【 アーカイブ番号:REC-MIRACLE-VOICE 】
ACCESS_GRANTED: CLEARANCE_LEVEL_2
[STATUS]:UNAUTHORIZED / ARCHIVED
[SOURCE]:JOINT_COMMISSION, First Secretary
分類:[ 監査記録 / 議事録メモ ]
通告:合同会議における奇跡について
■ 概要(System Log):
帝国情動省・一等書記官の執務日記(抜粋)
【No.111243:軍事予算訂正・合同特別会議】
本日の会議は、近年稀に見る「奇跡」を目撃した気分だ。
議題は、先の版図拡大に伴う占領地への追加軍事予算について。
軍部(アレス閣下)と電法省(エルミタージュ閣下)の真っ向対立が予想され、議場は開門前から一触即発のノイズに包まれていた。
だが、演壇に立ったエルミタージュ公——我らが「白鱗の聖者」の姿は、いつにも増して神々しく、そしてどこか「痛ましく」さえあった。
公の喉の調子が芳しくないことは、最初の一声で分かった。
普段の鈴を転がすような洗練された美声ではなく、砂を噛んだような、痛々しく掠れた、絞り出すような低音。
しかし、その「カスカスの声」で語られる侵略への批判は、皮肉にも、健康な時よりもずっと説得力を持って議場に響いたのだ。
「……破壊の後に、……何が残るというのですか……。……余分な流血は、……帝国の、……損失、です……」
途切れ途切れに、喉を抑えながら必死に正論を紡ぐその姿。
私は、公が心血を注いで「平和」を陳情している姿に胸が熱くなった。
一部の老害共(失礼、評議会の重鎮方)も、公のあまりの熱弁(と鬼気迫る様子)に、圧倒されているようだった。
そして、最大の衝撃はその後に訪れた。
あの冷酷無比な戦神、アレス閣下が……笑ったのだ。
それも、公を嘲笑うのではなく、どこか公を擁護するかのような、愉悦を孕んだ深い笑み。
閣下は公の掠れた声を遮ることなく最後まで聞き届けた後、あろうことか公の意見を全面的に支持された。
「……エルミタージュ卿の意見も一理ある。余分な破壊は、コストの増大だ」
閣下はそう仰りながら、自らの喉元を満足げに摩っておられた。
「現地住民の声が出るうちに、降伏させたほうが有意義だ……そうだろう? ルーカス君」
閣下のその一言で、議場は一気に和平へと傾いた。
公は一瞬、顔面を蒼白にさせ、何かを飲み下すように喉を大きく上下させておられた。
「……仰せの通りです」
そうして最後には、小さく、消え入るような声で受領された。
官僚たちの間では、今、一つの噂が駆け巡っている。
「エルミタージュ公は、その喉が潰れるまでアレス閣下を説得し続けたのではないか」と。
身を挺して軍部の暴走を止めた聖者。そして、その情熱に初めて心を動かされた魔王。
これは残すべき記録としてここに記載する。
■ 内部独白 / 遺棄ログ:
【ランスロット少将による差し入れ】
(Toxic Obsession:5%)
「……兄上。
まだそんなところで、機能停止してるんですか。
カスカスの声で正義を説くなんて、非効率にも程がある。
君のその壊れかけの出力デバイス(喉)から漏れるノイズ、聞いてるだけで私のシステムが苛つく(ノイズを感じる)んですが」
(無機質な瞳でポーションを机に置く)
「これ。
医務室ストックから適当にピックアップしてきたポーションです。
喉の炎症を抑えるパッチ……いえ、ただの気休めですよ。
戦略だけは特級の『少尉』様が、声すら出せなくなっては、それこそ、ただのゴミ(置物)以下の資産価値になりますからね。
……さあ。さっさと飲み下して、機能復旧してください」
(エルミタージュ公爵は、瓶を訝しげに見ている)
「……はっ。
なんですか、その貌。
心外だ。
私が差し上げているのは、ただの『事務的な救済』ですよ。
『少尉』のくせに、これ以上私の手を焼かせないでください。
兄上」
• VITAL:[ APHONIA / TRAUMATIC_REACTION / LARYNGEAL_DAMAGE ]
• DATA_INTEGRITY:[ CRITICAL / OVERWRITTEN_BY_A ]




