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育てるべき存在









 数時間後・首都高速道__



 突き抜けるような青空の下、黒塗りのメルセデスが三台 驀進ばくしんしていた。

 その真ん中の車両、後部座席に乗り込むのは佐渡だ。なにやら神妙な面持ちでスマホ相手に会話している。

「……とにかく小僧の野望は吹き飛びそうなんじゃな」

『ですね。……野郎、勝ったはいいが、その両手の拳を潰しちまった。当分喧嘩なんて出来ないっすよ』

 サバサバと答える通話相手。

「はっ馬鹿な奴じゃの、殺す覚悟もなくただ自分の拳を犠牲にするとはな」

 呆れたように笑みを浮かべる佐渡。

『それと湯田達の件なんすが、敗れはしたが葛城をあそこまで追い込んだのは確かだ。……ですから約束通り……』

「……使えんガキは要らん」

 相手の言葉を遮るように言い放つ佐渡。

『だけどオヤジ!』

 スマホ越しに反論する声が響く。

「使えんクズは所詮クズ。あまり反論すると貴様とて破門じゃぞ」

 それでも佐渡は冷静だ。

『……分かりましたわ。……ですがオヤジ、あんましあの葛城の外道なめない方がいいっすよ。仮にもオークの一角を担う男だ』

 渋々ながら理解する通話相手。憂うように吐き捨てた。

「貴様はだまっとれ。……貴様はそのオークの覇権争いから引き摺り落とされた男じゃろうが。寝言は沢山じゃ」

 通話相手の助言など佐渡は聞く耳を持たない。

「とにかく貴様は、ワシが立てた“策略”が明るみに出んよう姿を隠しておけや」

 そして一方的に通話を切った。


「なにがオークの一角だ。所詮ガキはガキ。マジもんのヤクザなめんなや」

 メルセデスは走っていく。ただひたすらに狂気の思いを乗せて__




 一時間後~貴神会々長邸__

 役員達の吸う煙草で真っ白に煙る空間。貴神会の定例閣議がとどこおりなく進められていた。

「……その他で、なにか意見がある方居りますでしょうか?」

 議長が投げ掛けた。

 梅雨明け宣言をした折り、蒸しばむ暑さに堪り兼ね多くの幹部達は興味を注がれない。うんざりそうに扇子などをパタパタと扇いでいた。

「意見が無けりゃ、ひとつ宜しいでっしゃろか?」

 不意に佐渡が挙手きょしゅをした。

 またか、と言った具合に視線を向ける面々。その会合の末席に参じていた英二もグッと視線を向ける。

「佐渡の兄貴。……なにかありますかな?」

 議長が視線を向けた。

「葛城の件ですわ」

 静かに言い放つ佐渡。

「あれは自分のガッコーの戦争で、多くの仲間を失ったらしいですわ。そんな男がこの渡世で生きてゆける筈はない。やはり葛城の組は貴神会のカンバン、降ろして貰いましょうや」

 そして断言するように通達した。末席では英二が悔しげにうな垂れている。

「しかしな佐渡。葛城のせがれはまだ二年生じゃろ? 卒業するまで待ってやっても良いのではないか」

 堪らず言い放つ会長。

「そげな余裕は無いですぜドン会長。ワシら貴神会が関東の覇権を掴んだ現在、西側の進出を阻止する為には組織内の磐石な体制作りが必要ですわ。その為にも素早い対応が求められておるんですぜ」

