第四十七話「魔喰獣討伐戦その二」
「ほら、こっちだよ!」
小石を魔喰獣にぶつけながら町を駆け回るジーク。ルルが町の人々を避難させている間、魔喰獣の注目を自分に集中させる。
「リヴ、今だよ!」
「はい!」
人々から魔喰獣を遠ざければリヴの出番だ。
周りの被害を気にすることなく全力で力を使うことができる。
空中から轟音を響かせながら炎の柱が降りていき、魔喰獣を丸焼けにする。だがそれでも命を奪うことは出来ず、体が溶けかかった状態でも人を襲おうとする。
「はぁぁぁ!」
避難中の人間に襲いかかる魔喰獣はルルが斬り捨てる。リヴの攻撃で瀕死の魔喰獣を倒すのはそう難しくはない。
だがそれでも全てを救えるわけではない。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
悲鳴を上げて倒れる人々。
救えた命、救えなかった命、どちらの悲鳴も少なくなっていく。
「バアさんを連れて下がってろ」
「ああ、頼んだぜ!」
「死ぬんじゃないよ!」
すっかり顔つきの変わったラヴィは、アインにエールを送る老婆を抱えたままその場を離れていく。
「とは言ったものの……」
アインはつばを飲み込む。
魔喰獣の攻撃をいくら受けたとしてもアイン自身に限界は無いが、彼の握る剣は終わりが近い。
刃はもうボロボロで魔喰獣の肉を傷つけられるかどうか分からない。攻撃を受けることはさらに不可能に近く、一撃でも受ければ真っ二つに裂けてしまいそうだ。
アインは深く息を吸い、剣を強く握り直す。
「二百年、よく耐えてくれたな」
旅立ちの日、村一番の鍛冶屋に打ってもらった剣。ヨミとお金を出し合って何とか手に入れることができた。
それから何年も共に旅をし、数々の魔族を葬ってきた。
魔王に敗れ、体がボロボロになっても剣だけは無事だった。帝都での戦いでも最後までアインを支え続けた。
それももう、終わりの時が来る。
「うぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げながら魔喰獣に斬りかかる。魔喰獣は残された左の爪で剣を引き裂き、剣はバラバラに粉砕される。そのまま牙でアインの首をめがけてかみつくが、アインは左手を犠牲にして首を守り、空に舞う剣先を右手で掴む。
「これで終わりだぁ!!」
剣先を握りしめた拳ごと魔喰獣の目を殴りつけ、解放された左腕も添えて拳は魔喰獣の脳を突き抜ける。
激しく悶えていた魔喰獣はピタリと動きを止め、血しぶきの中アインは勝利する。
「今までありがとう。俺は先に行く」
刃がなくなった剣の柄を優しく地面に置き、アインは仲間たちのもとに走る。
空から魔喰獣を殲滅していくリヴを目印にしながら走っていると、アインは先程までいた宿屋の跡地に到着する。
最初に自分たちを襲った魔喰獣が倒されているのを確認すると安心してまた走り出そうとするが、その隣にオルドがうつ伏せに倒れているのを発見し、足が止まる。
「オルド!」
駆けつけて体を揺らすも反応はない。
体をひっくり返すと彼女が倒れていた場所には真っ赤な染みがのこっており、着ている鎧の間からも生暖かい血液が染み出している。
何度も死んでいるアインには嫌でも分かる。これは間違いなく致死量だと。
だがそれでもオルドの心臓は絶えず動き続けている。動き続け、体内の血液を次々に体外に排出している。
アインはオルドの鎧を撤去し、血が滲む服も剥ぎ取るが、どこから出血しているかも分からないほど全身から漏れている。
宿屋の瓦礫から酒瓶を探し出し、アインはオルドの上半身と魔喰獣に噛まれた自分の左腕にたっぷりとかける。酒によって洗い流されたオルドの肌から大きな傷口を見つけ出すと、息を整える。
「死ぬな」
意を決してアインは自らの傷口に手を突っ込み、太い血管を体外に露出させる。そしてそれを躊躇なくオルドの傷口に押し当てる。
医療の知識など微塵もない。
動脈と静脈の違いもよく分からない。
そもそもオルドの血液型も知らない。
それでも、どうせ死ぬのならできるだけのことはしたかった。
「うっ……私は……」
生暖かい体の感触と鼻がむせ返るような血の匂いでオルドは目を覚ます。
「な、なんで生きて……きゃっ!」
あるはずの傷を触ろうとして、そこで自分が裸なことに初めて気がつく。
慌てて手で胸を隠すが、そんなことはどうでもよくなるほどの異常な光景に彼女は言葉を失う。
「あ、アイン……」
自分とアインは水たまりのような血液に浸かっていた。アインは完全に気を失い、仰向けに倒れている。外傷はないが顔色は透けるように真っ白だ。
オルドは落ちていた鎧で体を隠し、血の水たまりからアインを抱え上げる。
「よくわからないが、きっとお前が助けてくれたんだな」
ありえないほど軽いアインの体を背中に背負い、オルドは戦場へと再び戻っていった。




