

「え?」


 シナムの蹴りが命中するよりも早くアーピスは絶命し、肉に刃物が突き刺さる音だけが残る。


「役目……」


 刃物を引き抜いたシナムはアーピスの言葉を繰り返し、そこで初めてギーリの姿が消えていることに気が付く。慌てて観客席の方に目をやるが、ギーリの娘であるチルッタの姿も完全に消えていた。


「へぇやるじゃん」


 シナムは平然とした顔でアーピスの死体を見下ろすが、直後に鬼の形相で何度もアーピスを蹴り上げる。


「クソ、クソッ、クソッガ!!」


 その残忍な八つ当たりはシナムの黒い軍服が赤黒く染まるまで続いた。



 


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