第四十二話「安全」
ルルの探索は二人一組になって行うことにした。アインとリヴ、ジークとオルドのコンビだ。
「迂闊だった。僕がもっと早く気づいていれば!」
「過ぎたことを悔やんでも仕方がない。今は一刻も早く少尉を探し出すことに専念しよう」
口元を歪ませて後悔するジークの背中をオルドが叩き、二人は町の中に消えていく。
「心当たりはあるか?」
「いえ……あなたを探しに行くまでは一緒だったのですが」
自分のせいだとうつむくリヴの頭に手を置き、アインは謝罪する。
「なら俺のせいだ。何が何でも探し出すぞ」
「は、はい!」
走り出すアインの背中を追いかけ、リヴも町の中に再び踏み入る。
「なかなかやるじゃねぇか。しかも誰も死んでねぇ」
ルルを路地に連れ込んだ男が手を乱雑に叩く。
十人ほどいた男たちは半数がルルにのされ、目を回して地面に伏している。
「降伏するなら今のうちです」
息を切らしながらもまだ問題ないと、ルルは剣を構え続ける。
「降伏?冗談だろ?生きのいい女は高く売れる」
舌なめずりをしながら男が手をたたくと、暗闇から次々に援軍がやってくる。
その中にはあの服屋の孫の姿もあった。
「や、やぁぁ!」
孫はへっぴり腰でこん棒を振り下ろすが、ルルに簡単に避けられてしまう。
「仕方がありません。少し痛い目をみてもらいます」
「ひ、ひぃぃ!」
ルルは剣の柄で孫の鳩尾を突こうとするが、孫が急に尻もちをついたせいで空振りし、バランスを崩してしまう。
「今だ!数で押せ!」
男の声でならず者たちは一斉にルルに覆い被さっていく。先に飛び込んだ数人は痛い目をみるが、次々に飛びかかったならず者たちになす術なくルルは地面に叩きつけられる。
「ぐっ!」
歯を食いしばって男を睨みつけるが、男はルルの髪を引っ張りながら顔を近づけてくる。
「女で良かったな。顔は傷つけないでやる」
男の指示でルルの手足は縛り付けられ、路地にある倉庫に投げ捨てられる。口もテープで塞がれたせいで声も出せない。
「ボスが来るまでそこで大人しくしてろ」
扉が閉まると窓一つない倉庫は暗闇に閉ざされ、右も左も分からなくなってしまう。
「お前、さっきはわざと転んであの女の隙を作ったのか?」
「え?」
ルルが捕らわれてもまだ尻もちをついている孫に男が声をかける。
「は、はい、うまくいきました!」
「そんなわけねぇだろ」
孫の嘘を簡単に見抜いた男は、孫の胸ぐらをつかんで無理やり立たせる。
「結果的にうまくいったから今回は許してやる。だが次しくじったらババアもろとも切り刻んで豚の餌にするぞ」
男の凄んだ表情に思わず失禁しそうになる孫。ガタガタ震えていると、男がその腕に銃を握らせる。
「お前はあの女の見張りだ。武器もねぇ、目も見えねぇ、手足も動かねぇ。お前は全部ある。それで不足ってんならコイツらと同じだ」
そう言って男はもう一丁銃を取り出し、ルルが気絶させたならず者たちを一人残らず撃ち殺す。
「ひぃぃ!」
今度こそ失禁してしまった孫の腰は完全に立たなくなる。
死体の山は生き残ったならず者たちが回収し、男とともに去っていくが、血と硝煙の匂いは何時までたっても孫の鼻にこびりついていた。
静か。とても静かだ。
何も見えず、手足も動かせないが、ルルはやけに落ち着いていた。
ここにいれば安全、そんな矛盾な感情すら生じていた。
四年前のあの日もそうだった。
「ルル!そこに隠れていなさい!」
「パパ、何があったの?」
いつもの朝。
変わらぬ日常。
そんな当たり前は突然終わりを告げた。
「あなた!もうそこまで魔族が!」
「くっ!何としてもルルだけは……!」
慌てる父と母。
私は地下室にいきなり閉じ込められた。
「ぐあぁぁ!」
「あなた!う、ぎゃぁぁ!」
光が一切差し込まず、何も聞こえない。
何も感じない。
「すまない……」
初めて会った時、ジーク大佐はとてもつらそうな顔をしていた。
何日かぶりに外に出ると、私の家も父も母も何処にも存在しなかった。あったのは帝国軍に討伐された沢山の魔族の死体だけ。
「どうして私は生きてるの?」
その言葉を聞いた途端、大佐は私を無言で抱きしめた。私も涙が止まらなかった。
「ルル!!」
ここにいれば安全。
「な、なんだお前!」
「どけ!ルル、居るんだな!?」
だって必ず大佐が助けに来てくれるから。
「ルル……無事かい?」
開けられた扉から光とともにジークの姿がルルの目に飛び込んでくる。
扉の外ではオルドが孫を完全に制圧し、ジークはルルに駆け寄って拘束を解く。
「酷いな、跡が残らなければいいが」
手足に残されたロープの跡を心配そうになぞるジークに、ルルは無言で飛びつく。
「どうしたんだ?怖かったのかい?」
「いいえ、全然!」
オルドは孫を縛り付けながら二人に背を向ける。
「もう一度閉めようか?」
「ん?なんでだい?」
「大佐、少し黙っていてください」
ジークの隣に並ぶために帝国軍に入隊したルルだったが、隣ではなく胸の中も悪くはないと、そう思いながらこのひとときを満喫した。




