第94話 野生児に合う服とは何ぞ?
水曜日にも投稿しているので見ていない人はご注意を。
あとがきにデフォキャラがあります。
《緊急クエスト》☆☆☆☆☆
・野生児にまともな服を着せましょう!
※野生児は普通の服が嫌いなものとする
「なー、リル? これはどうよ?」
「や!」
「リルさん、こちらの服は可愛いとおも――」
「もっといや!」
「ダメだこりゃ」
「困りましたねぇ」
頼むからそろそろ決めてくれよリル。
店員さんの営業スマイルにヒビが入ってきたぞ。
困りすぎて某狩りゲーの依頼みたいな幻影が見えたし……
ヘルプによる道案内(カーナビ方式だった)により、1番近くの服屋さんに来た私ら。だけど、そこで待っていたのは予想外の試練。
まず、ある意味こっちは予想通りだけど、この世界は日本のユニ〇ロやし〇むら程いろんな服を店内で取り扱っていない。王都でリリィとお出かけした時に一緒に見て回って知った。
まあ、日本の服屋が異世界からして異常なんだろうけどさ。サイズ違いだけで何着もあって、季節が変わるごとに商品が入れ替わって、本気で採算取れてるか不思議に思ったっけ? 廃棄処分の量とかどうなってんだろうね? リサイクルしてんのかな?
と、そんな大きい所でも普通より少し広めな一軒家ぐらいしか店のスペースがない異世界服屋。取り扱っている服もそこまで多くない。
幸い私たちの訪れた服屋は比較的子供服を多く取り扱っているお店だったけど、リルに問題が発生。
この子、全然服を気に入ってくれない!
何を選んでも気に入ってくれないんだ。
しかも、子供にありがちな「このデザインは嫌だ」なんて可愛いものじゃなく、感覚的に気に入らないらしい。
んなもん知るか!って話ですよ。
ただでさえリルを店に入れる時に店員のお姉さんが何とも言えない表情していたのを、適当に作ったカバーストーリーで同情誘って何とか入店できたってのに、もうすでに何十着も自分の働いてる店の商品を拒否られてる店員さんの気持ちも考えてよ! 良心が痛むよ! ゴメンねお姉さん!
もうかれこれ入店から数十分。限界が近い。
私は男の子とか好きそうな服を、ステラは女の子が着るような服を、それぞれ選んではリルに見せて場合によってはプレゼンまでしてんのに、リルのお眼鏡に叶う服がみつからにゃい。ホンマ、疲れてきたわ。
これでもがんばってんだよ?
前世のコンビニで立ち読みしたファッション雑誌の情報やテレビで紹介する最近のファッションから、こっちの世界じゃ今のところ見たことない服のコーディネート(簡単のだと上に羽織るものを腰に巻くスタイル。何故か小学校で流行った)してみたけど……全敗。
たまに店員のお姉さんが目をギラつかせてメモを取っているのをよそに、リルの説得を試みたけど……ダメでした。
今じゃステラと2人揃って頭を抱える始末。
あーあ、地球でリアルターザンに服を着せようとしたら、こんぐらい苦労すんのかねー? 結局、靴を履かせるのが限界でしたよ。
(そもそもなー……ぶっちゃけるとリルに合わないのは本当なんだよなー)
似合う服がないわけじゃないんだけど、何かこれじゃない感があったのも事実。
反応から女の子らしい服は論外。男の子らしい服もどうにも気に入らない様子。ちょっと試しに合わせてみたりもしたけど、ファッションセンスど素人の私でもリルの良さを発揮できていない気がするんだ。
このままでは無駄に時間を過ごしただけで終わってしまう。
本気で取り組んだ結果が靴を履かせただけとか嫌だ。
誰か、この野生児に合う服を用意してくれ!!
「何なんだ、さっきからうるせえなぁ」
――と、ここでまさかの救世主が。
「誰?」
出てきたのは眠そうな顔した髭の濃いオッサン。
「ここの店長だよ。つまり、この店の主だ」
何と店長さんでしたか。そりゃいますよね当然。
現在進行形でご迷惑をおかけしてます。
「あれ? 店長、確か急な依頼で徹夜していたんじゃ」
「だからさっきまで寝ていたんだよ。なのに、さっきから『アレでもない』『コレでもない』ってバタバタしやがって……ふあぁ」
本当に迷惑掛けてた。マジすんません。
「で? アンタらが客か? どうしたんだよ全く」
実はカクカクシカジカでして……
「ふ~ん、なるほどねぇ……」
店長さんはリルを上から下までマジマジと見る。
「な、何だ……?」
「オメぇさんに合う服が何か考えてんだよ。ちなみに聞くが、今来ている浮浪児並みに汚えボロ着は着ていて嫌じゃねえのか?」
「うん」
「ふ~ん……」
店長のオッサンはしばらく考えたあと「ちょっと待ってろ」と店の奥に引っ込んでしまった。え? もしかして、どうにかできるの?
