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飽くなき想い



「……降ってきたようだな」

 湯田が言った。

「ひでー雨だな。こりゃあ当分家には帰れねーな」

 傍らの短髪が同意する。

 ホテルの外は雨と風、そして稲光と雷音の世界。窓に叩きつけられ滴り落ちる水流が物悲しさを呼び込んでいる。

 その外の様子を大野がひとり窓際で静かに見つめていた。


「さてとそろそろ葛城が現れるんじゃねぇ?」

「この嵐の中ご苦労なことだよな」

「だよな。負けると分かってて来るんだから悲しいね」

 ヘラヘラと嘲る仲間達。


「おで、お母ちゃんにおにぎり作ってもらったんだ。戦の前の腹ごしらえなんだ」

 一方ではランニングシャツにタンパンの男が、あぐらをかいて握り飯を食している。

「ウッキー。俺も腹減ったなにかくれ」

 その手前では猿顔の男が物欲しそうに指をくわえていた。

「バ、バナナでいいかな。おにぎりはダメなんだ」

 のほほんとした光景を繰り広げていた……


 ピカッ……ガララッ……! 天空に一際巨大な稲妻が煌く。

 ズバババー…… ズダーーン!! 闇空を切り裂き地上に落雷した。


 一瞬の輝きが視界を覆った。同時にホテルの電力が遮断される。


「なんだぁ、近くに落ちたのか?」

「暗くて見えねーぞ。誰か照明!」

「安心しろよ予備電源がある筈だ。直ぐに復帰するだろう」

 暗闇に仲間達の声だけが響きだす。


 落雷は何発も降り注いでいた。その都度辺りを照らし、再び闇に変える。


「えっ?」

 不意に巨漢の男が入り口に視線を向けた。

 稲光に照らされ、何者かの姿が克明に映し出される。

「まさか……か……ぎ!!」

 咄嗟に叫んだ。

「葛城だと!?」

「奴がここに現れたのか?」

 飛び交う逼迫ひっぱくした叫び。

 そして再び訪れる暗黒の世界。

「ぎゃーーっ!」

「グオッ!?」

 同時に挙がる断末魔にも似た叫び。

「馬鹿野郎、下手に動くな!! 状況を確認するんだ!」

 湯田が咎めた。


 誰もが神経を研ぎ澄まし、人の気配を読む。

「そこかーっ狂犬!」

「違うって!」

 暗黒の世界が男達の動揺を増幅させていた。永遠とも思える程の沈黙が包み込む。

 そして予備電源が復旧した。

「かつらぎぃーーっ!! てめーーっ!!」

 憤怒の感情を吐き出す湯田。

 数人の仲間達が苦痛の表情で床に倒れこんでいる。

 ロビー中央部に詰め襟を羽織った葛城の姿があった。全身ずぶ濡れで水滴が滴っている。撫で付けた髪も雨で垂れ下がっていた。それでもその全身から立ち上る蒸気が、激しい感情を示していた。

「ははっ、俺ひとりを待ち構えるには無駄な雑魚が揃ってるんでな、少しばかり間引きさせて貰ったぜ」

 そして湯田を睨んだ。

「ぐっ……」

 堪らず唇を噛み締める湯田。仲間達も戸惑い葛城を見据える。

「アッハハハ!」

 その状況を切り裂くように大野が高笑いしだした。

 愕然と視線を向ける湯田。

 その眼前、大野は両手をポケットにねじ込み天井を見上げながら歩いている。

「湯田、お前は策士を気取ってその狂犬を嵌めようとしてるけど、役者が違うよ」

 そして葛城に視線をくれて表情を引き締める。

「やっぱ葛城誠、最強の戦士だよ。あの頃と引けを取らない。いやそれ以上、討ち取るに値する男だぜ」

 そして言い放った。

 呼応して葛城も睨みを利かす。

「ははは、貴様こそ魔王の右腕と呼ばれた狂気は健在のようだな。誰かに飼われ、怯えて、様子を窺ってる馬鹿よりナンボかいい」

 意味深に吐き捨てた。

「……誰のことだよ?」

 訝しく見据える湯田だが、当の二人は既にそれに興味がなかった。


「琴音に聞いたぞ、あいつのこと“守って”やったんだとな」

「シュウの馬鹿とてめぇのせいで、争いに巻き込まれるのは悲しすぎるからな」

 意味深にやり取りする。

 その鬼気迫った状況に湯田を始めとする仲間達は微動だに出来ない。凄まじい気迫に満ち溢れていた。


「結果としてここまで来ちまったんだ。会のリーダーとして“個人の想いは捨てるさ”。……葛城誠、お前の首は俺が取ってやるよ!」


「悲しい男だよな大野朝陽。“待ち人来たらず”ってか? 残念だが俺の拳で打ち死ねよ」


 それは入学当初からの飽くなき思い、見果てぬ野望。時は過ぎてもその崇高なる想いは健在だ。

 だからこそ多くは語らない。そこにあるのは男としてのプライドだから。


「くたばれ狂犬!!」

「くたばるのは貴様だ!!」

 そして葛城誠と大野朝陽、幾多の思いを乗せ激突した__

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