8-2.新たなる黒の軍勢
「な、なんだ……あの黒い鎧は……っ!?」
乱入してきたサカキの姿に、恐怖に硬直していたルカや他の獣人たちだけでなく、周囲のバグたちまでもが一瞬、その動きを止めた。
かつて、この世界で滅びたはずの「ニンゲン」の形。それをさらに禍々しく、だが息を呑むほど洗練させた漆黒の装甲。人類の遺した金属の教典を宝物として崇めるルカたちにとって、サカキが纏う新型スーツは、歴史の彼方から現れた未知の超技術そのものだった。
「グルゥゥッ……!」
踏みつぶされた同胞の塵を見つめ、三体のバグが同時にサカキへと躍りかかる。
だが、サカキは動じない。ヘルメットのバイザーの奥で、彼の網膜にはバグの戦闘軌道が完全に予測演算され、さらにその胸奥で不気味に明滅する「赤黒い核コア」の位置が青い光跡としてロックオンされていた。
「アル、新型の出力、最大で試させてもらうぞ」
サカキが不敵に呟いた瞬間、背中の柄から引き抜かれた漆黒のブレードが、まばゆいプラズマの光を帯びる。
一瞬だった。
鋭い金属音すら置き去りにする速度で放たれた横一文字の斬撃は、襲いかかったバグ三体の胸元──その核の座標を寸分の狂いもなく正確に捉え、**まるで紙切れのように同時に両断した。切断面から赤黒いノイズが激しく噴き出し、核を失ったバグたちは悲鳴を上げる間もなく光の塵へと還っていく。
「ルカ!!」
その隙に、人の波を掻き分けて戻ってきた母親が、必死の思いでルカを抱き寄せた。サカキは親子に背を向けたまま、ブレードを軽く振って残光を払う。
「──各員、遅れるな。広場のバグを包囲しろ」
サカキの言葉と同時に、上空からさらに二つの黒い影が爆音とともに対地降下してきた。
凄まじい衝撃波とともに着地したのは、巨大な重火器を軽々と肩に担いだ巨漢ローガンと、すでに中距離の狙撃ポイントへと素早く跳躍し、銃身を構えているブラッドだ。
「ハッ! この世界のバグども、前の世界の奴らより妙に統率が取れてねーか?」
ローガンがガトリング砲の銃口をバグの群れに向けながら、楽しげに通信へ声を乗せる。
「ああ、油断するな。間違いなく知性を持ってるやつがいる」
サカキが冷静に答え、ブレードを構え直した。
サカキのマットブラックのスーツ──その右肩の装甲だけは、鳥の翼を模したような、どこか流線型の鋭いデザインをしている。その右肩アーマーが、カシャカシャと幾何学的な音を立てて細かくスライドし、変形を始める。装甲の一部が完全に分離し、一羽の小さな「鳥型アンドロイド」へと姿を変えて、サカキの肩からふわりと羽ばたいた。
『──サカキ、ローガン、ブラッド。右前方、および後方からの増援、計六体。右から来る個体は……コアが左胸に寄ってる。迎撃して』
全員のスーツのインナー通信に、鈴を転がすような少女の声が響いた。
その声の主はリリスだった。
アルが1年かけてリリスの全データをエスケープし、新たな器を作り上げたのだ。戦闘時はサカキの強固な装甲として彼を守り、索敵時にはこうして翼を広げる。
リリスは無意識に淡い光の計算式を瞳に明滅させ、大気の揺らぎから敵の導線を正確に読み解いていく。
通信の向こうから、拠点で待機しているアルの軽快な声が割り込んできた。
『さすがリリス、新型スーツのセンサーとうまく同調してるな。俺の特製デバイスの乗り心地はどうだ?』
『悪くない。でも、ローガンの通信ノイズが大きくてちょっと耳障り』
『おっと、そいつは悪かったな、お嬢ちゃん!』
ローガンが不敵に笑うと同時に、その重火器が凄みのある火を噴いた。
ブラッドの精密狙撃が正確にバグの核を撃ち抜いていく。進化したガロングの圧倒的な戦力が、市場のバグを瞬く間に殲滅していった。




