人は弱くないから
「キャー! ルカ様だわ!」
「この夏空の中あれだけ爽やかなんて、流石ルカ様。素敵だわ」
「ルカ様! 私のお弁当受け取って!」
「ルカ様、夏休みは私と一緒に湘南でも」
突然放たれる女達の黄色い歓声。
そこに多くの人々を従えルカが現れた。覚めた表情、卑下た口元、スカした視線。いつもの表情だ。
そしてその後方を取り巻くグレン、ゴン太、マリアファン倶楽部、ルカ様ファン倶楽部……
まるで大名行列のようだ。
因みに宅ちゃんはそこにはいない。彼は登校などしない。伝説では校内のどこかで暮らしているらしいから……
「姫様お早う御座います」
「マリア様、今日も美しい」
「マリアさまー」
多くのファン共が、マリアに向かい遠巻きに挨拶を繰り出す。その度にマリアがオドオドと頭を下げていた。
「………」
呆れたように視線をくれるシュウと玉木とサトル。だがその視線が、ひとりの人物を捉え真顔に変わった。
ルカのすぐ傍、寄り添うように歩くのは“琴音”だ。
「……はぁ? 小娘??」
「琴音? どうして伝説のナンパ師、いや鳴神と?」
「琴音ちゃん……なんで??」
愕然となる三人。
琴音の方もシュウ達の存在に気付いたようだ。
「シュウ先輩、仁さん、權田くん」
そして駆け寄ってくる。
「マリアさんも真優さんもお早う御座います。あの時は大変御迷惑をおかけしました」
そして屈託ない笑顔を振りまく。
「心配したんですよ。連絡も取れず終いだったから」
「そうだよ。大したことはないって聞いていたけど」
「ありがとうございます。この通りピンピンしてますから」
こうして和やかに会話に興じる女達。
「琴音、なんであんなナンパ師と一緒にいるんだ?」
すかさず玉木が訊ねた。……因みに玉木はルカのことを大ナンパ師だと感じている。
他の面々も息を潜めてその会話に聞き入っていた。
「あれなんですよね……」
モジモジと言い出す琴音。その顔色が少しばかり赤らんだ。
その意味を察する玉木。
「……まさか、あんな奴に惚れたんか?」
そして悔しげに問いかけた。
琴音の顔色が益々紅潮しだす。
「はい、好きになりました」
やがて堂々と告白した。
「はぁーマジかよ!?」
呆れたように手で顔を塞ぐ玉木。
「なんで……ルカ?」
テンぱり気味のシュウ。
「うわー大胆琴音ちゃん」
ニコニコと微笑む真優。
「………」
複雑な心境のマリア。何故か紅潮しだす。
『終わったっす。……二度目っす。初恋って悲しいっす』サトルがガックリと肩を落とした。
シュウという淡い恋には敗れ去っていた。それでもその悲しみにいつまでも浸っていることはなかった。
あの雨の降りしきる路上でのルカの優しさ、そして事態を打開した力強さ。それは琴音にとっては物凄く頼もしい出来事だった。
それは愛と言うにはまだ危険すぎて、恋と言うのも幼すぎた。それでも先を見据える輝きがそこにはあった。
「それでは失礼します。マリアさん、頑張ってください」
不意に琴音が振った。
「えっ?」
戸惑い琴音を見つめるマリア。
そして琴音はルカに従うように去っていった。
「誠の奴、怒るだろな。ああいう輩、あいつ嫌いだから」
サバサバと吐き捨てる玉木。
「ボクも嫌いっす、鳴神統」
サトルがボソッと吐き捨てた。
その台詞に玉木はサトルを見据える。
「なんだよサトルちゃん。女なんていくらでもいるんだぜ? 素敵なおねぃさん見つけに行こうぜ!!」
そして車椅子を押しだし走り出した。
「玉木先輩! 早い、早すぎっす!!」
たじろぐサトル。それを無視するように二人は騒然と消え去っていった。
「なんだよサトルちゃん、髪型戻っちまったな。またバリバリにしてやんよ。次は“卍剃り”か?」
「……いやそれは……」
「ミナトの奴も停学明けで帰ってくっから、楽しくなるぜ!」
「マジっすか!?」
シュウ達はその様子を愕然と見つめていた。
「はん、女は強し……ってか?」
シュウが吐き捨てた。
「本当ですね。琴音ちゃん、私より年下なのに強いです」
マリアも同調して頷く。
季節は夏だというのにまだ春さえ訪れぬ二人。
その様子を真優が覚めたように見つめている。
「いいんじゃない。琴音ちゃんが新たな恋のチャンスを手に入れたんだよ。応援しようよ」
そしてあっさりと投げ掛けて歩き出した。
「そうですよね。応援ですね」
マリアも微笑んでその後を追う。
「だけど相手はあのルカくんだからね、シュウより手強いよ」
「そうですよね。何人もの女の子がルカさんを狙ってますから」
二人、意気揚々と話しながら校舎側に歩き出す。
こうしてひとり残されたシュウ。
『……しかしよ。……小娘がルカのクソに惚れたって。あの女を手玉に扱うルカだぜ? ……や、や、や、や、られちまったのか??????????』想像して真っ赤に紅潮していた。
「シュウさーん、なにをしてるんです、行きますよ」
校舎近くでマリアが手を振る。
その声でシュウが現実空間に戻ってきた。
「行くよ。もう少しで夏休み! クソ授業、受けてやんよ」
そして夏空の下、全速力で走り出した。
雨降って地固まるとは良くいう。様々な駆け引き鬩ぎ合い、どうしようもない運命、持って生まれし宿命によって人は翻弄される。
だがその岐路に佇む時、人はその儘ならぬ展開を打開しようとする。それこそが人の強さであり、更なる成長を期する糧なのだ。
尤もそれをシュウに期待する方が野暮ってもんだが……




