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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第四章 「灰哭編」

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第百話「誕生日」

 星一つない夜空に浮かび上がるバートン。

 その体にほとばしる光のみが暗黒に輝く。


 それを見上げるのはかつて帝都でバートンと対峙したアイン、ジーク、ルルの三人。

 だが見上げられる側であるバートンの視線は三人には向いていない。彼の視線は後方でチルッタが抱えている妹に奪われていた。


「愚妹め……一体何をしているのだ」


 魔王城で好き勝手暴れたウーに思い知らせるのが目的だったバートンだが、図らずジークたちの姿を目撃した時から彼の目的は妹であるリヴへの復讐へと変わりつつあった。アインの登場でその目的は確定したが、当のリヴが意識を失っていることに怒りが湧いてくる。


 無防備なリヴを雷で貫くのは赤子の手をひねるに等しい。

 だがそれには何の意味もない。バートンにとっての復讐とはリヴを正面から打ち負かさなければ達成できない。


「つまらぬ」


 一気に戦意を消失したバートンはゆっくりと地面に降りていく。それと同時に暗闇も晴れていき、元の夕焼けが姿を現す。

 


「……何のつもりだい?」


 命がけで立ち向かうつもりだったジークが気を抜かないままバートンに声をかける。ジークを支えるルルも体を強張らせながらバートンを睨みつけている。


「興が削がれた。勇者よ、我が愚妹は……いや、どうでもよい」


 バートンは服に付着した汚れや埃を払い、アインを一瞥した後その場を去ろうとする。

 アインも下手に追おうとはせず警戒だけは怠らずに剣を構え続けるが、この場にいる全ての人間がバートンの撤退を許すわけではない。



「ま……て……」


 

 立ち上がったのはウーだった。

 意識は絶え絶えで彼の周りを渦巻いていた風も止んでいる。体も黒焦げで立っているのもやっとだ。

 

「ほう、まだ意識があるのか」


 背中を向けたまま聞こえてきた声に反応するバートンだが、もう勝負は決したと振り返ろうとはしない。



「君! 無理を……」


 ルルに支えられながらウーに駆け寄るジークだったが、その顔を覗き込んで絶句する。


「……!」


 ウーの体に少し触れただけでポロポロと崩れ、なぜ立っていられるのか分からない。目は完全に白目をむいており、ジークたちの事は認識できていないようだ。


「貴様ら、その小僧を休ませてやれ。もう助からん」


 バートンの言葉が真実であることはジークにもルルにも良くわかっていた。だがそれでもウーは本能だけで崩れる足を進め、バートンの声がする方へと歩いていく。

 

「ねぇちゃん……にい……ちゃん……まって……て」

「うう……」


 体をなくしながら進むウーに、ルルは涙が止まらない。ジークもウーの小さな背中を見つめながら口を固く結んでいる。


「……なぜあえて苦しみを選ぶのか。人間のやることは理解に苦しむ」


 バートンの髪が逆立ち、バチバチと音が鳴る。

 そしてかつて自分を追い詰めた小さな敵を完全に葬るため、再び魔術を発動する。




「あれ、なんでウーが死にかけてるんだ?」



 場の空気を切り裂くように姿を現すシナム。

 彼を捕らえていた拘束は完全に破壊され、靴に仕込まれた刃物をわざとらしくアインに見せびらかす。


「あ、あなた……きゃっ!」


 チルッタを突き飛ばしながらシナムはバートンに歩いていくウーに近づく。


「君、いつの間に!」

「その魔族は魔王軍四天王です! 下がってください!」


 ジークとルルが必死にシナムに叫びかけるが、シナムは一切気にせずにウーの前に立つ。



「貴様、その小僧の縁者か? ならば……」

「ウー、大丈夫かい?」


 背中から投げかけられるバートンの言葉も無視し、シナムはウーの肩に手を置く。

 ウーの肩がポロポロと崩れる事に少し動揺するシナムだったが、それでも関係なしに進もうとするウーの様子に喜びと悲しみが入り混じったような表情でその額に自分の額を合わせる。


「ウー、ありがとう」


 その言葉の直後、ウーの体が小さく揺れる。


「な、なんで……何で!」


 ルルの叫び声が響く中、シナムはウーのお腹から刃物を抜く。

 ウーは吐血した後力なくシナムにもたれかかり、その小さな体は完全に動きを止めた。



「だって、生きていたら魔喰獣にできないじゃないか」



 弟を楽にするため。

 それならばジークは堪えるつもりだった。

 だが刃物を手にニッコリと笑うシナムの顔を見た途端、ジークの中で何かが切れる。


「貴様……貴様ぁ!」


 倒れるウーの姿が戦死した姉と妹と重なり、言いようのない怒りが込み上げてくる。

 自分を支えるルルを振り切りながら折れた足で無理やりシナムに突っ込んでいく。  


「熱くなるなよ。どうせウーは助からなかっただろ」


 ひらりと攻撃をかわし、シナムはウーに突き刺した刃物をジークに向ける。


「させると思うか?」


 シナムの刃物はアインに軽く受け止められ、そのままの勢いで刃物を後方に弾き飛ばす。


「醜い争いだ。付き合ってられぬな」


 最早この場にいる理由は何もないと飛び立とうとするバートンだったが、突如後方から放たれた禍々しい雰囲気に自然と視線が釘付けになる。



「ほら、来たよ」


 ウーの死体から紫の煙が立ち昇る。


「な!」

「離れるぞ、ジーク!」


 アインはジークの体を掴むと、ウーの死体からルルの方へ慌てて退避する。

 

「さぁ、ウー! 魅せてくれ! ハハハ!」


 シナムが高笑いしながら天に手を掲げると、ウーの体がぐちゃぐちゃに崩れる。

 

 爪が伸び、手足が肥大化し、全身が毛に覆われる。

 顔はウーの面影が完全に消え去り、アインたちが何度も見た魔喰獣へと変貌していった。


「ウー、誕生日おめでとう」




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