第五十七話「灰哭隊」
魔族であること。
半分だけだろうと、それは変えようがない事実。
何度隠そうとフードを被っても、二本の角は彼女の意思とは関係なく外に出たがる。
父や兄のように人類を支配する気も傷つける気もない。むしろその逆だ。半分であるからこそ人類と魔族の架け橋になれる、そう思っていた時期もあった。
姫という立場上、魔族の中にいれば兄との確執はあるだろうが不自由なく暮らすことができるだろう。
だが人類にとって彼女は半分だけだとしても魔族だ。
ハーフだろうともリヴは魔族。
真実を知ったジークたちの認識もそれだ。
あくまでリヴを魔族と認識した上で、リヴ自身に危険がないと判断したに過ぎない。
それほど人類にとって魔族という存在は大きい。
そんな魔族に対してもっとも強い憎しみを抱く組織が彼ら灰哭隊だ。
軍の中で唯一任務外での殺戮を認められた特殊部隊であり、彼らの名は軍のあらゆるデータから抹消されている。
同じ帝国軍でも彼らの存在を知るものは多くなく、彼らの名を知るものは更に少ない。
「彼女が何をしたっていうんだい?」
ジークの問いかけも彼らには届かない。彼らの視線はジークの後ろのリヴから動かない。
「知らん。魔族は存在そのものが罪だ」
灰哭隊は再び剣を構え、室内に次々に乗り込んでくる。その数は二十を超えており、数では圧倒的に不利な状況に陥ってしまう。
「彼女は我々の仲間だ。彼女が人に危害を加えないのは保証する」
会話で気をそらせながら、オルドは半歩下がってリヴを室内の窓に誘導していく。
「貴殿の言う通りそこの魔族が過去に人を襲っていないとしても、未来の保証などどこにもない」
先頭に立つ男は視線で仲間に指示を出し、数人が建物の外に出ていく。考えが見透かされたと感じたオルドはルルに目で訴えかけ、ルルは窓に対して剣を向ける。
「こんな事やめてください! 味方同士で争うなんて馬鹿げてます!」
頭の角を押さえながら震えるリヴに視線を向けながら叫ぶルル。
窓の外には数人の灰哭隊が配置され、退路を断つように立ちふさがる。
「魔族の味方は我らの敵だ」
先頭に立つ男はその言葉を発すると、抜き身の剣をジークに向かって振る。
鋭い痛みがジークを襲い、その頬に赤い線が浮び上がる。
「大佐!」
「ルル、目の前の敵に集中するんだ」
灰哭隊を敵と認識したジークに続き、ルルとオルドももう争いは避けられないと悟る。
彼らの中心でうずくまるリヴはどうすればいいのか分からず頭を抱える。
このまま黙っていれば間違いなく戦闘になりまた誰かが傷つく。かといって戦闘に参加すれば灰哭隊のリヴに対する認識は決定的なものとなり、ジークたちの立場が悪くなってしまう。
残された選択肢はたった一つ。
「や、やめてください……投降します」
一触触発のジークと灰哭隊の間に割り込み、リヴは膝をおる。
「リヴ、下がっているんだ!」
「駄目ですリヴ……! 私たちが何とかしますから!」
「そうだ、捕まればどうなるか……!」
当然抵抗する三人だったが、振り返ったリヴの振り絞った笑顔を見ると動きが止まってしまう。
「いい度胸だ」
そう言うと先頭に立つ男はリヴの足の腱を切りつける。
「うっ!」
「何をする!」
殺気のこもった目つきで剣に手をかけるジーク。オルドとルルもそれに続き、今にも斬りかかりそうな雰囲気だ。
そんな彼らを作り笑いを浮かべながら、リヴが手で止める。
「大丈夫……です。ほら、私、強いですから」
冷や汗が顔を伝って地面に落ち、流れ出る血と混ざり合っていく。
「アルトラ隊長のもとまで連行しろ」
先頭に立つ男は仲間に指示を出す。
リヴの体をロープで縛り付け、動かなくなった足を引きずるように引っ張っていく。
「待て!」
部屋から出ていこうとする灰哭隊を追いかけるジークだったが、突きつけられた数十本の剣に足が止まる。窓から侵入してきた灰哭隊にオルドとルルも身動きを封じられてしまう。
「先ほどの男の件もある。急いでアルトラ隊長のもとに……」
仲間がジークたちを止めている間に、リヴを縛り付けたロープを握りしめる男は曲がり角を曲がり出口へと急ぐが、突き当たりで先ほど町中で交戦した男の姿を目撃する。
「な、貴様……隊長はどうした!」
「あ、あなた!」
虚ろな目をしていたリヴもアインを発見すると目に光が戻る。
「俺の仲間から手を離せ」
もう二度と仲間を失いたくないと、アインは灰哭隊に剣を突きつける。




