7-1.物理の崩壊
「バ、バカな……! 熱線弾が消滅しただと!?」
特務部隊の指揮官の絶叫が、静寂の戻ったサーバー室に響き渡った。
彼らのバイザーに表示されている戦闘解析ログは、完全にフリーズしていた。弾道予測も、エネルギーの熱量測定も、すべてが「ゼロ」を示している。
それは単に攻撃が防がれたのではない。この部屋に充満する、深く澄み切った**「青い光」**が、放たれた破壊のエネルギーそのものを根底から「無効化」し、世界のプログラムから消去してしまったかのようだった。
「リュウ……お前、本当に目覚めたのか……?」
サカキが、掠れた声で呟いた。アサルトライフルを構えたまま、その銃口がわずかに下がる。
ローガンは焦げた肩の痛みも忘れて、信じられないものを見る目でリュウを見上げ、ブラッドは「嘘だろ」と小さく笑って超振動ナイフを収めた。オッドだけは、消えかけた葉巻の吸い殻を見つめたまま、フッと口元を歪めた。天秤の針は、完全に傾いたのだ。
「ああ。待たせて悪かった、サカキ、みんな」
リュウは、静かに言葉を返した。
かつて彼の左腕を苦しめていた黒紫色の痣――管理局が植え付けた兵器としての呪縛は、跡形もなく消え去っている。代わりに、彼の血管を巡るように、鮮烈な青い光のラインが皮膚の下で静かに脈打っていた。
境界の底で命を賭して自分を導いてくれたバグ――ジンの魂は、今やリュウの意志と完全に同調し、新たな「力」として再定義されていた。
「下がっていてくれ。……もう、誰も傷つけさせない」
リュウが、特務部隊に向けてゆっくりと一歩を踏み出した。
その瞬間、特務部隊の指揮官が本能的な恐怖に突き動かされるように手を挙げた。
「総員、撃て! 距離を保て! 対象を完全に排除しろ!!」
狂乱に近い命令と共に、生き残っていた十数人の特務兵が一斉に後退しながら、再び重エネルギー弾を乱射した。サーバー室の狭い空間を、目も眩むような閃光が埋め尽くす。
だが、リュウは走ることも、身を隠すこともしなかった。
ただ、静かに右手を前方へかざす。
それだけで、彼の周囲に展開された青い光の障壁が、迫り来るエネルギー弾を次々と吸い込み、まるで水面に落ちた雨粒のように波紋を立てて消し去っていく。歩みを止めることすらできない。
「次は、俺の番だ」
リュウの瞳が、青く爆発的に発光した。
彼が空間を「薙ぐ」ように右手を横に振った瞬間、サーバー室の空気が激しく振動した。
ドォンッ!!!
それは衝撃波ではなかった。空間そのものが物理的にスライドしたかのような、不可視の「圧」が特務部隊を襲った。
彼らが誇る最新型の重シールドが一瞬でガラスのように粉々に砕け散り、漆黒の戦闘スーツを纏った兵士たちが、まるで突風に吹き飛ばされる木の葉のように、次々と後方の通路へと弾き飛ばされていった。
「う、あぁぁぁッ!?」
壁や床に激しく叩きつけられ、特務兵たちのバイザーが次々とクラッシュしていく。スーツの駆動系を青い光の粒子が侵食し、彼らの動きを完全にロックした。
わずか一撃。
身構えることすら許さない圧倒的な質量としての「拒絶」の力が、管理局の精鋭部隊を瞬時に無力化したのだ。
煙が引いていく通路の奥で、唯一立ち上がろうとする指揮官に向けて、リュウは静かに歩み寄る。その足音は、静かで、冷徹で、...そしてどこまでも力強かった。