「おい、コイツを着させてみろ」
「いや、店長せめて説明w――わわ!?」
割と早く戻ってきた店長のオッサンの手には黒い生地の服があった。
ソレを店員のお姉さんに押しつけると、リルと一緒に試着室に放り込む。
で、待つことしばし。
試着室から出てきたのは、
「おお! 似合ってる!」
「見たことない生地ですが、確かにリルさんと合っています」
「そうか? 似合ってるか?」
とても似合う服を着たリルだった。
デザインはノースリーブと短パン。
色合いは短パンの方は黒一色だけど、ノースリーブの方は黄色の線が入っている。前はオープンファスナー式で閉じられており、スライダーと呼ばれるファスナーを引っ張る部分が通常より大きめなのがアクセントとなっていた。
「気に入ったようでなによりだ」
「店長さん、これってどういう……」
「コイツは元々、貴族からの依頼で作った運動着なんだよ」
話を聞くと、知り合いのツテで丈夫な魔物の素材が安く手に入ったのでどんな加工にしようかと悩んでいたら、素材の話を偶然聞いたらしい貴族から自分の子供の修行服を作って欲しいと依頼が来たので持てる技術で作ったは良いけど……
「その貴族が結構な金額を横領してたってんで、家が取り潰しになったんだ。キャンセル料は上の人間が取り立てた分から貰ったんだが、それから何年もその服の購入者がいない状態で困ってたんだ」
せっかく作ったんだから誰かに着て欲しいけど、元々貴族御用達の店でもないので自分の方から売り込む機会も無く、かといって修行用の服は一般人――それも子供には受けが悪い。結果、倉庫で眠るハメに。
「その獣人の子供を見た時にピンときてな。正解だった」
「でもリルが嫌がんないなんて……」
「その子がどんな生い立ちかは聞かねえが、あのボロ着、劣化が激しすぎてほとんど防御面の意味を成していなかったが、ありゃあ魔物の素材を使用したものだ。ずっと身につけていたってんなら、魔物由来の素材が無意識に気に入っていたんじゃないのか?」
「あ、そういうこと」
そういえば、たまにあるよな。
デザインは気に入ったけど、生地が肌に合わないっての。
「ありがとうございました。で、代金は……」
「普通の子供服と同じでいい。こっちとしても在庫処分ができるしな」
というわけで、無事に野生児リルの服選びは終わった。
丈夫で動きやすい素材だからリルも軽く動いてみて再度気に入ったらしい。
まぁその軽い動きが店の天井付近までジャンプしての2回転だったから、店長のオッサンも店員のお姉さんも目を剥いていたけどね。
《緊急クエスト》☆☆☆☆☆
・野生児にまともな服を着せましょう!
CLEAR!!
〇達成度:A
〇時間:D
〇報酬:S
……また変な幻覚が見えちゃったよ。
そうとう疲れてるな私。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時間は雪菜たちが服屋に辿り着いた辺りまで遡る。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
女――魔王教団幹部、顔の仮面は先程戦闘した場所から相当の距離を移動し、呼吸を整えていた。
場所は魔王教団の持つセーフティーハウスの1つ。隠蔽度の高い、顔の仮面専用と化している場所であった。
「ハァ……ハァ……なん、で。アレ、は……」
この日、顔の仮面にとって予想外のことばかりが起こっていた。
なまじ魔王教団にスカウトという形で入団してからは何も考えないように、意図して機械のように思考を放棄して行動することが多かっただけに、余りにも予想外過ぎる出来事に不慣れになっていた。
1人だけの静寂な時間を過ごしたくて普段誰も通らない道を歩いていれば、突然降ってきたのは謎の少女たち。しかも、その内の1人が真上から落ちてきたことで頭部に感じたことのない物理的な痛みを受けることになった。
さらに言えば、鈍い音・衝撃と一緒に自分の中に何かが入り込んだような感覚に襲われ、普段であればあり得ないほど状況の確認に時間が掛かってしまった。
そして、幹部の証である仮面が外れ、もっとも人に見られたくないものを見られてしまったと認識した瞬間に始まった戦闘。
一瞬で決着がつくと思われたそれは、相手が強かったこともあって仕切り直しになる事態になってしまい、そして――
「あの顔は……私?」
たまたま水たまりに映り込んだ自分の姿――正確には、最後に見たのがいつだったのか思い出せないほど遠い昔に見た顔を見たことで、脳のキャパが一瞬で限界を超えてしまった。
逃げるようにその場を離れ、今ここにいる。
「っ」
意を決したようにセーフティハウスに置いてある物品の1つ、丁度顔を映すぐらいの大きさの手鏡を手に取る顔の仮面。
「………………」
慎重に、幹部の証である仮面を外す。
この時、顔の仮面は気付いていなかったが、自分をうっすらと覆っていた白い光が役目を終えたかのように静かに消えた。
そして――外される仮面。
「あ」
一瞬見えた顔。それは間違いなく先程も見た顔であった。
「あぁ……これ、わ、私のかお――」
瞬間、鏡の中に映った顔が――グニャリと歪む。
「っ――!?」
歪みが収まったあとに残されたのは皺だらけの老人で、
また、歪む。
そこに映ったのは幼い少年で、
「ああ……」
歪む。何度も間をおかずに、何度も、何度も……
キツい目の女性が、
肌の焼けた男性が、
赤い髪をおさげにした女の子が、
糸目の若い男性が、
髪の無い老人が、
ふくよかなオバさんが、
目を引くようなイケメンが、
生意気そうな少年が、
隻眼の男が、
金髪をなびかせる美女が、
鏡に映り込む。
「アアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
――ガシャン!
耐えきれなくなったように、手鏡を壁へ叩き付ける。
顔の仮面は、ローブを深く被って床にうずくまった。
呼吸が上手くできず、空気を必死に求めて、
怯えるように全身を震え上がらせて、
まるで、助けを求める子供のように。




