【 アーカイブ番号:REC-BRINK-CONFLICT 】
ACCESS_GRANTED: CLEARANCE_LEVEL_2
[STATUS]:UNAUTHORIZED / ARCHIVED
[SOURCE]:DEFENCE_STRATEGY_CONFERENCE, First Secretary
分類:[ 監査記録 / 議事録メモ ]
通告:北方国境線・防衛戦略会議における硬直について
■ 概要(System Log):
帝国情動省・一等書記官の執務日記(抜粋)
【No.13564:北方国境線・防衛戦略会議】
本日の戦略会議は、これまでの行政人生の中で最も「物理的な寒気」を感じるものだった。
議場には、帝国軍の頂点に立つアレス閣下と、電法省の若き長、エルミタージュ公。
そして……アレス閣下の嫡男、ランスロット少将が同席していたからだ。
議題は、膠着状態にある北方戦線への「電法省トップによる直接視察、および戦略支援」について。
平たく言えば、アレス閣下がエルミタージュ公を、最も過酷な前線へと引き摺り出そうとしているのだ。
「エルミタージュ公爵。行政の理屈で戦争が動かせるというのなら、現地でその『高効率な采配』とやらを見せてみろ。……それとも、前線に出るのがそんなに怖いか?」
アレス閣下の挑発的なパルス。
閣下は公を追い詰めることを、まるで公務の合間の娯楽(遊戯)であるかのように楽しんでおられる。
対するエルミタージュ公は、見るからに蒼白だった。
公は後方の演算において右に出る者はいないが、実戦、それも「理性が通用しない戦場」を極端に忌避されている。
公の手が、机の下で微かに震えているのを私は見逃さなかった。
「……閣下。……現地へのアクセスは、……リモートでも、……十分に、……可能です。……リソースの、……無駄な、浪費を……」
掠れた声で、必死に拒絶の理論を構築しようとする公。
その時だった。
これまで会議中、死んだ魚のような瞳で虚空を見つめ、完全に「ログアウト」しているように見えたランスロット少将が、ひどく冷めた、無機質な声を上げたのだ。
「……父上。……そんな『置き物』を戦場に置かれても、現場としては邪魔なだけですが」
議場が、一瞬で絶対零度に凍りついた。
ランスロット少尉とエルミタージュ公は異父兄弟だと聞いている。
実の兄に対し、公の場で「置き物」と言い放つ傲慢さは、まさにアレス閣下の実子だと痛感させられた。
少将は兄に視線を向けることさえせず、退屈そうに自分の手元の端末を弄りながら続けた。
「戦場は、数字と理屈でできているわけじゃない。……そんな、今にも壊れそうな繊細な『精密機械』を泥の中に放り込んで、再起不能させたらどうするんです? 修理代の方が高くつきますよ。……ねぇ、兄上?」
少将の言葉は、一見、兄を戦場から守っているようにも聞こえた。
だが、その声音に含まれた圧倒的な「無関心」と「軽蔑」の響き。
それはアレス閣下の暴力とはまた違う、静かな「虚無」に見えた。
全戦無敗の戦神と名高い少将であるが、公の「白鱗の聖者」とは対照的だった。
エルミタージュ公は、少将のその言葉に、まるで物理的な打撃を受けたかのように絶句し、ただ唇を噛み締めて立ち尽くしていた。
アレス閣下は、その兄弟の「不和」という名の不協和音を検収し、さらに愉悦を深めたように笑った。
「はっ! そうか。……少将にここまで言われては、エルミタージュ第六公爵、君の面目も丸潰れだな? 置き物ではないことを証明するか、それとも、弟の言う通り『壊れ物』として私の膝元で大人しくしているか……。さあ、選べ」
……。
日記を書く私の手も震えている。
帝国の最高血統たちが織りなす、この歪な三角関係。
誰かが壊れるまで、この「一触即発」のセッションは終わらないのだろうか。
(追記)
【同日:会議終了後】
結局、あの場を収めたのはアレス閣下の、吐き捨てるような、けれど奇妙に納得したような一言だった。
「……まぁ、少将の言う通りだ。ルーカス君。君はだから『少尉』なんだ。戦略だけは特級だが、現場という名の『不条理』を飲み下す器量がない」
閣下はそう言って、公のすぐそばまで歩み寄った。
震える肩を一度だけ強く掴み、そのまま背を向けて議場を後にされた。
その曖昧な評価こそが、公にとっては最も逃げ場のない「不当な格付け」になったに違いない。
一人残されたエルミタージュ公は、自分の「少尉」という階級が、まるで「戦う力のない無能」の代名詞にされたかのように、階級章を掴んで唇を白くして立ち尽くしていた。
そして、その横を通り過ぎる際、ランスロット少将が、感情の消えた瞳で一度だけ公を「スキャン」し、何も言わずに退出していったのが、何よりも印象的だった。
■ 内部独白 / 遺棄ログ:
このログを読み返すと、僕も「若かったなぁ」って、少しだけ恥ずかしく(愉悦)なっちゃいますね。
当時はまだ、自分のシステムに「兄様」という名の致命的な脆弱性が居座っていることを、行政的な「無関心」で必死にパッチを当てて隠していたんですよ。
僕、この時の自分の発言、後で真実を知ったら『システムを初期化したくなるほどの屈辱』に悶えそうです。
何も知らないからこそ、あんなに冷たく兄様を突き放せた。
兄様が、僕のその『無垢な軽蔑』にどれほど絶望していたかと思うと……。
あはははは!
滾るなぁ。
まさか、実の弟から“戦力外”を通告されるなんて思っていなかったでしょう?
本当は、戦場が怖いんじゃない。
僕や父上の前で、“壊れた姿”を晒し続けるのが、
あなたのシステムにとって最大の負荷だった。
あぁ、兄様。
僕は知ってますよ。
A01という首輪を外した兄様が、どんなに熱くて、重くて、強欲なのか。
あなたが少尉で、僕が少将だった。
その階級差という名、無意識な「安全な檻」。
今や僕は大将。
君は少尉のまま。
僕だけが理解していればいい。
ね?
• VITAL:[ PALLOR / TREMOR_LIMBS / PSYCHOLOGICAL_FREEZE ]
• DATA_INTEGRITY:[ DEGRADED / DISCORDANCE_SYNCHRONIZED ]