 それでも佐渡の意見は揺るがなかった。

 会場内がざわめき始める。

「どうしたものかの? 確かにウチは未だ一枚岩とは言えん状況だ。しかし文左衛門の気持ちを考えるとな」

 腕を組み、思考にふける会長。

「これも時代なのかもしれんのう。戦争などが始まれば、ワシら年寄りはなんも出来ん。佐渡や赤城の時代なのかもしれんな」

 仙波もあご鬚をさすりながら、困惑したように遠くを見据えている。

 佐渡の意見は非情ではあるが的確に的を得ていた。多くの幹部達は渋々ながらも受け入れざる得なかった。

『フッ。そうじゃ、これであのジジイもガキも終いじゃのう』腹のうちでほくそ笑む佐渡。その思惑は成功確実だ。

「しかし佐渡さんよぉ、あんたおかしなことを言い出しますよね?」

 だがその空気を切り裂き赤城が言い放った。

「なんじゃと赤城?」

 視線を向ける佐渡。

 相変わらず赤城は冷めた態度だ。座椅子にグッと背を預け、腕を組んで佐渡を見据えている。サングラス越しにもその鋭い眼光が感じられた。

「あんたは葛城の倅、ただの学生を地獄に突き落としている。てっぺんと言うデカイ足枷あしかせつけて」

「そうじゃ。しかしそれは貴様が言い出したことじゃろが?」

 重苦しい沈黙が包み込む。

「あんた、そのオークの落ちこぼれた生徒数人、組内に抱えてるそうだな」

 咄嗟に言い放つ赤城。

『な、何故そのことを?』その台詞に佐渡の表情が変わった。

「……それがどうしたんじゃ? あんな無鉄砲なガキ共、世間に放っておいたら為にならんのじゃ」

 それでもその表情を悟られまいと必死に言い放つ。

「そいつは確かだな。……ヤクザの名前語って、ゆすり、たかり、薬の売買や女の斡旋。あらゆる悪事をしてる連中だからな」

 赤城の視線は鋭いものだ。

『こいつ、どこまで知っとるんじゃ』流石の佐渡も戸惑いは隠せない。直接ではなくとも葛城を追い込んだ事実が知れ渡れば、佐渡自身危ない立場に追い詰められることも考えられた。

「あんたはその無鉄砲なガキ、自分の組内に取り込んで更生させようといている。そいつらが大きくなれば貴神会の勢力として組織内も磐石になるだろうしな」

 だがその佐渡の困惑を余所に、赤城が投げ掛けた。

 意外な展開に言葉を失う佐渡。

「……まさか。オジキにかぎってそんなことは考えてないさ」

「ああ、巧く利用してるに過ぎん」

「赤城だってそんなこと、知らん訳でもあるま」

 ヒソヒソと囁きあう男達。

 しかし会長と仙波は満面の笑みだ。

「ほほーっ、佐渡、お主そのようなことを」

「成る程一石二鳥の良い手じゃな」

 和やかに言い放った。

 その状況下、赤城はまだ佐渡を見据えている。

「……それだけ心の広い佐渡の兄貴のことだ。葛城の倅、噛み付いて殺すなんてことはねーよな」

 意味深に言い放った。

 ゴクリと唾を飲む佐渡。

「当たり前じゃワシはあの小僧に、強い男として、立派な極道として成長を期待してるに過ぎん」

 そして言った。

「だったら葛城組、もう暫くこのままで良いってことですな?」

「当たり前じゃ。文左衛門公の恩義もあるからな。葛城組の存続は公認する」

 その佐渡の言葉に場内がざわめいた。

「ヒャッハッハ。けっこうけっこう、それでこそ仁義の男」

「天晴れじゃ。佐渡も赤城も任侠道の鏡じゃ」

 高笑いを繰り出す会長と仙波。

「かたじけない」

 英二も溢れる涙を堪えグッと頭を下げていた。

 そしてその英二の携帯バイブが鳴り出した。サッと頭を下げ、廊下まで立ち去る。そして通話しだした。

「マジか、オヤジが!?」

 咄嗟に声を荒げた。その様子から察するに文左衛門の件らしい。会長を始めとした面々が固唾を飲んで視線を向けている。

「……そうか、分かった。俺も会合が終わり次第駆け付ける」

 そして英二が通話を終えた。


「文左衛門の様態が変わったのだな?」

 静かに問い質す会長。

「はい、ウチのオヤジ、意識が回復したそうです」

 英二がグッと表情をほころばせた。

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