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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第五章 「追憶編」

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第百九話「共に」

 黄金の髪が太陽に照らされ、馬の手綱を握りしめるエーデルの背中はまるで女神のようだ。未来の連れ合いの姿を馬車の中から眺めながらグロモスはそんな事を考えていた。


「……気が散る」


 さり気なく眺めていたつもりのグロモスだったが、穴が空くほどの視線にエーデルが小さく呟く。


 勇者が始まった場所、テーレ。

 命の加護を持つといわれている人物を訪ねるためにその地を目指すアインたちは、通り道である南の都市までエーデル、グロモスと共に行くことになった。


 バートン、ウーという圧倒的強者との戦いのあとということもあり、馬車内は重苦しい空気が流れている。


「ある意味凄いですね。そこまで自分の気持ちに素直になれるのって。人目とか気にならないんでしょうか」


 誰も口を開かず刻々と過ぎる時間に耐えきれなくなったルルは、思わず心の声が漏れ出てしまう。慌てて口を抑えるがグロモスは全く気にしておらず、隣に座るジークもウトウトと頭を上下させるだけでルルの言葉への感想はない。


「南の町までもう少しかかる。休みたければ休め」

「すまないね。そうさせてもらうよ」


 一切視線を向けることなく掛けられたエーデルの言葉にジークは素直に従い、あっという間に寝息をたてだした。


「よっぽど疲れてたんですね」


 僅かに自分にもたれかかるジークの重みが心地良い。そう感じながらルルが優しく微笑む。


「それもあるだろうがおそらくティアベルの玉の影響だな。玉がそいつの体力を治癒力に変換してるんだろうよ」


 グロモスの言葉になるほどと頷くルル。初めはトカゲの魔族が差し出した得体のしれない玉を口にするなどあり得ないと思っていたが、今は反省と共にティアベルに感謝している。


「で、お前はずっと黙ってるつもりか?」


 馬車に乗り込んでから一点を見つめ続けるアインに対して初めて声がかけられる。誰しもが考えていた事だったがとても声をかけられるような様子ではなく、一番声をかけそうなジークが寝てしまった今、南の都市に着くまでずっとこのままの空気が続くと考えていたルルにとってグロモスの言葉は天からの救いだった。


「……何を話せと?」


 この旅の理由、一向に目覚める気配のない魔族と人間のハーフである女性から視線を外さずに答えるアイン。重苦しい原因が自分にあることは百も承知だが、とても自分から口を開く気にもなれない。


「何でもいい。お前の事は名前と性格が暗い事しか知らねぇ。好きな食べ物とか女の趣味とか将来の夢とか何かあるだろう。あんまり年長者に気を遣わせんな」


 アインの素性についてほとんど何も知らないグロモスの一言一句にルルは肝が冷える。


「こ、この人は……」


 口を閉ざし続けるアインの代わりにルルが答えようと身を乗り出すが、グロモスは黙って手のひらをルルに向けて制止する。これ以上空気が悪くなるのだけは避けたかったが、そのグロモスの威圧感にルルは大人しくジークの頭を肩に乗せるしか無かった。


「俺の名前はグロモス。これは知ってるな? 好きな食べ物は肉全般。女の趣味は俺が好きだと感じた女。将来の夢は好きな女と暮らすこと」


 全く目を合わせようとしないアインの横顔をにらみながら次々と情報をまくし立てるグロモス。次はお前だと言わんばかりににらみをさらに強くする。


 しばらくの間馬車の中はジークの寝息だけが響き、ルルは自分の呼吸を押し殺す。それでも心臓は絶えず鼓動を続け、今にも飛び出しそうだ。なぜアインがこれだけの圧をかけられながらも平然としていられるのか理解に苦しむ。馬を操り続けるエーデルも馬車内の様子が気になるようでチラチラと視線を向けてくるのがよく分かる。



「ふがっ! ふがふがが!」


 静寂をきり裂いたのはジークの意味をなさない寝言だった。だがそれが彼らの心に衝撃を与え、最初にグロモスが、そしてルルが吹き出し、それはエーデルにまで感染していく。


「がははは! こいつ、何の夢見てんだよ!」


 先程までの仁王のような表情は面影すらなく、グロモスは腹を抱えて笑っている。ルルも笑ってはいけないと思えば思うほど顔がほころび、馬車の外ではエーデルが小さく震えている。

 一人笑えないアインは一呼吸吐き出すと誰に告げるでもなく呟く。


「好きな食べ物は……特にない」

「お、そうか! なら肉食え肉! がははは!」


 すっかり機嫌が良くなったグロモスはアインの背中をバシバシ叩きながら笑っている。困惑するアインだったが、その顔に崩壊寸前だったルルの口元が完全に打ち砕かれ、馬車の中は二人の笑い声に包まれる。


「な、なんだい一体!?」


 飛び起きたジークは馬車内の空気の変わりようにアイン以上に困惑する。その笑いの種になったのが自分だとは当然分からず、わけも分からないままいつの間にかジークも笑顔になる。


 だがそれでもアインだけは笑えなかった。

 気分が悪いわけではない。彼らが悪いわけでもない。ただここで自分まで笑ってしまえば今この場で笑ってないのはリヴだけになってしまう。その事実に堪らなく心が痛む。


 笑うならリヴと共に。

 アインはそう決めていた。

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