第六十三話「墓地」
アルトラたちと遭遇しアイン、リヴが連れ去られて二日が経過した頃ジークらは帝都へたどり着いた。
その足取りは重く、道中会話という会話も存在しない。
帝都の入り口でオルドは滅都で離れ離れになった馬の姿を見ると一瞬目を輝かせたが、すぐに暗い感情に押しつぶされる。
彼らを出迎えたのは見知らぬ軍人だった。だがその黒い軍服にはよく覚えがある。
オルドは拳を握りしめながらその名を呟く。
「灰哭隊……」
「そう名乗った覚えはないのだが。先日は無線で失礼した。私がホリー、パルメ・ホリーだ」
パルメはオルドに手を差し出し握手を求めるが、オルドはそれを素通りして帝都内部に入り込む。ジークとルルも無言でそれに続き、パルメは誰も握らなかった手を一人でに握る。
「無駄話はいい。それより……弔わせてくれ」
「ああ……」
オルドの心中を表したかのような暗く冷たい声に貫かれ、パルメは踵を返して守護隊が埋葬された墓地へと三人を案内する。
三人の冷たい態度は自分がアモールから守護隊を救えなかったのだから仕方がないと、必死に言い聞かせながら足を進めるパルメ。
墓地にたどり着いた途端オルドは膝から崩れ落ち、声もなく静かに涙を流す。
いたたまれなくなったパルメも思わず目頭が熱くなるが、自分に泣く資格などないと太ももをつねって必死に耐える。
「いつの間にかこの墓地もいっぱいだ」
「はい。私たちの力が及ばないばかりに」
ジークとルルも数え切れない墓標に手を合わせる。もうこれ以上名をここに刻ませないと、何度目かの誓いを立てながら。
「すまない、時間をとらせた」
数分後オルドが立ち上がり、真っ赤に腫れた目を三人にさらしながら振り返る。
「私は……」
そういいかけたパルメをオルドが手で制止する。
「言い訳、いや釈明は結構。私はそれを求めない」
あまりにも残酷なオルドの言葉。
だがパルメが身にまとう黒い軍服を見ていると、彼女を庇う気にもなれないジークとルル。
「だが、それなら私はどう償えば……!」
胸に手を当てながら叫ぶパルメだったが、オルドは自分に償いを求めているわけではないと気づく。
償いとは赦しを求める行為。オルドは自分を赦す気など無いのだと、パルメは顔を下げる。
だがオルドの考えは少し違う。
「顔を上げろ。私はあなた個人に怒っているわけじゃない。あなたは彼女らを救おうと奮起したのだろう」
「え?」
俯くパルメが顔を上げると、オルドは小さく頭を下げる。
「力が及ばなかったのは事実だ」
オルドから視線を外し、服の裾を握りしめながらパルメは顔をゆがませる。
蔑みは甘んじて受けるが、謝罪など受ける資格はないと唇を噛む。死んでいった守護隊の最期の顔が今でも鮮明に脳裏にこびりついている。
「それでも償いがしたいというのなら、あの町に送り込んだ灰哭隊について聞かせてもらおう」
「なに……?」
全く身に覚えの無かったパルメの困惑した表情を見て、思わずルルが前に出る。
「とぼけないで! あなたの仲間が私の友達を連れてったんでしょ!?」
肩を掴みながら上下に揺らすルルの必死な表情に、パルメはさらに困惑する。
あの町とはおそらくオルドらが居た町であろうと推測はできるが、パルメの部下は全員帝都に滞在している。一瞬シナムの顔が浮かんだが、彼女の言う仲間を連れて行ったという言葉がさらに困惑を深める。
「落ちくんだルル。彼女に当たっても仕方ない」
「だって大佐! リヴが、リヴが……!」
ルルの肩を掴むジークに泣き顔で答えるルル。
道中涙を見せまいと必死に抑え込んでいた感情が爆発し、パルメから手を離すとジークの胸に飛び込んで大声で泣き始める。
「くわしく、話を聞かせてくれ。知っていることはすべて話す」
墓地から帝国軍本部へと場所を移動し、円卓の間に腰掛けた四人。ルルの涙もようやく収まり、小刻みに鼻をすすっている。
「灰哭隊の一人がアルトラという名を出していた。聞き覚えはあるか?」
オルドの第一声に、てっきりシナムの仕業だと考えていたパルメは息を呑む。
「ああ、私の弟だ」
その言葉にルルがガタンと音を出して立ち上がるが、ジークになだめられて渋々席につく。
「それで、そのアルトラとやらはどこにいる」
「待ってくれ、話が見えない。すまないが詳しく聞かせてほしい」
オルドらの力になりたい一方で、弟に対して殺気立ちながら前のめりになる彼女たちに恐怖を禁じ得ない。
「……そうだな」
パルメの恐れるような表情を見て冷静さを取り戻すオルド。そもそもアルトラの姿さえ見ていない彼女は事の全貌を知るわけではないが、自分の知る範囲でカーターの町での出来事をパルメに語る。
話し終えたオルドはようやくパルメから話が聞けると考えていたが、パルメの表情は話を聞く前とは比べ物にならないほど険しくなっていた。
「魔族……あなたがたの仲間は魔族なのか?」
「? ああ。だが……」
信じられないほど暗くなったパルメの声色に多少驚きながら言葉を続けるオルドだったが、パルメは聴き終わるよりも前に席を立つ。
「ちょ、ちょっと! どこへ行くんですか!」
黙っていられないルルがパルメの前に回り込んで通せんぼするが、パルメは無言でルルを手でどけながら円卓の間を後にする。
「なんなんですか!」
「あ、ルル!」
納得のいかないルルはパルメの後を追って飛び出し、その後をすぐジークが追う。
残されたオルドは剣の柄に手をかけながらゆっくりと立ち上がり、覚悟を決めた表情で三人を追う。




