第九十六話「町の外での争いその六」
アルトラはその砕け散った破片を見つめながら自分が一体何をしているのかを考えていた。
この場に倒れている何人もの人間たち。
彼らは誰一人として悪人とはいえない者たちだ。誰かのため、何かのために戦い、そして倒れた。
アルトラが剣を握る理由は魔族によって苦しめられる人間を一人でも減らすためだ。
だがここに倒れる人たちは魔族によって苦しめられたわけじゃない。そのほとんどが彼の弟であるウーによって倒された。
ウーが暴れた原因も魔族じゃない。
ウーがもっとも大切にしている家族、パルメが倒れたことによる暴走だ。
パルメが倒れた原因も魔族じゃない。
自分の凶行を止めようと邪魔をしたシナムによって倒された。
シナムが凶行に及んだ原因も魔族じゃない。
アルトラは知る由もないが、彼自身を利用したギーリやチルッタに対する怒りだ。
そしてギーリたちがシナムを利用した理由も魔族じゃない。
きっとその前もさらにその前も。
勿論アルトラたちのように魔族に苦しめられる人々はたくさん存在する。
だが世界の数多く存在する苦しみは人間たち自身によるものだ。
そもそもなぜ世界は魔族を悪と決めつけるのか。
かつて世界を支配しようとした魔王。
そしてその意志に付き従う魔族たち。
だが全ての魔族が魔王に従っているわけではない。野良の魔族も数多く存在し、リヴのようなイレギュラーな魔族も居る。
だというのに人類はそれら全てをひっくるめて悪だと断定している。
アルトラたちにしてもそうだ。
彼らを苦しめた魔族はとっくに帝国軍によって討伐されている。それで怒りや悲しみが消えるわけではないが、その感情の矛先は全ての魔族に向けられている。
人間の盗賊に家族を奪われた人々は、その怒りの矛先を全ての人類に向けたりはしないというのに。
小さな矛盾。
それは大きな過ちの始まり。
「この嘘つき! よくもアルトラにいちゃんを!」
アルトラが突き飛ばされたことでウーは再び怒りの表情を見せる。
「ウー。いいんだ」
柊のかけらを拾い上げながら、アルトラはウーをなだめるようにその肩に手を置く。
「リヴとアインとやらとは数日前に別れた」
「なんだって……?」
立ち上がったアルトラに対して構えるジークだったが、その言葉を聞いて肩の力が抜ける。
「少なくともその時までは二人は無事だ」
「そう言えば彼らがバルトーレの町で……」
後方で倒れているグロモスたちに視線を移し、彼らの言葉を思い出すジーク。
「それどころじゃないね」
ジークは剣を放り出し、倒れているグロモスたちに駆け寄る。
幸いエーデル、ティアベルの外傷はほとんどなかったが、もともと大怪我を負っていたグロモスは予断を許さない状態だった。
「アルトラ! 町まで運ぶのを手伝ってくれ!」
「それは構わないが……」
ジークの呼びかけに応じるアルトラだったが、倒れているのはグロモスたちだけではない。ジークの仲間であるオルドとルルも依然として意識を失ったままだ。
「彼女たちは軍人だ。僕は民間人を優先する。それを彼女たちも望んでいると信じている」
アルトラの心中に答えるように告げるジーク。
ちくりと胸の内を刺されるような痛みを感じるアルトラだったが、ぐっとこらえてグロモスに駆け寄る。
「ウーを責めないでくれ」
「まだ言ってるのかい?」
巨大なグロモスの体を左右から支えながら、アルトラの言葉に顔をしかめるジーク。
「責任を追及するのは全てが終わってからだよ。今は救える命を救うことに集中しよう」
「ああ……だがそれにしてもこの男、重いな」
リヴとの争いで負った怪我が完治していないアルトラと足の骨が折れているジークではグロモスの体を持ち上げることは困難だ。それでも全力でグロモスの体を支えていると、ふとその体が軽くなる。
「……僕も手伝うよ」
グロモスの体はウーの風の加護によって羽根のように浮き始める。心なしかグロモスの顔も気持ちよさそうだ。
「ウー、お前……」
「ありがとう! 助かるよ!」
ジークの心からの礼に、ウーの顔も僅かにほころんだ。




