第七十ニ話「予選終了」
大剣の使い手であるギーリコレクションの一人ドソーを惨殺したシナムは大きく伸びをしながらコロシアムの壁際へと下がっていく。
「あー疲れた。少し休ませてよ」
そう言ってシナムは壁を背に座り込み、足を組んでウトウトと頭を揺らす。
「あのガキ……なめやがって」
槍を構えたギーリコレクションの一人が目の前の参加者を串刺しにしながらドソーの死体とシナムの姿を順番に睨みつけている。
次の標的をシナムに決めたようだ。
「まて、アーピス。その水色のガキはほっとけ」
「ギーリ様……」
耳につけた機械から流れてくる主人の言葉に、アーピスは足を止める。
「そいつは本選に進ませる。そのほうが盛り上がりそうだ」
無線を手にしたギーリは高台からアーピスを見下ろしながら釘をさすが、アーピスはギーリを見上げたあと一言告げて耳につけた機械を破壊する。
「ドソーは友人だった。このまま生かしちゃおけねぇ」
機械を地面に叩きつけて踏み砕く。そのまま走り出し、うたた寝を決めるシナムに槍を向けながら突進する。
「覚悟!」
「はい、休憩終わり!」
槍が当たる直前に目を開け、首を逸らして攻撃を避けるシナム。槍はコロシアムの壁をやすやすと貫通して大穴を開ける。
「ちっ! 外したか!」
アーピスは突き刺さった槍を片手で回転させ、壁をくり抜いて体勢を立て直す。だが彼の槍がシナムを再び襲う前にシナムの小刀が左腕を掠める。
「またその毒か! だが俺には効かん!」
躊躇することなく自分の左腕を切り落とし、毒の無効化を図るアーピスだったが、シナムの毒は彼の決意を上回る速度で体を蝕んでいく。
「あー無理無理。それ即効性だから」
視界がぷつりと途切れ、アーピスは仰向けで地面に倒れる。まだ息はあるようだが抵抗できないのならそれは死と同義だ。シナムの小刀が突き刺さるのも時間の問題だった。
「バイバーイ」
笑いながら小刀を突き立てるシナムだったが、その腕を掴まれたことで瞬時に笑顔が消える。
「えーと。お前誰だっけ?」
「無駄な事は辞めろ。もう勝負はついた」
再び顔を合わせるアインとシナム。
折れそうなほど強く握られた腕はびくともしない。
「お前には関係ないよね?」
「関係ある。お前を見ていると気分が悪くなる」
互いに一歩も引かず、火花が散りそうなほど睨み合う。
「離せよ」
「先にお前が武器を捨てろ」
「離せよ!!」
「お前が離せ」
「じゃあ死ね!!」
懐に隠されたもう一本の小刀にシナムが手をかけた時、銅鑼の音がコロシアム全体に響き渡った。それは予選が終わった合図であり、あれほどいた参加者はいつの間にかアインとシナムを入れて八人にまで絞られていた。
ドソーとアーピスを除いた残りのギーリコレクションがアインとシナムを取り押さえ、二人は無理やり引き離される。
「おいお前! 俺と当たらないことを神にでも祈ってるんだな。必ず殺してやるからな!」
「やれるものならやってみろ」
シナムは殺意がこもった視線でアインをしばらく睨み続けていた。
コロシアム内は参加者の死体であふれており、清掃の時間をとるため、本戦は一時間後となった。生き残った参加者もいるにはいるが、皆どこかしらを欠損している。
だが本選に進んだ八人は大した怪我もなく、殺し合いの後だというのに日常通りといった感じだ。
八人は特別な控室が用意され、各々が距離を取りながら対戦相手を観察している。
「どうせ死ぬ。どうせ死ぬ。どうせ死ぬんだ」
一人は細身の男。
ぶつぶつと壁に向かって呟いており、近づきがたい雰囲気だ。背丈はアインとさほど変わらないがどこか異様な気配を放っている。武器も携帯しておらず、予選の間もずっと逃げ回っていたようだった。
「おい! うるせぇぞ!」
二人目は武闘派といった大男。
細身の男の不気味さに腹を立て、地面を殴りつけて穴を空けている。予選ではギーリコレクションの一人と互角に渡り合い、残りの八人になるまでずっと殴り合いを続けていた。
「野蛮人どもめ……」
三人目は女性だった。
ゴミでも見るような目つきで他の参加者を蔑んでいる。金髪と整った顔立ちはどこかオルドを彷彿とさせ、彼女もまた無駄な争いはせずにギーリコレクションから一定の距離を取りながら生き残った。
「ケケケ! バカばっかりだ!」
四人目は小人のような男だった。
とても動きが素早く、虫のように不規則に走り回っている。身長はアインの半分程度しかなく、予選の間どこに居たのか把握していたものは居ない。残り八人になった瞬間に姿を現したため実力は未知数だった。
「とりあえず栄養補給をしておこう」
五人目は明らかに人間ではなかった。
腰につけたポーチから干し肉を取り出し、大きな口で噛み砕いている。いちおう二本足で立っているものの全身を体毛で覆われ、一見すると魔喰獣のようだ。だがその瞳には知性があり、人語を話すこともできるようだ。
「……」
六人目はフードで全身を隠している。
身動きも一切せず、気配も一切しない。人形だと言われても納得しそうだ。控室にも一番最初から待機しており、誰も動いたところを目撃していない。
「クソ……!」
七人目のシナムは簡易的に腕を拘束されていた。そうしなければ間違いなくアインに襲いかかっていただろう。ドソーを殺し、アーピスを殺そうとした事も他のギーリコレクションから恨まれており、シナムの顔にはいくつかのアザが残されていた。
そのシナムに睨まれ続ける八人目のアイン。
外傷は一切なく、義足の調子もいい。片手で剣を操ることにも慣れ、アインは優勝を確信していた。
だがアインの目的は優勝ではなく、あくまでもリヴだ。
シナムに対しては無駄な殺死を咎めたが、リヴを取り戻すためにはこの場にいる全員を手に掛ける覚悟で、アインは決戦の時を待つ。




