第23話 スイス・アルパイン・マラソン
レース当日を迎えた。有難い事に天気は上々である。山を走る以上、天気は良い方が絶対的に良い。受付の際受け取った紙袋の中にゼッケンを留めるピンが見当たらず焦ったが、川又さんが予備を用意してたので大助かりだ。
準備中に30km の部に出場する日本人男子3人に会った。彼等は78kmの部と同時スタートである。川又さんとスタート地点に向う途中でひろみさんに会い、3人で記念撮影をした。心地よい緊張の中、暫くスタート地点でマラソン談義をしていたら、急に騒がしくなった。どうやらスタートの合図があったようだ。ひろみさんの応援を受けスタート。
スタートして間もなくランパンに挟んでいたアミノバイタルを落としてしまい、拾っている間に川又さんに遅れてしまった。結局レース中、二度と会う事はなかった。1kmぐらいの所で30kmの部に出場の、先程の日本人3人に会った。東京から参加の同じグループだそうだ。
町を抜けると段々とスイスらしくなってきた。30kmまでは下りがほとんどかと思っていたが、アップダウンもそれなりにある。アルプスらしい緑に包まれた素晴らしいコースである。
遠くにアルプスの高山を望みながら、渓谷あり牧草地ありトンネルあり、変化に富んでいる。川のせせらぎや小鳥の囀りも聞こえ、長閑でもある。
高山植物は美しく、牧草地に多く見られる群青色の小さな花はスイスの名花の一つエンツィアンだ。アルプスのりんどうであるが、日本でよく見られる種類よりかなり小さい。
7km あたりでコースは渓谷を左に下る。日本のレースではこのようなコースは走った事がない。暫く谷底を走った後、元の林道に戻る。大岩をくり抜いたトンネルもアルプスらしい。
30km 地点は30kmの部のゴール地点でもある。思ったより早く3時間8分で通過する。間もなくきれいな町に出た。何という町だったか聞いてはいたが憶えられなかった。
ここの駅では応援列車が待機していてくれている。駅前を通過する時、車内からの ”Hop, hop,...” の大声援に励まされた。素敵な演出である。そのすぐあと、鉄橋のような狭い橋を通過した。鉄橋に平行して走っている歩道かな⁉
(執筆にあたってAIさんの協力の元に調べてみると、この町はフィリズーア(Filisur)のようだ。駅はレーティッシュ鉄道、アルブラ線のフィリズーア駅である。大会の用意した応援列車で友人ランナーを応援している)
40km地点も4時間15分と快調に走る事ができた。どこかこの辺りから、ひろみさんが出場する42kmの部がスタートしている。
(この町はベルギュン(Bergun)である。AIさん及びひろみさんに確認した)
好調だったのもここ迄で、この後45km地点までの舗装道路の上りではふくらはぎがパンパンになった。周りのランナーの殆どが歩き始める中、頑張って走り続けたがついに限界となる。
レースらしいレースをしたのもここ迄で、ストレッチングと歩きを繰り返しながら45km地点に到着したが5時間1分かかってしまった。30km~40kmが1時間7分だったのに対して、40km~45kmは46分かかっている。この後、数km走っていよいよ本レース最大の難所、登山道に入る。
(この登山口はチャンツ(Chants)である。ここもAIさん、ひろみさんに確認した)
登山道では流石に走るのは無理で全員が歩いている。ここで、オーストリアでの連日のハイキングが生きてくる。周りのランナーよりは、まだ脚に余裕があるようだ。登山口から数km登った辺りで50km地点を通過する。判で押したようにピッタリ6時間だ。
舗装道路の上りと山の登りの5kmを59分とペースダウンしたが、この調子だと10時間が切れるのではないだろうか。最初のピークまであと少しのはずだ。残り28.5kmで4時間ある。
そのピークまで37分もかかってしまった。景色を楽しむ余裕はなく、6分ほど休憩し軽くエネルギーの補給をして元気に再出発する。
(この最初のピークがケッシュ小屋(KeschHutte)である)
一度下った後、再び緩やかに登り返す。登りの途中で55km地点を通過したが、この5kmに70分もかかってしまい10時間切りに黄信号が灯る。
気温が下がってきた。天気も怪しい気配だ。早く最後のピークを越えたい。前にいるランナーを急かしながら少しずつ順位を上げていく。
頂上ではオリンピックに関与している有名人が応援してくれていると聞かされていたがその通りで、60歳ぐらいだろうかガッチリした身体の白髪の紳士が声をかけながら、ランナー一人一人に握手をしてくれていた。
頂上付近の60kmは盛り返して7時間51分。この5kmは41分でカバー、再び希望の灯が点灯した。
有名人に握手をして貰った事だし、この後はほぼ下りで、残り18.5kmを2時間8分で走れば良い。だがしかし、眼下のコースを見ると岩だらけの難コースだ。
(この2つめのピークがセルティク峠(SertigPass)である。この有名人はAIさんによると、アドルフ・オギ(Adolf Ogi)氏のようだ。元スイス大統領であり、オリンピック精神の普及や国連のスポーツ特別顧問を務めた人物のようだ。それに、大のスポーツ好き、山好きで国民に大人気のようである)
すぐ出発する。膝に来るし走り難く再び大幅にペースダウンし、次の5kmは大誤算の56分で、65km地点は8時間48分で完全にアウト。その後、下りが緩やかになり砂利道になってペースは戻すも取り返すには至らず、ゴール迄2km少々を残した辺りで、ついに10時間が経過した。
残り1kmで舗装道路に入ったが脚の疲労は感じなく、競技場に入っても気持ちよくトラックを一周して、無事ゴールインとなった。タイムは10時間15分だった。




