第四十一話「ならず者の町」
「アインにはやっぱり黒が似合うわ」
旅立ちの日にヨミからプレゼントされたのは何の特徴もない真っ黒な服だった。
「勇者の服としては地味すぎないか?」
「どうせ途中で破れるんだから豪華な服なんて必要ないの。それに形ばっかり見繕ってもしょうがないでしょ」
腰に差した剣だけが妙に目立つことにアインは苦言を呈するが、ヨミは相手にせず自分も地味なローブを身にまとう。
ヨミの言葉通り旅の途中で何度も服は駄目になり、その度にアインは同じような黒い服を選んだ。あれ程気に入らなかったというのにいつの間にかその服はアインの体の一部になっていた。
「……やっぱり地味だな」
ヨミとの記憶を思い出しながら老婆から渡された服を撫でていると、前方からヨミと瓜二つの女性が駆けてくる。
「あ、やっと……見つけました」
アインの目の前で止まり、息を整えるリヴ。
「なんだ?宿が見つかったか?」
「宿なら今ジークさんが探しています。それよりオルドさんが怒ってますよ」
指を立て、アインに注意するリヴ。リヴ自身も怒っているようで、僅かに頬を膨らませている。
「そうか。悪いが俺はやることができた。オルドにそう伝えてくれ」
それだけリヴに伝えて去ろうとするが、リヴはそれを許さず、慌ててアインの服を引っ張って制止する。
「待ってください。その服どうしたんですか?まだお金を渡していなかったのに、まさか……」
犯罪者を見るような目つきで見つめられさすがにアインも観念し、事の経緯をリヴに説明する。
「……話は分かりました。なら早くオルドさんのところに行きましょう」
「だからそれはお前が……」
そこでアインは言葉を詰まらせる。真っすぐとこちらを見つめるリヴの瞳が強い意志を持っており、それがヨミと全く同じだったからだ。
「オルドさんもジークさんもルルも、私もあなたも、仲間だと思っているのは私だけなのですか?」
「仲間……」
仲間。
それはかつて側にいて、そしていつか失った人たち。
「お前たちは俺の仲間なのか?」
「少なくとも、私たちはそう思っています」
もう二度と手にはいらないと思っていた。
そしていつの間にか忘れてしまっていた。
当たり前のように隣にいて、喜びや悲しみを分かち合える存在がまたできていたことに。
「やはりお前は……」
ヨミの娘だと言いかけてやめる。
この意志の強さはヨミの娘だからではない。リヴがリヴだからだ。
キョトンとするリヴの腕を取り、アインは仲間のもとに急ぐ。
「高いね」
宿探しを言いつけられたジークは、宿屋の前で頭をかいていた。
法外とはいかないものの相場の優に倍以上の宿代は、路銀をほとんど持っていない彼らにとっては痛い出費だ。
「泊まるのか?やめるのか?どこに行っても大差は無いぞ」
宿屋の店主はどちらでも構わないといった様子でお金を数えている。その風貌は一般人とはかけ離れており、首や腕にはきらびやかな装飾が施された貴金属を身に着けている。
「ずいぶんと儲かっているようだね」
「お陰様で。あんたら軍人が治安を守ってくれるからな」
そう言う男は明らかに治安を乱す側の人間だが、さすがに何もしていなければジークは何もできない。帝国に属さない町ならば尚更だ。
「出直すとするよ」
「ああ、そうすべきだな。俺たちはいつでも歓迎するぜ」
一枚一枚お札を数えながら答える店主。一切ジークの方は向かないが、それでも突き刺すような視線を背中に感じる。
外を歩いていても視線は何処からかジークを覗いている。いや、何処からも覗かれている。
他国の軍人に対して警戒するのは当然のことだが、警戒とはまた違う何か、純粋な悪意のようなものを感じるジーク。
「オルド、この町は何かおかしい」
町の入り口に戻ってきたジークはそこでちょうどアインたちとも合流する。
「その件なんだが……」
アインとリヴから事情を聴いたオルドが、ジークにも情報を共有する。
「なるほどね、良くない連中か」
話を聞きながら宿屋の店主を思い出す。
「はい。ところで……」
リヴはジークが戻ってからそわそわと落ち着かない様子だったが、ついに口を開く。
「ルルは何処でしょう?」
「ご親切にどうも。荷物が多くて大変だったんです」
「気にするな。困ったときはお互い様さ」
大量に食材を買い込んだルルはリヴと別れたあと町の入り口に向かう途中に荷物をこぼしてしまい、ある男に運ぶのを手伝ってもらっていた。
「でも見かけによらないものですね」
上半身裸で背中には入れ墨が入っており、体も所々が隆起している。宿屋の男同様にとても一般人とは思えない風貌にルルは軽口を叩く。
「それ、本人の前では言わないほうがいいぜ」
「確かにそうですね。ところで道を逸れているようですが」
前を歩く男はルルの告げた道を外れ、どんどん暗い方へと進んでいく。
表面上は冷静を保ちつつも、ルルは腰につけた剣に手を添えながら告げる。
「いいや、逸れてない。俺の目的地はこっちだからな」
「それってどういう……」
突如男が振り返り、それを合図にして暗闇から男たちが姿を現す。そして落とされた食材を踏みつぶしながらあっという間にルルを取り囲んでしまう。
「俺から一つアドバイスだ。人は見かけで判断したほうがいいぜ」
「はい、今度からそうします」
ルルは剣を構える。
その手に震えはなく、恐れも無い。
帝都で戦ったバートンたちに比べれば、ならず者など赤子同然だった。




