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バイブル・コード 〜ディストピアの青年が覚醒して神のシステムに叛逆する〜  作者: 中門大良
第6章【潜伏する牙】

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8-6.埋もれた遺産と種火

 アネアの神殿を後にしたガロングの一行は、フェンリス隊長、傷の癒えたローガン、ブラッド、アル、あるいは数名の防衛隊員たちと共に、不毛の荒野へと足を踏み入れていた。

その一行の後方を、少し離れて必死についてくる小さな影があった。サカキに命を救われた獣人の若者、ルカだ。


「おいおい、あの子……興味本位でここまでついてきちゃってるぞ」

ローガンが呆れたように肩をすくめると、フェンリスは苦笑いを浮かべた。

「すまない、好奇心の強い奴でね。数年前に父親が亡くしてからは私が父親の代わりとして面倒を見ているんだ。だが、化け物の王が消え去った今、この荒野に危険はないはずだ。大長老の占いが本物かどうか、自分の目で確かめたいのだろう」

サカキは特に咎めることもなく、ただ前方に視線を向けた。


荒野のほぼ中心地。そこに、アネアの言っていた「奇妙な石」はあった。

大地の底から強引に突き出たかのような、巨大な石の塊。四角錐に近い形状をしており、見えている部分だけでも約2メートル四方、高さは1.5メートルほどある。長い年月の風化に晒されているが、明らかに自然物ではない、人工的な直線が刻まれていた。


「……よし、リリス。周囲の警戒と、この石の調査を頼む」

サカキの言葉に応じ、彼の肩アーマーから、美しい金属の翼を持つ鳥型のリリスが鋭い羽ばたきと共に飛び立った。リリスは荒野の上空を旋回しながら、周囲に潜むバグの残滓がないか、上空からの高精度スキャンを開始する。


「よし、リュウ。始めてくれ」


オッドの重厚な声に、リュウは静かに頷いた。

リュウがゆっくりと歩を進め、その二メートル四方の石の前に立つ。

ふっと息を吸い込み、全身の『蒼い力』を解放し始めた。

ドクン、と大気が大きく脈動した。

深淵な蒼の粒子が、陽炎のようにリュウの全身から立ち上る。

リュウが静かに右手を持ち上げ、目の前の虚空へ、そっと手のひらを添えるように触れた。

その瞬間──まるで透明な水面に触れたかのように、空間へブワリと蒼い波紋が広がっていく。石の真上の空間が、ガラスが歪むようにベキベキと歪み始めた。リュウの放つ異世界の物理法則が、この地の不気味な磁場と強烈に共鳴しているのだ。


空間が蒼い光の渦となって激しく歪み始める中、周囲を飛び回っていたリリスが、激しく羽ばたきながら慌てた様子でサカキの元へと舞い戻ってきた。


『みんな! 周囲にバグの反応はないわ! 荒野のバグは全滅! ──でも、それ以上に凄いことがわかった!この石の、大地の底のスキャンデータを見て!』


リリスがバトルスーツのバイザーへ、即座に地下透過のホログラムデータを転送する。それを見たサカキが、思わず目を見張った。

「……おい、マジかよ」

『そうよ! この私たちが目にしてる二メートル足らずの石、ただの石の塊なんかじゃない……! この大地の底、数百メートルにわたって、ピラミッド型の超巨大建造物が丸ごと埋まってる! 私たちが今いるのは、その頂上よ!!』

「何だって……!?」

フェンリスや獣人の隊員たちが驚愕に目を見開く。ブラッドとアルも顔を見合わせ、その規格外のスケールに舌を巻いた。彼らにとって小山のような石の突起でしかなかった場所が、かつて失われた人類が遺した、想像を絶する規模の超巨大遺産だったのだ。

「なるほど、世界の壁が薄い訳だ。これだけの質量と未知のエネルギーが地下に眠っていりゃ、磁場も狂う」

オッドがフッと不敵な笑みを漏らす。

地下の巨大ピラミッドが持つエネルギーが、リュウの『蒼き力』という強烈な呼び水によって完全に起動していた。石の真上に生じた空間の歪みは、今や巨大な蒼い光の『扉(ゲート)』へと姿を変え、荒野の激風を吸い込みながら激しく回転している。


ゲートの向こうから伝わってくるのは、全く異なる世界の、冷たく乾いた空気の匂い。


「──座標の安定を確認。いつでも行けるわ!」


リリスがサカキの肩に舞い降り、鋭く鳴いた。サカキが全員を見やる。

「フェンリス隊長、お前たちの街はもう安全だ。俺たちは次の世界へ向かう」

「ガロングの戦士たちよ。君たちの受けた恩は、我が部隊、いや、この世界の獣人すべてが永遠に忘れまい。……どうか、武運を」

フェンリスが背筋を伸ばし、胸に拳を当てる最敬礼を送る。

リュウはゲートの前に立ち、最後に一度だけ振り返って、柔らかな笑みを浮かべた。

「ありがとう。皆さんも、どうかお元気で」

オッド、リュウ、サカキ、そしてローガン、ブラッド、アル。黒き鉄のスーツを纏ったガロングの戦士たちは、一列になり、激しく光り輝く蒼い歪みの中心へと足を踏み入れた。


シュゥゥゥンッ……


鼓膜を突き刺すような空間の鳴動と共に、光の扉が爆発的に収束し、完全に消滅する。

あとには、ただ静まり返った荒野と、大地の底に眠るピラミッドの頂点の石だけが取り残されていた。

呆然とそれを見つめていた獣人の隊員たちが、ふぅ、と長い息を吐き出す。

「行って、しまわれましたね……」

フェンリスは彼らが消え去った虚空を見つめ、彼らの圧倒的な強さと、世界を救ってくれた背中の広さを、深く胸に刻み込んでいた。

その時、ずっと後ろで立ち尽くしていたルカがフェンリスの隣まで歩み寄ってきた。ルカの瞳は、今なお激しく燃え上がっていた。黒き戦士たちが残していった、世界の理を覆すようなあの輝きが、ルカの心を完全に捉えて離さなかったのだ。

ルカはぎゅっと己の拳を握りしめ、震える声で隊長を見上げた。

「……フェンリス隊長」

「ん? どうした、ルカ」

「おれも……おれもいつか、あの人たちや隊長とか父ちゃんみたいな……本物の『戦士』になれるかな?」

その真っ直ぐな問いかけに、フェンリスは驚いたように目を見張り、それから優しく、力強くルカの肩を叩いた。

「なれるさ。お前がその憧れを捨てない限り、いつか必ず、あの背中に追いつける。お父さんもきっとそれを望んでいる。」

若き獣人の決意を乗せた風が、静まり返った荒野を吹き抜けていく。

それは、黒き鉄の戦士たちがこの世界に残していった、確かに未来へと繋がる、小さな希望の種火だった。

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