6-2.叛逆の戴冠式
管理局セントラルタワー、最上階――。
そこはスラムの混沌とは対極にある、無機質な白に支配された空間だった。窓の外には完璧な秩序で光り輝く都市が広がり、その中心に、都市の全記述を司る最高管理官が鎮座している。
「――エナ。君の罪状は明白だ」
最高管理官の声は、肉声ではなくスピーカーから響く合成音のように冷たかった。
「個体識別番号:L-015の私物化。および、禁忌とされる外郭記述の無断使用による都市インフラの破壊。君の『記述』は、もはやこの世界の調和を乱すバグに等しい」
エナは純白のタイルの上に跪き、俯いていた。
周囲を、黒い装甲に身を包んだ管理局の執行官たちが囲んでいる。彼らの銃口は、迷いなく彼女の項に向けられていた。
「言い残すことはあるか。廃棄の前に、君の権限をすべて剥奪する」
沈黙が流れた。
だが、エナの肩が小さく震え、やがて低い笑い声が漏れた。
「……ふふ、ふふふっ。権限の剥奪? 面白いことをおっしゃるのね」
エナがゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、狂おしいほどの情熱と、絶対的な蔑みが混じり合っていた。
「あなたたちは、リュウの中に眠る『01』をただのバグだと恐れ、排除することしか考えない。でも、私は彼の中に、この閉じた箱庭を壊し、真の楽園を創るための、唯一の希望を見たわ」
「狂ったか、エナ。……やれ。廃棄を実行しろ」
最高管理官が非情な宣告を下した。
執行官たちの指が引き金にかけられる。
だが…
引き金が引かれるよりも早く、室内の照明が、血のような赤に染まった。
『――緊急事態。最高権限コードの照合に失敗。基幹システムに正体不明のノイズが混入しています』
アラートが鳴り響く中、執行官たちの動きが、まるで映像のバグのように停止した。彼らの装甲に埋め込まれた制御チップが激しい火花を散らし、彼らは断末魔の叫びを上げる間もなく、その場に崩れ落ちた。
「何をした……!?」
最高管理官が立ち上がろうとする。だが、その足元からデジタルの裂け目が広がり、彼の体の一部がドット状に崩れ始めた。
「リュウとリンクした時、彼が私の中へ流し込んでくれたの。……あなたたちの『記述』を内側から食い破る、美しい毒をね」
エナは立ち上がり、動けなくなった最高管理官へと歩み寄った。彼女の指先が宙を舞うと、管理局のメインモニターに、スラムの地図と膨大な「デリート」の文字が浮かび上がる。
「この世界は不完全すぎるわ。だから、私がすべて書き換えてあげる。リュウの足元を汚すゴミ(スラム)も、彼を兵器としてしか見られない無能な指導者も……全部、消えていいの」
「エナ……貴様、正気……では……」
最高管理官の頭部がノイズに飲み込まれた。
断片化したデータが宙に舞い、彼が座っていた椅子が、空席になる。エナはその椅子に、ゆっくりと腰を下ろした。
彼女の指がコマンドを打ち込む。都市の全放送網が、彼女一人の意志に繋がった。
「見ていてね、リュウ。あなたのための聖域を、今度こそ完璧に作ってあげるから」
彼女がモニターに映るスラム――リュウがいるはずの場所を見つめ、慈しむように微笑む。
直後、スラム中のスピーカーから、彼女の「浄化宣言」が放たれた




