第九十九話「町の外での争いその九」
咄嗟に身構えるエーデルだったが、光の速さで繰り出される閃光に反応できる道理は無く、バートンの指先が向けられた瞬間に意識が飛ぶ。
「エーデル殿! くっ、止む終えまい!」
一瞬エーデルに視線を移したあと、ティアベルは口の中の珠を噛み砕く。するとみるみるうちにティアベルの体が膨れ上がり、あっという間にその姿を竜に変える。
「な、なんだ!?」
「大佐! 下がってください!」
驚くジークを庇うようにルルが剣をティアベルに向けるが、ティアベルは他には一切構わずバートンに突撃していく。
「消えてくだされ!」
「ほう、我ら眷属に近しい者か」
バートンに突っ込んでいくティアベルに無数の雷が降り注ぐが、竜と化したティアベルの硬い鱗はその全てを弾き飛ばす。
「やるではないか!」
バートンの全身を雷がほとばしり、突出した両腕の指の先から十本の雷の矢が真っ直ぐにティアベルに突き進む。
「効かぬと申さねば分からぬか!」
雷はティアベルの鱗を滑るように軌道を逸らすが、その矛先は倒れているエーデル、グロモスに向かっていく。
ニヤリと笑うバートンだったが、それを見越したようにティアベルは尻尾を器用に動かしてさらに雷の軌道をずらして二人を救う。
「確かに我の魔術は効かぬようだな。だが果たして貴様の攻撃は我に届き得るのか?」
「言葉で語る段階は過ぎておりますぞ!」
竜、ティアベルは一メートルはありそうな巨大な腕をバートンに突き出す。その風圧だけで倒れているアルトラ、パルメ、ウーは吹き飛ばされるが、まるで計算でもしていたように三人の体は柔らかい草の上へと落下する。
「力比べか、面白い!」
鋭い爪を素手で受け止めるバートンだったが、その足は踏ん張りが利かずに宙に投げ出されてしまう。
「ふんっ!」
そのままもう片方の腕で宙で身動きが利かないバートンの体を切り裂けば終了。そのはずだったが、先に身動きが取れなくなったのはティアベルの方だった。
「な、何が……」
磔になったように足が動かなくなるティアベルは恐る恐る自分の足元に視線を移す。すると彼の体は黒く蠢く砂にまとわりつかれており、それは徐々に全身を覆う勢いで駆け上ってくる。
「砂鉄か!」
「御名答。知ったところで何も変わらぬがな」
両手を地面にかざしたバートンは指揮でも執るように指先を動かしながら地面から砂鉄を抽出していく。
あっという間にティアベルは地面に押し付けられ、ガチガチに拘束されてしまった。
「我らの配下となれば命だけは助けてやろう」
「わ、私は聖獣……魔族の配下など……」
体が徐々に元の姿に戻っていくティアベルは、それでもバートンには屈さないと土を掴む。
「そうか、ならば還るがよい」
砂鉄がギロチンの形に変化し、地面に伏せるティアベルの頭上に現れる。
「させないよ!」
ルルに体を支えられながら、ジークは剣を握りしめて無防備なバートに斬りかかる。だが、バートンはいとも簡単に指先でジークの剣を受け止めるとそれを粉々に砕いた。
「なっ!」
「貴様らは既に我に敗北しているではないか。弁えよ」
「大佐!」
武器を失ってバランスを崩すジークに視線を移すルルだったが、バートンを前にしてのその行動は命取りでしかない。
ティアベルの頭上にあったギロチンがバートンの手元に吸い寄せられ、よそ見をするルルの首を目掛けて飛んでいく。
「……! 避けるのだ!」
ティアベルが叫ぶもギロチンはルルの直ぐ側まで迫っていた。避けるのが不可能な速度ではないがそれはあくまでルルの話だ。彼女に支えられなければ立っていることすら困難なジークでは難しい。
ルルはジークを抱きしめて体を丸める。自分が盾になればジークは助かるかもしれない。
「ルル! 離れるんだ!」
「大佐、後は頼みます!」
自分が犠牲になってもジークが必ず仇を取ってくれる。そう信じて目をつぶるが、彼女にギロチンが到達することは無かった。
「おかしな話だ。俺たちがお前に負けただと? リヴに恐れをなして逃げ出したのはどこのどいつだ?」
聞き覚えのある声にルルは顔を見上げる。
「貴様か……」
苦虫を噛み潰したような顔のバートン。ギロチンを操りながらその背中を睨みつけている。
見覚えのある背中がルルとジークの前に現れる。手にした剣はバートンのギロチンを軽く受け止め、後ろを振り返る余裕すらある。
「アイン……!」
勇者アイン。
久しぶりに再会したその男の顔を目にした瞬間、ジークの中に様々な感情が溢れ出す。
「話はあとだ。まずはこいつを片付ける」
アインがギロチンを真っ二つに斬り落とすと元の砂鉄に戻って地面に落ちていく。
「ああ……! ああ!」
「大佐、これを!」
目尻に涙を浮かべながらジークは前を向く。その顔にルルもニッコリと笑い、背中を支えて立ち上がる。
ルルは自分の剣をジークに手渡し、ジークの折れてしまった左足の代わりに徹する。
「いいだろう。今一度魔王軍四天王、このバートンの恐ろしさを思い知らせてやろう!」
バートンは空中に上っていき、自分に立ち向かう三人を見下ろして両手を広げる。
敵は依然として強大。
ダメージもなくピンピンしている。
対してこちらはアインを除けば片足しか使えないジークとその体を支えるルルのみ。
だがそれでもジークは力に満ちあふれていた。
アインがいれば必ず何とかなる。
言葉では言い表せないが、ジークはそう信じていた。




