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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第五章 「追憶編」

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第百六話「病院」

 バルトーレの町の外で起きた戦いから二日の時が過ぎ、町の病院に運ばれた者たちの中にもちらほら復帰しだす者も現れだした。

 中でも重傷だったはずのグロモスはほぼ完治しており、未だにベッドに体を預けるエーデルを呆れさせている。


「よう、来たぜ」

「来るな。ここは女性専用の病室だぞ」


 病室の壁にはデカデカと「男性、特にグロモス立ち入り禁止」と貼り紙がされている。エーデルはそれを指で指しながらグロモスに出ていくようにと睨みをきかせる。 


「あ! またここにいたんですね!」

「げ、もう見つかったか」


 もっとも軽症だったルルは怪我人たちの看病をしており、何度も女性専用の病室に出入りするグロモスに目を光らせる。

 ルルは手にした箒でグロモスを追い出し、部屋の中に一礼すると廊下を駆けていく。


「まったく。デリカシーのない男は嫌いだ。そう思わないか?」


 エーデルはため息をつきながら隣のベッドの女性に声をかける。そこに居たオルドは浮かない顔で自分の手のひらを見つめており、体を震わせながら自分の情けなさを悔いていた。


「いつまでそうしているつもりなんだ。何もできなかったのは私も同じだ」

「だが……」


 目を覚ました時には全てが終わっていた。

 共に帝都を出たパルメはいつの間にか死亡しており、帝都で仲間を襲ったバートンは姿を消していた。

 

「いつからだ?」

「なに?」


 震える手を握りしめるオルドにエーデルが声をかける。


「お前、あの戦いでアテナの加護を一度も使っていなかったな。いつから使えなくなった?」


 エーデルのその言葉を聞いて、オルドは目を見開いたあと少し笑いながら手を開く。


「……気づいていたのか」

「私もヴァルキリアの血族だ。当たり前だろう。話してみろ」


 肩の荷が下りたように穏やかな顔になったオルドはエーデルにならず者の町で魔喰獣と戦った時のことを話す。


「魔喰獣……先日の化物か。あれが何匹も……」

「ああ。その時私は力を全て解放し、そして死んだ、はずだった。だが仲間のおかげで一命を取り留めたんだ。きっとあの時私の血と共に力も流れ落ちたんだろう」


 思い出したくもない記憶。

 その後暴走した事はエーデルには話さなかった。

 それが引き金となりオルドは加護を解放できなくなってしまったことに、彼女自身も気づいていない。


「だからお前も気をつけろ。過ぎた力は自分だけじゃなく、全てを壊すぞ」


 エーデルにそう告げるオルドだが、その言葉は彼女自身への戒めだった。


「……そんな事、言われるまでもない」


 ヴァルキリアの血。

 それは誉れあるものだと誰もが考える。特に帝都において彼女らは国の宝のように扱われるが、彼女たち自身にはその血はある意味呪いだった。



 重たい空気が流れる女性病室とはうってかわり、男性病室は活気にあふれていた。


「へぇ。君はドラゴンの子なのかい? てっきりトカゲの魔族かと思ったよ」



 両足を負傷したジークはベッドに固定されていながらも上半身だけは元気に動いており、隣のティアベルに興味津々な様子で話しかけている。


「これは心外。おぬしも私の気高い姿を見たではありませぬか。この姿でもほれ、小さいながらも羽根が生えております。魔族に羽根はありますまい」


 ティアベルは興奮気味で背中を突きだし、可愛らしい小さな羽根をバタバタとさせている。


「まるで虫だな」

「なんと! それは失礼では……」

「アイン、戻ったのかい?」


 病室の入り口で手を組みながら現れたアインの言葉に腹を立てるティアベルに重なるように身を乗り出すジーク。

 勢い余ってベッドから崩れ落ちてしまう。


「いててて」

「おい、あまり無茶するな。ティアベル、手を貸してくれ」

「もちろん貸しますぞ」


 二人によってベッドに戻されたジークは額に冷や汗をかきながら頭を下げる。


「すまないね。まだくっついてはくれないみたいだ」

「当たり前ですぞ。折れているのですから」


 ひねった足は何とか動くものの、真っ二つに折れた足はピクリとも動かない。ジークはどんなケガでもすぐに完治するアインがほんの少しだけうらやましくなる。


「それで、リヴの様子はどうだったんだい?」

「何も変わらない」


 うつむきながら答えるアイン。


 リヴは病院の特別室、もとい倉庫に安置されていた。

 その扱いに対してルルは怒りを口にしていたが、いつ目覚めるかも分からない魔族を他の患者も居る病室に置くことはできないと医者に断固拒否された。それでも構わないと頭を下げるアインを見てルルも仕方なく了承した。


 あれから二日がたった今もリヴはまぶたすら動かさない。生きているのは間違いないが呼吸音も小さく、心なしか髪からは艶が失われ、皮膚は乾燥してきているようだった。



「魔族の構造は人間と変わらない」



 バートンの言葉がアインの頭の中でこだまする。

 その言葉を信じるなら魔力が失われつつあるリヴの体はゆっくりと人間に近づいているのだろう。百九十歳の体に。



「一つだけ、方法があるかもしれない」



 アインの後ろから近づいてきたチルッタが口を開く。


「お前の死か? その話はもうするなと言ったはずだがな」

「そうだよ。君とアインの関係はよく分からないけどそんな事をしてもリヴは喜ばないさ」

「違う! いや、それが一番なのは間違いないんだけどさ」


 呆れた表情のアインとジークの言葉を否定したチルッタは机の上に一枚の地図を広げ、ある場所を指差す。


「ここは?」

「ああ、ここは……」


 身を乗り出したジークがチルッタに尋ねるが、答えるよりも先にアインが驚愕の表情を浮かべながら口を開く。


「テーレ……!」


 

 かつてアインが産声を上げた場所。

 ヨミと共に魔王を討伐するべく旅立った場所。

 アイン過去が詰まったその場所は二百年前と変わらずそこに存在していた。



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