プロローグ
「よっしゃ」
「おっ、一輝、ナイスストライク」
久しぶりに会った一輝と雄大は、かつての少年の頃に戻ったみたいに、はしゃいでいる。そんな二人が楽しそうに過ごしているのを、僕は少し距離を置いて眺めている。
「おい、翔太、なんだかノリが悪いぞ」
「えっ、そうかなぁ……」
思い出したように、一輝が話しかけてきて、僕は慌ててそう答える。もちろん、楽しんでいない訳ではなくて、一樹たちが他愛なく過ごしている様子を眺めているのが、昔と変わらず僕の立ち位置でもあった。
「翔太、久しぶりに三人で会わないか?」
数年ぶりの電話でそう切り出したのは、中学時代の友人の一輝だった。それぞれ別の高校に進学してからも、お互いの家が近かったこともあって、僕たちは時間を見つけては会っていた。駅前のカラオケボックスに入り浸ったり、自転車でボウリング場に出かけたりして、有り余る時間を一緒に過ごした。
だが、高校を卒業すると同時に、それぞれの生活範囲が広がり、僕たちはなんとなく疎遠になってしまった。たまに電話で「また三人で遊びに行こうな」なんて約束を交わしても、その『また』は来ないままだった。
それがどうした訳か、電話で一輝が、「今、雄大と一緒なんだよ。車で迎えに行くから」なんて言ったものだから、僕はほとんど着の身着のまま、家を出てきたという次第だった。
久しぶりに会った一輝たちは、昔とほとんど変わっていなかった。三人のうちでリーダー格の一輝、その手下のような存在の雄大、そしてそんな二人にコバンザメのようにくっついて行動する僕と、最後に会ってから七年も経つというのに、不思議にも僕たちの役回りは、当時のままだった。
久しぶりに再会して、まず向かったのが行き慣れたこの幹線道路沿いのボウリング場。すでに三人とも大学を卒業して、社会人になっていたので、かつてのように財布の中身を気にして遊ぶ必要はなかったのだが、遊ぶと言ったら自然にここに落ち着いてしまう。ここで、腕が上がらなくなるまで投げ込んで、お腹が空いたら全国チェーンの牛丼店に行って、大盛りの牛丼でも食べるのだろうか。移動手段が自転車から車に変わっただけで、やることが昔と変わらないのは、遊びのレパートリーが少ないからと言うよりも、その方が落ち着いて過ごせるからだろう。
ボウリング場を出る頃には、すっかり夜が更けていた。思っていた通り、一輝の一声で、牛丼店に向かった僕たちは、そこでその日四度目、もしくは五度目の食事を摂って、膨れたお腹をさすりながら、一輝の車に乗り込む。
「ちょっと、走ろうか」
一輝がハンドルを握るスポーツタイプの車は、そのまま街灯が申し訳程度に照らしている郊外の一本道を、ゆっくりと走る。ちょっと走ると聞いた僕は、幹線道路を隣町あたりまでドライブすると思っていたのだが、窓の外の暗闇には、見覚えのある景色がぼんやりと浮かんでいる。
そのうちに車は、広場の近くで停まった。中学校の校区の外れにある広場。
「せっかくだから、昔、やったみたいに、肝試しをしていこうぜ」
「えっ、肝試し?」
一輝の口から思わぬ言葉が飛び出して、僕はそのまま訊き返してしまった。確かに昔、ここで肝試しをやったことがあったけれど、何も今やらなくても……。
戸惑う僕をしり目に、一輝に続いて助手席に座っていた雄大までもが車から降りたので、僕は仕方なく二人の後を追った。
夜遅くとは言え、アスファルトの上は、昼間の暑さがどんと居座っているかのようで、たちまち汗が噴き出てくる。だけど、一歩広場に入れば、そこだけが空気が違っているかのように、幾分ひんやりと感じられた。いや、そう感じたのは、地面が土や草に変わったことと、僕の怖がりな性格が関係しているのかも知れない。
広場の入口付近は、かすかに街灯の明かりが届いていたが、奥に進むにつれて、暗闇が僕の身体全体を包み込んでいく。わずかに聞こえるのは、一輝たちが少し先を歩いている足音と、虫の鳴き声だけ。都市郊外の住宅街にも、まだこんな場所が残っていることが、不思議に思えた。
どれだけ進んだだろうか。記憶では、サッカーコートを何面も取れそうな、奥行きのある広場だったが……。
気がつけば、前を歩いているはずの、一輝たちの足音が消えていた。目が暗闇に慣れて、星明かりに照らされた背丈ほどの草が、わずかに風に揺れているのが見える。
「一輝、どこ?」
「雄大、どこにいるの?」
声が暗闇に吸い込まれていく。
そのとき、前方の草むらに、白いものが見えた。細長いシーツのようなもの。いや、よく見れば人だ。とっさに、一輝たちが着ていた服を思い出してみる。二人とも、白のTシャツを着ていたじゃないか。そうか、昔のように僕を脅かそうとしているのだ。きっと、一輝が言い出したのだろう。一輝が肝試しをしようと言い出したとき、雄大は何も言わなかった。妙ににやけて見えたのは、話を合わせていたからに違いない。
そうと思えば、僕の心の中から、怖さは消えていた。
「一輝でしょ。それとも、雄大?」
「……」
「もう、二人とも脅かさないでよ」
「……」
そうやって、徐々に距離を詰めていく。あと少しで、二人のうちのどちらかが着ている服に触れそうになったとき、長い髪のシルエットが見えた。
「えっ? 一輝? 雄大?」
白い顔をした女性の顔が、ゆっくりとこちらを振り向く。表情のない顔だった。
「ぎゃぁ……でっ、出た」
まるで、心霊ドラマの主人公のような悲鳴を上げる。
その瞬間に気を失ってしまったのか、次に目を覚ましたときには、自分の部屋のベッドの上に寝かされていた。




