第七十三話「八人」
いつ争いが起きてもおかしくない、そんな一触即発の控室にギーリがコレクションたちを従えて乗り込んできた。
「よう、選ばれし戦士たちよ」
視線が一斉にギーリに集まるが、リヴの姿が無いことを確認するとアインは興味なさそうにそっぽを向く。
ギーリコレクションの中にはシナムに殺されかけたアーピスの姿もあり、ギーリの前に出てそのまま拘束されているシナムの前までやってくる。
「あ、生きてたんだ」
「本選参加者に俺たちは手を出せない。せいぜい帰り道に気をつけるんだな」
唾を吐きかけ、アーピスは引き下がっていく。その後ろ姿を穴が空くほど睨みつけ、シナムは静かに殺意を高めていく。
「お前は必ず素材にしてやるよ」
シナムは誰にも聞こえないように呟いた。
「で、ギーリさんよ。いつまで待たせんだ」
大男が両手の指を鳴らしながらイライラとした顔つきでギーリに詰め寄っていく。すかさずコレクションが前に出るが、並んでみても男の大きさが強調されるだけだった。
「まあ待て。これだけの逸材が集まったんだ。少しは組み合わせを考えさせろ」
そう言ってギーリはコレクションたちをさがらせ、男の分厚い胸板に一枚の紙とペンを突き出す。
「なんだ?」
「いくら考えても思いつかねぇ。そこでお前たち自身に対戦相手を決めてもらおうと思ってな」
大男は巨大な手のひらで紙とペンをはたき落とす。
「そんなものはどうでもいいんだよ! なんだったら全員相手してやってもいいんだぜ!」
ギーリに背を向け、選手たちに向かって両手を広げて宣戦布告する大男。
「くだらんな。ルールを理解していないのか? 本戦は一対一で行われる」
女剣士は呆れた様子で剣の手入れを始める。ほかの選手たちも大男と目を合わせない。
「腰抜けどもが」
大男は紙とペンを拾い上げると真っ先に自分の名を書き上げ、そのまま紙とペンを投げ捨てる。
「第一試合は俺だ。死にてぇ奴は掛かってこい」
捨て台詞を残し、大男はギーリコレクションたちをかき分けてコロシアムへと戻っていく。
「ぼ、僕は嫌だ。あんなやつと戦ったら殺される」
細身の男は大男との対戦を断固拒否し、大男から一番遠い位置に名前を記入する。
「ケケケ。俺は誰でも構わない」
小人は三番目に名前を書き込む。
「確かに誰と戦っても同じだ。私は優勝するのだから」
女剣士は大男の隣に名前を書き込み、そのまま控室を後にする。
「私は女性とは戦いたくない。途中で敗北してくれることを祈るとしよう」
獣人は細身の男の隣に名前を記入する。それを目撃した細身の男は心底震え上がり、控室の隅でブルブルと震え出す。
「お主はどうする。私が代筆しよう」
手が拘束されているシナムに気を使って獣人が尋ねる。
「あ? お前魔族だろ。気安く話しかけるなよ」
しゃがんで覗き込む獣人の顔を容赦なく蹴りつけるシナム。獣人は口から流れる血を指で拭き取り、自分の口に突っ込みながらシナムを睨みつける。
「よく分かった。お主の性根、私がたたき直してやろう」
獣人は自分の隣のブロックに丸をつける。
「悪いがそれは不可能だ。こいつは俺が叩き潰す」
アインは獣人から紙を受け取るとその丸の隣に自分の名前を書き込む。
「よし、残ったお前はここだな」
ギーリはアインから紙を受け取り、空いている小人の隣にフードの人物の名前を記入する。
このやりとりの間もその人物は全く身動きをしない。
「よし、組み合わせも決まった。楽しくなりそうだぜ」
第一試合
グロモス(大男)VSエーデル(女剣士)
第二試合
スネイル(小人)VSローブの人物
第三試合
アインVSシナム
第四試合
ティアベル(獣人)VSヒンター(細身の男)
ギーリは金歯をむき出しにしてトーナメント表を満足そうに眺め、コレクションたちと共に控室を後にする。
「ケケケ。俺の相手はそこの人形か」
小人の男、スネイルはローブの人物の周りをぴょんぴょん跳ね回る。だがそれでもローブの人物は微動だにしない。
「不気味なやつだ。顔くらい見せろ!」
スネイルは不機嫌な表情でローブの人物の顔に手を近づけるが、その人物から突如放たれる強烈な殺気を一番に感じ取った獣人、ティアベルがスネイルを抱えてローブの人物から素早く退避する。
「な、何しやがる!」
「やめておけ。それにしても……」
状況が理解できずに小さな手足をバタつかせるスネイルを下ろしながら、ティアベルはローブの男を見下ろす。全身の毛が逆立つような殺意を放った人物とは思えないほど、今は落ち着いている。
「なるほど。お主が決勝の相手か」
「おい無視するな!」
スネイルはティアベルのすねに何度も蹴りを入れているが、ティアベルは全く気にせずにローブの人物を見下ろし続けている。
「聞き捨てならないな。俺がお前みたいな獣に負けるって?」
シナムも黙っていない。拘束されていなければ飛びかかる勢いだ。
「勘違いするな。お前は俺に負けるんだ」
「ああ!?」
吐き捨てたアインの言葉にも突っかかるシナム。
「い、嫌だ! もう帰りたい!」
細身の男、ヒンターは体を丸めて涙を流してしまう。
「……」
ローブの人物はまるでこの場に居ないように気配を消している。
混沌を極める大会本戦が始まろうとしていた。




