侵食する暗黒
「なんだよ、らしくねーよな。とにかく分かった。あと10分程で駆けつけるよ」
宝仙が答えた。
宝仙はホテルから数キロ離れた廃屋で待機していた。
「……ああ、大丈夫だって」
そして呆れ気味にスマホの電源を落とした。
「へっ、あの湯田が『助けて』だって。妙にしおらしいとこもあるんだな」
呟いて後方を振り返る。
遠くの街の灯りに照らされ薄っすらと青く包まれた空間。そこには数十人の仲間達が待機していた。
「普段口うるさい奴のことだ。少しはその鼻っ柱を叩き折るいいチャンスじゃんよ。暫く焦らしてみるか?」
その中央で鉄パイプを握り締める古谷が言い放った。
「ギャハハ、それもいいんじゃねー?」
「あいつ口ばかりが達者だかんな」
同調してゲラゲラ笑う男達。
「まあ、そう言うなって。葛城がそれだけ手強いってことさ」
宝仙が、嘲るように両手を広げた。
「強いっても、そろそろ打ち止めじゃねぇ?」
「そうそう、この人数なんだぜ。地獄だよな」
「まさに百鬼夜行ってもんだな」
「パンドラだよパンドラの箱。葛城の馬鹿野郎、パンドラの箱を開けちまったのさ」
既に男達の脳裏には、勝利の二文字しか見えない。完全に勝ちを信じ切っていた。
「さあ、あそこまで濡れていくのは嫌だろ? バスに乗り込んで宴会気分で出発しようぜ」
宝仙が号令をかける。
その眼前にあるのは1台のマイクロバス。貴神会がホテルと一緒にせしめたものだ。
ズパーン!! 突然、なにかが破裂するような音が響いた。
「なんだよ今の音……」
浅黒い男が、音の響いたバスの車体裏に視線を向ける。
「……キャッ、キャッ、キャッ……」
そこにはなにかの影が動いている。
「なんだよ?」
恐る恐る、近寄る浅黒い男。
それは120センチ程の小柄な人物。男達の存在など眼中にないようにバスのタイヤにナイフを刺し込む。
ズバーン! 再び響く破裂音。
「てめーっ! なにをしてんだ!」
浅黒がムカつき加減にその襟首を掴み上げた。
「キャッ、キャッ、キャッ」
それは金髪モヒカンの男。葛城組に紛れ込んでいた“パイナップル”だ。
「てめーは“マリアファン倶楽部”の奴じゃねーか!」
捲くし立てる浅黒。
そうパイナップルはファン倶楽部の住人。あの日はたまたま玉木に連れられて散歩に行っていただけだ。
「ほらなにか言えよ? ……なんのつもりだ!?」
パイナップルの顔を引き出し捲くし立てる浅黒。
しかしパイナップルはオシャブリを銜え呆けた表情のままだ、一向に埒があかない。
その表情が浅黒の怒りを押し上げる。
「ナメてんなよ! だいたいなんで高校生にもなってオシャブリ銜えてんだよ!」
叫んでオシャブリ奪い取った。
「グギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
すかさず放たれる耳をつんざく金切り声。同時に浅黒の顔面に殴る蹴るの暴行を始めだした。
「ウオーッ! 堪らん!」
「なんじゃそいつのオシャブリは安全ピンか!?」
「馬鹿野郎ファン倶楽部に手を出すなよ! なにがあるかわからねーんだから!」
他の男達も堪り兼ねたように両手で耳を押さえる。
「……えっ?」
「はっ?」
刹那、暗闇に別の誰かが居るのに気付いた。
「誰だ? ……他に誰かいるのか!?」
派手なシャツに身を包んだ金髪の男が目をこらす。
「世間の泰平を乱す不埒者に、名乗る名などありはしない」
その誰かがジリジリと擦り寄る。
「キャ……」
その声に反応してパイナップルも暴行の手を止めた。
男達はその凄まじい気にゴクリと唾を飲み込み微動だに出来ない。
やがて青い灯りに照らされて現れたのは浅葱色の羽織に身を包みし男だった。顔から手首、全身を包帯でぐるぐる巻きにし、その手には鈍色に輝く日本刀を握り締めている。
「げーっ!! マリアファン倶楽部・副会長“佐藤ゴン太”!!」
金髪が叫んだ。




