第九十八話「町の外での争いその八」
アインはリヴを抱えながら一心不乱に竜巻の発生地点に向けて走っていた。
「ジーク、オルド、ルル……」
仲間たちに会いたい。
アインの頭の中にはそれしかない。
かつて失ってしまった仲間たち。
ザック、ニーナ、そしてヨミ。
いつの間にかアインの中では彼らと同じくらいジークたちの存在が大きくなっていた。
それと同時に失うことがとてつもなく恐ろしい。
あの竜巻が魔王の攻撃と重なっていく。あの時の無力感が思い出される。
また同じ事を繰り返してしまうのではないかと、体の底から恐怖が押し寄せてくる。
そんな焦りによってアインは足元の石につまずいて派手に転んでしまう。
「くっ」
リヴを庇うように体を回転させて背中で地面を受けるアイン。
体の痛みはさほどでもないがその衝撃によっても全く目を覚ます様子のないリヴに、心がチクリと痛む。
立ち上がれないまま仰向けで夕焼け空を見上げていると、その顔を覗き込むように息を切らしたチルッタがやって来た。
「だ、大丈夫?」
「……」
覗き込むチルッタの視線から逃れるようにアインは顔を逸らし、何も答えずに立ち上がる。そして何も無かったように再び走り出そうとするが、チルッタは思わずアインの服の裾を掴んでしまう。
「あっ、その……」
振り返ったアインの冷たい視線に、チルッタはすぐ手を離して俯く。
「……なぜここに居る。さっさとギーリの所へ帰ったらどうだ」
「それは無理。父さんは……死んだ」
チルッタの返答に少し眉を動かして反応するアインだったが、リヴに視線を移すと苦い顔をして再びチルッタを睨む。
「ならばなぜリヴの洗脳が解けない? それとも加護の持ち主が死んでも効果は切れないのか?」
その問いかけに何かを答えようとしたチルッタだったが、辺りが急に夜になったことで言葉が止まってしまう。
「何だ」
疑問を浮かべながら空を見上げるアインだったが、直後に落ちてきた雷によって一気に全身に悪寒が走る。
「きゃぁぁ!」
ただただ悲鳴をあげるチルッタとは違い、アインの脳裏にはある魔族の顔が浮かんでいた。
それは予想すらしていなかった最悪の事態だが、考えれば考えるほどそうとしか思えない。
「くそっ!」
これ以上考えている時間は無いと、アインは再び走り出す。
「あっ……」
手を伸ばすチルッタだったが、足が動かない。
この先に待ち受けている存在は彼女の足を止めるには十分な禍々しさを放っており、勇気だけでは覆しようのない恐怖がそこにはある。
またここで立ち止まるのか、また何もできないのか、また……また……。
暗く沈んでいく彼女の手が突如握られる。
「え……」
顔を見上げるまもなくチルッタはその腕に無理やり引っ張られていく。
「来い。お前にはまだ聞きたいことがある」
「え、え……」
アインに連れられて、動かなかった足が無理やり回転し始める。
「それまでお前は俺が守ってやる。心配するな、お前と違って俺は嘘はつかない」
それはアインにとっては蔑みの言葉でしかなかったが、ようやく向き合ってもらえた気がしてチルッタの心が軽くなる。いつの間にか足も無理やりではなく彼女の意思で動いていた。
「はあぁぁぁぁ!」
「たあぁぁぁぁ!」
パルメとアルトラは完全に息の合ったコンビネーションでバートンを挟み撃ちにし、その首を同時に狙う。
「ふむ」
バートンはその場から一切動かずに指を鳴らす。
それだけ、ただそれだけでバートンの全身に電流が駆け巡り、バートンの首の直ぐ側まで迫っていた剣にも電流が流れる。
「ぐぁぁぁ!」
「きゃぁぁ!」
剣から腕へ、そして全身へ伝わる電流に襲われたアルトラとパルメは悲鳴と共にバートンから弾き飛ばされる。
「アルトラ! パルメ!」
足を引きずるジークに代わってオルトが二人に駆け寄ってその体を触るが、少し触れただけでオルドにまで電流が伝わる。
「くっ! しっかりしろ!」
電流に耐えながら二人の体を揺するが、二人は口から煙を吐きながら白目を向いている。
「オルド! 後ろだ!」
ジークの言葉に後ろを振り返るオルドだったが、そこにはウーの気絶した体を持ち上げたバートンが立っていた。
「ほれ。返してほしいのだろう?」
「貴様……!」
剣に手をかけるオルドだったが、バートンが投げたウーの体が先に彼女に命中する。その威力は彼女の鎧を簡単に砕き、ウー共々吐血してアルトラとパルメに並ぶ。
「オルド准将!」
叫び声をあげるルルだったが、駆け寄りたくてもバートンに視線を向けられただけで足がすくむ。
「あの女、なぜ加護を使わなかった……!」
「貴女と同じ理由なのでは?」
剣を構えるエーデルはまだ完全ではないものの、出し惜しみはしていられないとアテナの加護を発動する。隣に並ぶティアベルも震える手で珠を取り出し、それを口に運んでいく。
「なぜ我に立ち向かう? 貴様らに用は無いのだがな」
心底興味なさそうに二人に視線を移すバートンだったが、それだけでエーデルとティアベルは全身が抑えきれないほど震え出す。特にエーデルは加護を発動していなければこの瞬間にでも気絶していただろう。
「黙れ! 用がないのなら去ったらどうだ!」
これ以上立ち向かいたく無い。
それが本心だったエーデルが叫ぶが、人間を支配する対象としか捉えていないバートンがエーデルの話を聞き入れる理由は無かった。
「黙るのは貴様だ、人間」




